レッツダンス
いよいよ。
待ちに待った。
動画投稿する日がやって来た。
午前中。
公民館で。
みーちゃんと最後の練習。
それと。
栞お姉ちゃんが。
練習に付き合ってれて。
しかも。
動画撮影もしてくれることになった。
この日のために。
お母さんに買ってもらった。
白地のカットソーと。
ホワイトデニムのショートパンツ。
身につけたら。
それだけで。
にやにやしてきて。
みーちゃんは。
私の姿を見るなり。
開口一番。
「お尻のポッケと胸のハートのデザインいいですねぇ。はーちゃん。やっぱりかわいいです」
そう言ってくれた。
みーちゃんは。
オレンジのカットソーに。
オリーブ色のホットパンツ。
送ってくれた画像よりも。
なんか。
お姉さんっぽくて。
カットソーが。
体にフィットする感じだからか。
同じくらいの身長なのに。
しゅっとして見えた。
「みーちゃんも服もかわいいね。それに、きれいかも」
「ありがとう。はーちゃん。そうですかね? はーちゃんの方のが大人っぽく見えますよ」
「え? へへ。そうかな」
「おっ、二人ともいいね、かわいい。少し背伸びした、素朴な女の子みたいで」
腕組身をして。
私とみーちゃんに。
交互に目をやる栞お姉ちゃん。
「それに『はみんぐ』って、ユニット名もシンプルでいいと思う」
両手の親指を立て。
微笑んでくれた。
今日踊る。
『かわいいでしょ』は。
女性5人組のアイドルグループ『フロイライン』のヒット曲。
上体や手の動きがメインで。
足のステップはさほど難しくない。
一番の見せ所。
サビの部分だけ。
5人それぞれの振りがあって。
そこは。
みーちゃんと私で分担して踊る。
夢中で体を動かして。
踊ってる間。
すっごく楽しくて。
時間が。
瞬く間に溶けていく。
栞お姉ちゃんは。
ダンスのことや。
動画撮影のこと。
たくさんアドバイスしてくれた。
「2人はダンスが好きだって、表情や踊りから伝わるし、何よりも楽しそうなのがいいね」
「今すぐじゃなくてもいいけど、音楽や歌詞を意識して、感情を表情や振り、視線や動かない時とかに意識して表現するといいよ」
「動画を撮る時、私もやってるんだけど、夕凪島って、きれいな風景が、そこらじゅうに転がってるでしょ? だから、景色のいい場所や、観光地とかで撮影したらいいと思う」
「それから、2人のダンスの成長記録にしたいってことだけど、そうだな、学校生活に支障がでない頻度で投稿は続けた方がいいよ。見てくれる人が増えるから」
「それこそ、練習動画でもあり。ただ、応援してくれる人ばかりじゃないからね。バカみたいなコメントしてくる人もいる」
「そんな時は、お互いに支え合う。両親や私でもいいから、相談すること」
こんな感じで。
みーちゃんは。
せっせと。
スマホにメモを打ち込んでいた。
柔らかな風が抜ける。
近所の小さな砂浜。
大きな空と。
凪いだ水面を背景に。
潮騒の音は。
敢えてそのままに。
動画撮影開始。
海を背にして。
みーちゃんと並んで立つ。
私は左側。
「じゃあ、さっきの手順で」
栞お姉ちゃんが。
片手を挙げる。
「はい!」
みーちゃんと揃う返事。
隣を見ると。
みーちゃんと目が合って。
笑顔が弾ける。
「撮るよ!」
栞お姉ちゃんの声が。
風と波に溶ける。
私は。
背筋を伸ばして。
大きく息を吸って。
にっこり微笑む。
「ダンス歴、0歳の葉月です」
「ダンス歴、0歳の瑞葉です」
「せーの。ダンスユニット『はみんぐ』です」
2人息を合わせて。
決めポーズ。
みーちゃんと。
半身で抱き合って。
左目を閉じて。
左手を頬に。
左膝を曲げる。
姿勢を正して。
みーちゃんと手を握る。
「まだまだですが、好きなダンスを二人でたくさん踊っていきます、よろしくお願いします」
「今日は『フロイライン』の『かわいいでしょ』を踊ります。楽しんでもらえたら、嬉しいです。あっ、高評価とチャンネル登録もお願いしますねぇ」
みーちゃんと微笑みを交わして。
手を離す。
口を結んで。
よし。
頑張る。
栞お姉ちゃんが。
そっと。
片手を挙げて。
軽快なメロディが流れ出す――
体も動き出す。
笑顔を絶やさず。
表情も。
少し意識しながら。
踊る。
緊張より。
楽しくて。
楽しくて。
あっという間の3分半。
「はーちゃん、どうでした?」
「楽しかった、ちょっと失敗したかもだけど」
「私もです」
「いや、全然良かったよ。最初から完璧過ぎたら、成長記録にならないし、今の初々しさは、同じように出ないと思う。とりあえず、一回見てごらん」
私とみーちゃんで。
栞お姉ちゃんを。
挟むようにして。
しゃがみ込んだ。
スマホの画面の中で。
私なんだけど。
私じゃない私が。
空と海の間で。
元気いっぱい踊っている。
「お世辞抜きに、2人はセンスあるよ」
「本当ですかぁ?」
「瑞葉ちゃん。私はお世辞とか言わないよ。私の師匠もそうだったからね」
「じゃあ、栞お姉ちゃんは、私たちの師匠です」
「ハハハ、師匠か。私が? まっ、いいけど、まずは自分たちが、頑張ることだよ」
「はい」
また。
私とみーちゃんの声が。
ぴたりと収まる。
「ハハハ、いや、その息、その息」
栞お姉ちゃんは。
私とみーちゃんの。
肩を抱いて。
ぐっと。
引き寄せた。
そうだ。
私はスマホを手に。
日置くんにメッセージを送る。
「こんにちは。こないだ話した、ダンス動画。今日の17時に投稿します。リンクのチャンネルから見てもらえたら……」
はっとして。
指が止まる。
続きを。
嬉しい。
って。
そう。
打とうとしていて。
でも。
指を動かして。
続きを打ち込んだ。
唇をかんで。
髪を耳にかける。
外村くんにも。
メッセージを送る。
「こんにちは。今日の17時にダンスの動画を、リンクのチャンネルで投稿するから見てね!」
頬を膨らませて。
息を吐く。
そして。
洋ちゃんにも送る。
「今日、リンクのチャンネルで、みーちゃんと踊った、ダンスの動画が、17時に投稿されるから見てね!」
よし。
「はーちゃん、ニコニコしてますね。三並くんにお知らせですか?」
「あ、うん。洋ちゃんと、外村くんと日置くん」
「日置くん……?」
「あっ……」
とっさに。
スマホを抱きしめていた私。
「あ、あの向かいの家にいた男の子ですか?」
みーちゃんは。
顔を近づけてきて。
大きな瞳で。
私の目を。
ジーっと。
見つめる。
「……うん、そうだよ」
「なるほど」
スーっと。
みーちゃんの顔が。
離れて。
人差し指を頬に当て。
宙を見つめて。
首をかしげた。
「ん……? どしたの?」
「ああ、何でもないですよ」
肩をすくめて。
みーちゃんは。
微笑んでいた。
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