声の向こうの笑顔
ベッドの上で。
壁に寄りかかり。
握りしめた。
スマホの画面を見つめている。
あと。
1分。
肩で大きく息を吸って。
ゆっくりと吐き出す。
もぞもぞする唇を。
ぐっと。
結ぶ。
ブルル……
あっ。
来た。
そっと。
画面をタップして。
耳元にスマホを添える。
『こんばんは』
明るい声色が。
耳に飛び込んできた。
「こんばんは」
『ハハハ、葉月さんだ』
爽やかに笑う声。
当たり前のことなのに。
何がおかしいのかな。
って。
笑ってる私。
「えへ。私だよ」
『いや、そうなんだけどね。葉月さんの声聞けたからさ、しかも動画と電話で2回も!』
声のトーンがあがって。
ふふふ。
笑ってるのかなって。
分かる気がする。
「私の声なんて普通なのに」
『そうかな? 少なくとも僕には……』
「ん?」
『笑顔の元かな、なんて』
「確かに、そうかもね。さっきからずっと笑ってるよね」
『え?』
がさがさと。
何かが擦れる音。
『どっかで、見てるのかと想った』
「ハハハ。見てない、見てない」
『フフフ。そうそう、電話したのはね、直接、ダンスの感想を伝えたくて』
「そうなの? メッセージくれたのに」
『本当にダンス上手。動画のおかげで島にいる気分にもなるし、毎日葉月さんに会える』
「えへ。あ、その、ダンスしようって想ったのね、あー、日置くんのおかげなんだ」
『えっ? 僕の?』
「うん。あの日、神舞踊ってたの見られて、その、褒めてくれたでしょ?」
『褒めたっていうか、本当に上手だなって想っただけだよ。そうそうあの服、とても似合ってたし、すごくかわいいね』
ひゃっ。
「あ、ありがとう」
膝を抱えていた腕に力が入る。
『あの服は自分で選んだの?』
「うん。お母さんが買ってくれたんだ」
『そっか、葉月さんはセンスがあるんだね。自分に合った服を選んだりする』
「そう? ただ、かわいいなって選んだだけだよ」
『それが、センスだよ。はみんぐって名前もかわいいね。2人の雰囲気に合ってる。2人で考えたの?』
「うん。みーちゃん……瑞葉ちゃんといろいろ考えて、この名前は私がね、閃いたんだ」
『そうなんだ。名前の由来とかあるの?』
「私とみー……瑞葉ちゃんの名前を合わせたの」
『葉月さんとみずはさん。頭文字を取ったんだ。なるほどね。ところで、普段はみーちゃんって呼んでるの?』
「うん。そうだよ」
息を飲む音がして。
『じゃあ、はーちゃんだ、葉月さん』
「え、あ、うん」
初めて耳にした。
違う音の。
はーちゃん。
ちょっぴり。
おかしい。
『はーちゃんか、かわいいなぁ』
「そ、そう?」
『うん。ああ、早く夏休みにならないかな』
「ふふふ。まだまだあと2ヶ月もあるよ」
『そうなんだよね。でも、今日の動画を見て元気もらったし、毎日顔見れる』
「そんなに、喜んでもらえて、嬉しいな」
『僕もリハビリ頑張るよ、はーちゃんもダンス頑張れ!』
「もう、日置くん。止めてよ、おかしいし」
日置くんが言う。
はーちゃんが。
やっぱり。
ぎこちなくて。
お腹を抱えて笑っていた。
『じゃあ、話してたいけど、遅くなるといけないから、またね』
「あ、うん……またね、ありがとうね日置くん」
『こちらこそ、じゃあ、お休み葉月さん』
「はい。お休みなさい」
ツー、ツー……
画面に映し出された。
23分の通話時間。
「はぁ……」
スマホをお腹に挟んで。
抱えた膝に。
顎を乗せる。
私も。
話していたかったな。
なんか。
わしゃわしゃするけど。
笑ってるんだよね。
ダンスも。
服も。
褒めてくれて。
かわいいって。
きゃは。
色んなとこが。
むずむずしてきて。
体を揺すったら。
スマホが脇に落ちた。
そうだ。
スマホを手にして。
YouTubeのアプリを開く。
えーと。
わっ。
登録者もグッドボタンも増えてる。
ついたコメントを流しみる。
『ショートが似合うなこの二人』
『楽しそうで、元気もらえました! 頑張ってください!』
『かわいいなぁ。おじさんはずっと眺めていられる』
『元気一杯! ご飯も進む』
『wow! cute girls! what's a performance!!』
『すげぇ……惚れるわ』
『nice』
『私もダンス動画あげてます、良かったら見に来て下さい。お互い頑張りましょう』
『なんか。愉しそうなのがいい』
ん?
新しいコメント。
『お互い、やりたいこと頑張ろう!このダンスを見て僕もサッカー頑張るよ!』
名前は……
ゆーちゃん。
あっ。
日置くん。
かな。
そっと。
コメントのグッドボタンをタップした。
コメントへの返信はしない旨を。
概要欄にて。
予め断りをいれている。
ピコン。
ん?
みーちゃんだ。
『はーちゃん。なかなかの反響でしたね』
『次のダンスは中間テストが終わった頃ですかね?』
『でも、練習動画をショートで投稿するのもいいと思いませんか?』
「ふふふ」
連投のみーちゃん。
えーと。
「そうだね。動画投稿して良かったよね。そうそう、西郷くんのお父さんがコメント一番乗りだったでしょ?』
「ダンス動画はそのくらいがいいかも、テストがあるから練習あまり出来ないよね? でも、ショート動画賛成!!」
「次のダンス何がいいかな? お互いに候補考えとかない?」
「そしてさ、月曜日の放課後に話そうよ」
『見ましたよ。西郷パパですよね? ありがとうですね』
『はーい。私も考えますね』
『そうそう。日置くんは何か言ってましたか?』
へ?
急に出てきた名前。
日置くんの。
笑い声が。
呼び起こされた。
「私も、みーちゃんもダンス上手だねって。喜んでくれてたよ。頑張ってって」
『そうですか。良かったですね。あれ? はーちゃん、にやけてますよ』
へ!?
ビクッとして。
肩が上がる。
視線だけで。
部屋を見回す私。
「もう。みーちゃん。にやけてないよ。ぷんぷん」
『はいはい、ぷんぷんもかわいいですよ。じゃあ、おやすみ、はーちゃん』
もう。
なんだろ。
「うん。みーちゃん、おやすみ」
別ににやけて……
ほっぺが痛い。
かも。
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