鮮烈に訪れて
夕凪島にあるもう一つの中学校。
土庄中との練習試合。
恒例行事の一環なんだという。
俺たち1年生部員6人は。
先輩達の試合の後。
控えメンバーと2試合目に臨む。
相手も1年生が主体らしい。
大体。
先輩。
後輩も。
サッカーをやってる奴とは。
顔見知り。
でも。
土庄中のメンバーに。
初めて見る顔が一人いた。
しかも。
女の子。
上下白のユニフォームから伸びる。
少し日焼けした長い手足。
跳び上がる度に。
ポニーテールが。
空気にじゃれていた。
背番号は『20』。
周りにいる男子と。
身長は変わらない。
「三並、女がいるぞ」
小学校からのサッカー部仲間。
ゴールキーパーの川窪が耳元で囁く。
「だな。でも、今まで会ったことないよな?」
「転校生らしいよ」
中臣さんが。
傍によってきた。
「えーとね。武田穂乃花さん。私たちと同じ1年生。ポジションは中盤。右利き。3月に埼玉から引っ越して来たんだって」
「調べたの?」
「うん。なんか噂になってて、サッカー女子が島に来たって」
「え? そんな噂知らねーけど」
川窪が首を捻る。
確かに耳にしたことはない。
「そりゃあ、ないと想うよ。男の子は噂とか興味ないでしょ?」
「じゃあ、これ試合始まるまでに見といて三並くん」
中臣さんは。
メモ帳を差し出した。
「何これ?」
「後で、返してくれたらいいから」
中臣さんは。
後ろ手に。
首をかしげて微笑む。
「じゃあ、今から見とく」
「うん、じゃあ後で」
唇をかみながら。
きれいな回れ右をして。
一つに束ねた髪を。
左右に揺らし。
弾むように。
外村たちのとこへ歩いていく。
「なんだ、そのメモ帳」
「わかんねーけど……」
表紙には。
サッカーメモ。
としか書いていない。
ページをめくる。
ん?
そこには土庄中に関する情報が。
何ページにも渡って書かれていた。
チームスタイル。
選手の特性。
「これすごくない?」
川窪が顔を寄せてくる。
「確かに……」
ちょうど。
あの女の子のことが。
記されているページだった。
中臣さんが口頭で。
教えてくれた以外に。
いくつか記述がある。
不確定情報として。
両足蹴れるかもしれない。
女子サッカー界隈では。
将来を嘱望されている逸材。
高松の女子チームに所属するみたい。
中学の部活は練習のみ参加。
公式戦は不参加?
なるほど。
「よし! 行くか」
そして――
スコアは5ー0での大敗。
攻守の全ての起点は。
あの子。
武田穂乃花だった。
しかも。
中臣さんの情報通り。
両足蹴れた。
右利き想定で。
消しにいったパスコース。
あっさりかわされて。
左足で背後を通された。
試合終了後。
対戦相手の俺たち選手全員に。
握手をして回っていた武田さん。
「ありがとうございました。あなたトラップ上手いね」
そう言っていた。
「すまん、潰された」
みんなの前で謝るフォワードの外村。
「いや、仕方ない。俺もやられた、あの20番に。コース消されて。挙げ句にボール取られたし」
「ショート、男のキックより強かった。手弾かれて。痺れたよ」
手首を触る川窪。
中学最初のゲーム。
練習試合とはいえ。
出だしは最悪。
俺を含め。
外村にしろ川窪にしろ。
正直。
先輩達より上手い自信はある。
相手をなめてた訳じゃないけど。
「外村、川窪、この仮は夏の大会で返そう。それまでにレギュラーつかむぞ」
小声で2人に囁いた。
悔しさが残る心とは裏腹に。
清々しい空が横たわっていた。
部活が終わって――
お菓子を買い込んだ俺は。
チャンピオンズカップの試合を観戦するため。
かねてからの約束通り。
中臣さんの家に来ている。
なんか。
白やピンク色に包まれた室内は。
葉月の部屋と違って。
いい匂いがする。
ふーん。
中臣さん。
バレエやってたって言ってたけど。
ジュニアの大会で優勝してるんだ。
洋服ダンスの上に賞状飾られていた。
「お待たせしました」
ケーキを取りに行ってた中臣さんが戻って来て。
ん?
黒のタンクトップに。
水色のミニスカート。
何で。
そんな格好なんだ?
葉月なら。
俺みたいに。
Tシャツに短パンだけど。
中臣さんは。
片手でスカートを押さえながら。
俺の隣に腰を下ろして。
ショートケーキを俺の前に置いた。
「ありがとう」
「じゃあ、録画した試合見よう。私もね三並くんにならって、試合結果知らないの」
「そ、そっか」
露な太ももが。
近くて。
黙ってケーキを口に運んだ。
だけど。
試合が始まってしまえば。
俺はサッカーに集中する。
試合は白熱のシーソーゲームだった。
両チームの選手の動きは勉強になる。
ボールタッチの上手さや。
パスを受ける体の向き。
キックの正確さ。
視野の広さ。
中臣さんも。
メモを取りながら。
集中していた。
一試合目の90分は。
あっという間で。
「すごかったね。ミュンヘンのオーリエ選手とかパリのベチー……」
「ベチーニョ?」
「そうそう。みんな上手いんだけど、この二人はなんだろ、画面のどこにでもいた」
「そうだね、攻守に顔を出してるから。サボらないんだよ。すっげえ選手なんだけど」
「なるほどね……」
いそいそと。
ペンを走らせる中臣さん。
もう一つの試合。
ロンドン対マンチェスターのイングランド対決。
試合はスコアレスドロー。
でも。
攻守に渡り。
死闘を繰り広げた試合内容は。
十分面白いものだった。
「サッカーって、点が入らなくてもドキドキするんだね」
試合を見終わった。
中臣さんの感想は的を射ていた。
「そうだね。もちろん勝つことが重要だし、ゴールシーンは盛り上がるけど、そこまでのプロセスが面白いと思えるのって、中臣さんは観戦力がすごい」
「そう? 嬉しいかも。ありがとう」
「いや、すごいよ。努力してる。勉強してるって分かる」
「褒めすぎだよ。三並くん。楽しかった。けど。なんか熱いね」
そう言って。
中臣さんは。
タンクトップの胸元を握って。
パタパタと扇いでいる。
葉月と同じ仕草に。
思わず笑いそうになる。
視線が落ちて。
やべっ……
白い下着が見え隠れした。
「あ、あのさ、バレエ上手だったんだね」
何気なく。
口にして。
飾られている賞状に目をやった。
「ああ。小さい時ね。それに小さな大会のだよ」
「いや、どんな大会でも、優勝には変わりないよ。だって、頑張った証明じゃん」
「え?」
体を後ろに反らせて。
目を丸くした中臣さん。
「ん?」
「ううん」
首を振って。
顔を伏せた中臣さんは。
手でおでこを拭いていた。
「どうしたの?」
「汗が目に入って……」
「そっか、それ痛いよね」
「へへ……」
うんうんと。
うなずいて。
「はぁ……」
大きな吐息と共に。
鼻をすすって。
顔を上げた中臣さん。
よほど。
痛かったのか。
赤い瞳は潤んでいた。
「大丈夫?」
「うん。平気。ねえねえ、もっと教えて欲しいな」
「いいよ。サッカーのことならなんでも」
「それもあるけど……」
「なに?」
「三並くんのことも、知りたい」
「え……!?」
中臣さんは。
腰を上げると。
俺に向かって。
座り直した。
「わ、私、三並くんのことが……好きです。その、付き合って欲しいです」
「え……?」
思考が止まって。
何も答えられなくて。
ただ。
目の前で。
笑いながら。
涙を拭い始めた。
中臣さんを眺めていた。
お読み下さりありがとうございます。
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