いだかれた海。
光が揺れる水の中。
向かい合ってる。
日置くんが。
両手を伸ばしてきた。
指先がおいでおいでをして。
私も両手を伸ばす。
指と指の間に。
互いの指が滑り込んで。
ぎゅっとされて。
手のひらが重なる。
日置くんは。
にっこり笑って。
顎をあげる仕草をした。
手を繋いだまま。
パシャン。
海面に顔を出す。
ぶるぶると首を振って。
顔についた水を払う。
「フフ。冷たい」
「あっ、ごめんね」
あっ。
鼓動が騒ぎ出す。
目の前に日置くんの顔があって。
うつむく私。
二人の間に。
水面が揺らいで。
ボチャポチャと音を立てている。
「葉月さん」
「なあに」
「僕は、これからずるいことを言う。ずるいことも……」
「ん?」
首をかしげる私。
「僕は東京という。離れた場所に住んでる。だから、葉月さんに会いたくても会えないんだ」
「……うん」
私は。
上目遣いに。
こっそり。
日置くんを見つめた。
「動画で頑張ってる葉月さんの姿を見て、電話で声が聞けて、メッセージで会話も出来てるじゃない?」
「うん」
「それでも、今はいいって想ってた……」
あっ。
日置くんの手に力が入って。
ちょっと痛いくらいに。
ぎゅっとされる。
途端に。
心臓が。
耳元で鳴って。
呼吸も早く浅くなる。
「でも、今日、久しぶりに葉月さんの姿を見て、一緒に遊んで、このまま東京へ帰ったら、僕は後悔するって」
「何を……?」
「葉月さん、目を閉じて」
「ん? どして?」
突然の問いかけに。
意味が分からなくて。
顔を上げた私。
「どうしても」
優しい声音を残して。
笑みを浮かべた日置くん。
「うん……分かった」
そっと。
目を閉じる。
ポチャポチャ……
波の音。
ん!?
日置くんの手が。
また。
力強く握ってきて。
あっ……
唇に柔らかいものが触れる。
身動いだけど。
動けなくて
目を開けた。
間近に。
日置くんの顔があって……
キスしてる――
私。
ぎゅっと。
日置くんの手を握る。
じんじんと。
体が熱い。
腿を閉じて。
膝をこすりあわせた。
心臓が。
壊れそう。
強く。
早くて。
そっと。
離れていったぬくもり。
ぽーっとしたまま。
ただ。
日置くんを見つめていた。
「僕は。葉月さんが好きなんだ」
「……えっ!?」
吐息と共に辛うじて漏れた言葉。
「だから、付き合ってほしい。今すぐ答えなくてもいいし、嫌なら嫌って教えて」
「……あ、え、うん」
「付き合っても、そばにいられないから、僕がちゃんとするまで、この気持ちは言わないようにって、仕舞っておこうって……」
「でも、今日、葉月さんを見たら……ダメだった。ずるくて卑怯だよね」
「……」
「初めてのキスは、好きな人。葉月さんとしたかった。例え、葉月さんに嫌われても、葉月さんの心に僕を残したかった……んだ」
ポチャポチャ……
ポチャポチャ……
頭が回らなくて。
でも。
私が何か言わないと……
「えーと、その……」
「ゆっくりでいいよ。何でも話して」
「あ、うん……私ね、日置くんが、かわいいって言ってくれると、胸が変になるの。くしゃくしゃするっていうか、何でなのか分からなくて……」
「うん」
「たくさん褒めてくれたり、応援したりしてくれるの、とってもうれしいんだ」
「そっか」
「今も……ドキドキして、おかしくなりそうなの」
「うん」
「これって……好きってことなの?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない……葉月さんは、僕と今日会ってどうだった?」
どう?
そりゃあ……
「すごく楽しい。日置くんが島に来るのも楽しみだった」
「そっか。ありがとう」
「でも。そんな風に楽しいって想う人って。日置くん以外にもいたら、ダメなのかな?」
「うーん。どういう関係にもよるんじゃない」
「関係?」
「恋人同士と友達は少し違うかな」
「何が違うの?」
「一番の違いは……心だけで分かり合うのが友達。心も体も分かり合うのが恋人かな」
「心に……体?」
「葉月さんは僕とキスした時、嫌な気分だった?」
唇に感触が甦って。
そわそわしだす。
心と体。
「そんなことはないけど……初めてだったから……びっくりして」
胸がきゅーってしてきて。
なんにも分からなくて。
目から涙がこぼれていた。
繋いだ手がほどかれて。
なすがまま。
抱きしめられた私。
日置くんの胸は温かくて。
私と同じくらいの早さで。
心臓が動いていた。
「こうなるって、分かってた。葉月さんを苦しめ、傷つけるって、でも、僕は謝らないよ」
苦しいけど。
傷ついてないの。
ただ。
自分の気持ちが。
分からなくて。
ただ……
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