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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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45/50

にわかに怪しく

観客席で水分補給しながら。

盛り上がる借り物競争を観戦中。

声援や笑いが混ざりあって。

少しほんわかムード。

トントンと。

私の肩を誰かが叩く。

顔を向けると。

隣に座っていた。

クラスメイトの砂上華さがみ はなちゃんが。

微笑みかけていた。

「ねぇ、葉月ちゃんさ、運動神経良かったんだなぁ、羨ましいなぁ」

「え? いいかは分かんないけど、苦手だなって想わなくなったかも。体を動かすのは楽しくなったかな」

「ふーん。そっか。あっ、そうそう動画見たよ。ダンスも上手いし、すごいなぁ」

「わっ。見てくれたの! ありがとう」

「運動が苦手な私から見たら、憧れちゃう」

「へへ。あっ。でも、華ちゃんは、ピアノ上手じゃん。歌も上手いし、私からしたら憧れちゃうよ」

「そう?」

顎を突き出すようにして。

首をかしげる華ちゃん。

「うん! 華ちゃん、小学校の学芸会でクラスで合唱した時、ピアノ弾いたでしょ? それに卒業式でも。凄いなあって想った」

「ありがとう」

少し顔を伏せて。

はにかんだ華ちゃん。


背後に人の気配がして。

「北見さ、動画出して小遣い稼ぎでもするのか?」

聞きなれない声が近づいてきた。

「ん?」

話しかけてきたのは。

林くん。

いつも一人で本を読んでる。

大人しい子。

林くんも。

華ちゃんと同じように。

小学校から一緒だけど……

話したことは……

なかったかも?

林くんは。

私の隣にしゃがみこんだ。

「ううん。私とみーちゃんのダンスの記録したりするの。練習動画とかも出したりするし」

「ふーん。まあ。今度サイン書いて」

林くんは。

前を向いたまま喋る。

「サイン?」

「まあ。先行投資だね」

「せんこうとうし?」

「今度、色紙持ってくるから書いてくれる?」

「別にいいけど、サインなんて考えてないよ」

「そうなの? ま、名前でもいいから」

「うん。いいけど……」

「ん? なんだ?」

チラッと。

こっちに顔を向けた林くん。

「林くん、普通に話すんだね」

「え? あ、ま、まあな」

バランスを崩したのか。

林くんの体がフラフラして。

地面に両手の指先をつけた。

「普段、あんまりみんなと喋らないから、びっくりした」

「そ、それは、話すのが億劫なだけで」

パンパンと。

手に着いた砂を払う林くん。

また。

前を向いたまま喋る。

「そうなの? それなのに話しかけてくれたんだ」

「ま、まあな」

「でも、話すの初めてだね。これからも話しよ」

「は? 2回目だけど?」

「え……?」

「まあ、いいよ。サイン約束だからな」

林くんは。

そう言い残して。

後ろの方に下がって行った。


うーん。

サインか。

まっ。

いっか。

でも。

林くんと。

話したことはあったっけ?

人差し指を顎に当てて。

見上げた空には。

西の方角から。

鉛色の雲が。

山の稜線から顔を出していた。



午後の部に入ってから。

さらに怪しくなってきた雲行き。

灰色が混ざった雲が。

青空を塗り潰して。

肌寒い空気が。

校舎裏の山や校庭の木々を。

ざわつかせていた。


そんな中でも。

白熱している体育祭。

白組リードで。

最終種目を迎えた。

運動会の花形。

リレー。

学年別のクラス対抗リレー。

最初は1年生から。


私たち1組。

白組は外村くん。

川窪くんのサッカー部コンビに。

陸上部の神戸かんべさん。

漫画部の津宮さん。


赤組は洋ちゃん。

野球部の速水くん。

陸上部の金子さんと。

あっ。

……中臣さんだ。


ロープに吊るされた。

紅白の旗や。

日の丸の国旗が。

ひやりとした風にはためく。

鳴り始めたアップテンポな曲に。

すっかり陽射しがなくなった校庭が華やぐ。

「位置について、よーい……」

パンッ!

一斉に四方から声援が飛び交う。

「あいつ。漫画部なのに、足早いな」

誰かの呟きの通り。

第一走者の津宮さんは早かった。

赤組の金子さんに。

10メートル以上の差をつけて。

川窪くんへバトンが渡る。

でも。

白組の速水くんの追い上げで。

その差は徐々に縮まる。


まだ。

数メートルのリードを保ったまま。

白組が先行。


けど。

中臣さんが……

早かった。

「おおっ!」

どよめきが上がるなか。

神戸さんを抜き去って。

体一つ。

中臣さんが前に出た。


洋ちゃんへとバトンをつな……

あっ!

中臣さんが。

前につんのめって。

派手に転んでしまった。

異変に気づいた洋ちゃん。


そのすきに。

アンカーの外村くんに。

バトンが渡る。


中臣さんは。

腕を伸ばして。

バトンを洋ちゃんに渡そうとする。

うなずいた洋ちゃんは。

すぐさま駆け出した。


中臣さんは。

地面に手をついて。

立ち上がって。

歩こうとしたら。

どこか痛そうに。

体を屈めた。


「わーっ!」

歓声が。

風に乱れる。

洋ちゃん。

巻き上がる前髪。

たなびく赤いはちまき。

必死の形相で。

外村くんを追いかける。

カーブにさしかかった外村くん。

内側に体を傾けて。

大きく腕を振る。


あっ。

洋ちゃんが。

外村くんの後ろにぴったりついた。

カーブが終わって。

外側に出た洋ちゃん。

外村くんを抜きにかかる。

盛り上がる声援。


私は。

握りしめた右手を。

そっと。

左手で包んでいた。


「外村くんがんばれー!」


次の瞬間。

外村くんが。

わずかに。

加速したように。

見えて――


両手を挙げて。

ゴールテープを切ったのは。


外村くんだった。

リレーに出たみんなに囲まれて。

祝福を受ける外村くん。

ふいに。

私たちの方に向いて。

バトンを高々と掲げた。


私は。

満面の笑顔の外村くんや。

リレーの選手たちに。

両手を挙げて。

拍手を送った。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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