訪問者
ザー……
雨音だけに包まれた部屋。
薄明かりの中で。
ぱっちりと目は覚めた。
おでこに手を当てる。
ん?
また。
冷えピタがなくなってる。
まだ少し。
温かい気がする。
布団を捲って。
体を起こす。
だるさはまだ残ってる。
枕元のスマホを取って。
画面を見つめる。
10時46分。
うわ。
12時間も寝てた。
あっ。
お母さんからメッセージだ、
『お腹空いてたら、冷蔵庫の中にお粥入ってるから、レンジで温めて食べて』
『具合悪かったら、連絡すること』
「お母さん、ありがとう。昨日よりは楽かも」
「大丈夫そうだから、お仕事頑張ってね」
よし。
確かにお腹空いた。
とりあえず。
汗かいてるから。
着替えようかな。
ワン!
ノンちゃんの声が。
1階から聞こえて。
ガチャガチャ。
バタン。
玄関が開く音がした。
ん?
お父さん夜勤明けかな?
ベッドから足を下ろして。
体を伸ばす。
着替えのハーフパンツとTシャツ下着をベッドに置いて。
着ている服を脱ぐ。
んー。
べたつく肌。
お風呂に入りたいなぁ。
ガチャ。
!?
部屋の扉が開いて。
「あっ……」
「あっ……」
洋ちゃんが!
ん?
私を見たまま。
固まってる洋ちゃん。
「洋ちゃん来てくれたの、そこ……」
「あ、悪い」
バタン。
あれ?
扉が閉まって。
出て行った洋ちゃん。
「洋ちゃん? どうしたの? お見舞いに来てくれたんでしょ?」
「ああ、まあな」
「入っておいでよ」
喋りながら。
ハーフパンツに足を入れる。
わっ。
ドシン……
裾に踵が引っ掛かって。
尻餅をついた。
ガチャ。
「どうした?」
「へへ。転んだ」
私は座ったまま。
ハーフパンツに足を通して。
ゆっくりと立ちあがる。
ん?
「洋ちゃん座んなよ」
Tシャツを頭から被って。
袖に手を通す。
「あ、これ、カリカリくん」
たどたどしい洋ちゃん。
アイスの箱をテーブルの上に置いた。
「ふふ。ありがとう洋ちゃん」
「飯は食ったのか?」
「ううん。これから。冷蔵庫にお粥作ってくれてるから、それ食べよかなって」
「ふーん。レンジで温めるだけ?」
「うん」
「じゃあ、俺がしてくる」
「いいよ。洗濯物も持って行くから」
「あ、まあ、温めるだけだろ」
そそくさと部屋を出て行った洋ちゃん。
「もう」
頬を膨らませて。
ベッドの上の洗濯物を抱えた。
お粥を食べて。
カリカリくんも食べて。
洋ちゃんが。
冷えピタをおでこに貼ってくれた。
「とりあえず、横になっとけ」
ぶっきらぼうな言い方。
私がベッドの中に潜り込むと。
洋ちゃんは。
ベッドに寄りかかって座った。
『渦潮』をマルチプレイで遊ぶ。
一緒にボスを倒したり。
マップを探索したり。
そういえば。
洋ちゃんと。
家で遊ぶの久しぶりだな。
ほっぺが緩む。
小学校までは。
毎日のように。
遊んでたのに。
中学生になったら。
部活だなんだって。
一緒に過ごす時間が。
少なくなった。
普通にゲームを楽しめてる。
少しは元気になっかなぁ。
と。
想ったけど。
まだ。
なんか。
だるい。
「くしゅん」
時折。
くしゃみも出る。
「まだ、本調子じゃないな、鼻声だし」
「うん。ちょっとだるい」
「あのさ……」
「なに?」
私は。
ごそごそと。
体を横向きにする。
洋ちゃんは。
ベッドに寄りかかったまんま。
「葉月、その……」
「ん?」
「……好きな奴とかいるのか?」
ん?
「好きな、奴って?」
「……例えば、外村とか」
「外村くん? 好きだよ」
「え!?」
「なんで驚くの? 洋ちゃんも西郷くんも、ミーちゃんも好きだし」
分かりきってることなのに。
何を聞いてるんだろ?
「あ、いや、そういうんじゃなくてだな」
「どういうの? くしゅん」
「なんか、あれだよ、気になるっていうか、その……」
「ん……?」
気になる……?
なんだろ。
あっ……
そっと。
体を丸める。
浮かんできた顔があった。
――日置くん。
洋ちゃんの。
頭が動いて。
ふって。
笑った気がした。
「まっ、そうだな、俺も葉月のこと好きだし……みんなのことも……」
「ん?」
好き……?
もそもそと立ち上がる洋ちゃん。
「じゃあ、帰るわ。葉月の風邪振り返したら嫌だし」
体を起こす私。
「えっ? 帰っちゃうの?」
「ああ」
洋ちゃんは少し屈んで。
あっ。
おでこをくっつけてきた。
「ダメだな。まだ熱あるな、カリカリくん食べて、寝とけよ」
「……うん」
おでこが離れて。
洋ちゃんは。
にこりと笑う。
「じゃあ」
「あ、うん。ありがとう」
ガチャ。
バタン――
そっと。
おでこに手を当てた。
ん?
冷えピタ貼ってるから。
熱いなんて分からないのに……?
けど。
洋ちゃんの。
おでこがくっついた時。
じわって。
体が熱くなって。
お腹がきゅーってなった。
「くしゅん」
はあ……
もぞもぞと。
横になって。
そっと。
両手を腿に挟む。
耳の傍で。
どくん、どくん……
波打つ鼓動。
ザー……
まだ。
聞こえる雨の音。
洋ちゃん。
なんか。
変だったな。
すぐに帰っちゃったし。
それに……
好き……
か……
うーん。
「はぁ……」
大きな。
ため息が。
こぼれ出た。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




