水中で揺らめく光
浮き輪に掴まって。
ぷかぷかしながら。
爪先がかろうじて底については離れる。
背が高い日置くんは。
平気そう。
「この辺でどうかな?」
「よし、じゃあ、せーので潜ろ」
「うん」
「せーの」
声を重ねて。
バシャン。
音が消えて。
海底に光が揺らいでいる
水をかいて。
深く潜る。
あっ。
きれいな貝殻を見つけて。
底に向かって。
手を伸ばすと。
影が近づいて。
日置くんの手が。
私の手に触れた。
ハッとなって。
息があぶくになって。
私は急いで海面に戻る。
「ばあ」
顔出して。
両手で顔を拭う。
パシャン。
近くで音がして。
「はぁ、気持ちいいね」
「あ、うん」
触れた右手を隠すように。
水の中に入れた。
「そうだ! いいこと思い付いた」
ニコニコしてる日置くん。
「え? なに?」
「潜って、にらめっこしよう」
「海の……中で?」
「そうそう。3回勝負」
日置くんは。
うんうんと。
うなずきながら。
指を3本突き立てて見せた。
「じゃあさ、じゃあさ。勝ったら、何かご褒美とかどうかな?」
「葉月さん。それ、いいね! なにがいいかな……」
うーん。
人差し指を顎に当てて。
空を見上げる。
あっ。
にっこり笑って。
両手を胸の前で合わせる。
「何か、閃いたの?」
「うん! 負けた人は、勝った人の言うことを聞くって言うのは?」
もっと。
日置くんと遊びたいから。
私が勝って。
明日も少しでも会えたらって想った。
にらめっこなら。
洋ちゃんにも。
みーちゃんや西郷くんにも負けたことないし。
日置くんは。
難しい顔をしてる。
ダメかな……
「なるほど。面白そうだね、それでやろう」
「いいの?」
「いいよ」
「やったー!」
両手で万歳をする私。
そんな私を見て。
「ダメだ……」
笑いながら呟く日置くん。
「え? やっぱりダメ?」
「違う、違う。よし、葉月さん、勝負!」
「うん。負けないもん」
「じゃあ……」
眉を上げた日置くん。
「せーの」
声を合わせて。
息を吸う。
パシャン。
じゃあ。
まずは変顔で勝負しよ。
みんなすぐに吹き出す。
とっておき。
ん?
下を向いていた日置くんが。
急に顔を上げて。
ニコって笑うと。
口と鼻から泡が吹き出して。
私は笑いそうになって。
両手で口を覆って。
海面から顔を出した。
「はぁ、はぁ……」
「僕の勝ち」
「だって、あんな顔で泡まみれになってるんだもん」
日置くんの肩を軽く押した。
一瞬。
真顔になった日置くん。
「もう、次は、絶対負けないからね」
頬を膨らます私。
だって……
「いいよ、じゃあ、2回戦」
「うん」
日置くんの顔を見て。
「せーの」
一つになった声を残して。
バシャン。
あっ。
こっちを向いてる日置くん。
よし。
私は変顔をする。
耳たぶを引っ張って。
鼻にシワを寄せて。
寄り目にして。
尖らした口から息を吐く。
あれ?
日置くんが。
動いた気配がしない。
目の焦点を合わせると。
お腹を抱えて。
ウケてる。
けど。
平気そう。
うう……
ダメだ。
「ぷはー」
息を整えながら。
顔の水を拭う。
パシャン。
「めっちゃ、かわいかった葉月さんの変顔」
「ちぇっ」
変顔もかわいいって。
どういうの?
あーあ。
負けちゃった。
「じゃあ、僕の勝ちだね」
「うん。悔しいけど……」
「じゃあ、勝った人の言うこときいてもらおうかな」
「はーい」
私は片手を挙げる。
「じゃあ……」
空を見上げる日置くん。
視線だけ動かして。
私を見つめた。
「なあに?」
私の声に。
微笑んだまま。
向き直る日置くん。
「僕と手を繋いで」
「ん?」
また。
胸がわしゃわしゃする。
「言うこと聞いてくれるよね?」
「うん……いいよ」
私は海面の上に手を出した。
「えーと。海の中で繋ごう」
「ん? 海の中……で?」
「そう」
「じゃあ、潜るよ」
パシャン!
「ちょっと……」
私は大きく息を吸い込んで。
パシャン。
海に潜った。
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