余波
日が延びても。
西側に山が連なる福田の町は。
夕暮れが早いような気がする。
日陰の町並みを。
家の窓の桟に腰かけて。
ぼんやりと眺めている。
動画投稿の時間まで。
あと。
少し。
自然と。
何度も。
視線が向く。
斜向かいの家。
2階の窓は。
閉まったまま。
「ワン」
ノンちゃんが。
私の足元で。
舌を出しながら。
お座りをして。
こっちを見つめていた。
私は。
自分の膝をポンポンとたたく。
ノンちゃんは。
ぴょこんと。
飛び乗って。
私の顔を。
ペロペロと舐める。
「はいはい、ノンちゃん。くすぐったいよ」
ノンちゃんの頭と背中を撫でると。
鼻を鳴らして。
丸まった。
あったかさが。
腿にじんわりと広がる。
ピコン。
ん?
ノンちゃんを押さえて。
少し屈んで。
腕を伸ばして。
机の上のスマホを手に取った。
外村くんからだ。
『ダンス動画見たよ! 北見さんも東園さんも上手過ぎてびっくりした!』
『チャンネル登録もしたし、グッドボタンも押した! コメントもしたからね! トムトムが僕だから』
『また、見てくる!!』
わっ。
「動画見てくれて、ありがとう。後でコメント見とくね、トムトムって、かわいい名前」
よし。
にんまりな私。
ピコン。
あっ。
スマホの画面に映し出された名前に。
スッと。
背筋が伸びる。
『葉月さん、こんにちは。めちゃくちゃダンス上手い! 一緒に踊ってる、みずはさんとも息ピッタリだね』
『繰り返し見てる。この曲も好きになる。ありがとう、知らせてくれて!』
なんか。
くすぐったいような。
気がして。
胸をさする。
えーと。
「日置くん、ありがとう。何度も見てるの?」
『もう3回見たよ! やばいね。ずっとリピート出来る。あのさ、後で電話してもいい?』
ひゃっ。
そっと指を動かす。
「うん。いいよ」
『21時頃でも平気?』
「うん。じゃあ、お風呂入って待ってる」
『分かった、じゃあ後でね』
「うん。じゃあね」
いつの間にか。
騒がしくなった鼓動が。
耳のそばで響いていた。
「ふぅ……」
息を真上に吹き出して。
前髪を揺らした。
まだ。
21時まで。
時間あるもんね。
そうだ。
スマホの画面を操作して。
YouTubeの画面を開く。
わっ。
再生数。
300回も回ってる。
登録者も24人に増えてる。
チャンネルは。
みーちゃんのお母さんが作ってくれたアカウントだから。
24人の内。
私とお母さんとお父さん。
みーちゃんとみーちゃんのお父さん。
栞お姉ちゃんと聡お姉ちゃん。
西郷くんとそのご両親。
10人は初期から登録されていたから。
14人増えたことになる。
えーと。
トムトムだっけ。
外村くんのコメントを探す。
あった。
『二人とも、ダンス上手で、服もおしゃれで、かわいい!! これからも、応援してます』
わっ。
おしゃれだって服。
かわいいって。
頬がゆるゆる。
他のコメントも目に入る。
『なんだ、この子たち、かわいいんだが』
『二人の服も、二人もかわいい。ダンス歴0歳なのね。頑張れ!』
『かわいいでしょ。かわいいですね。これは』
ん?
西郷パパ?
西郷くんのお父さんだ。
『ファン一号、コメントも一番! 二人とも頑張れ!!』
「ハハ……」
私の声に。
耳をピクリと動かすノンちゃん。
「ノンちゃん。私たちのダンスを喜んでくれる人がいるのって、不思議だね」
「ワン」
「次のダンスも頑張ろう」
「ワン」
ムクッと。
頭を上げたノンちゃん、
「ノンちゃんをも踊ってみるー?」
両手でノンちゃんの顔を挟んで。
顔を近づけた。
ノンちゃんの温かい舌が。
私の顎を舐め回した。
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