微笑み
「じゃあね」
私は洋ちゃんと瑞葉ちゃんに小さく手を振る。
「おう」
「後でね」
二人は1組。
私と西郷くんは2組。
中学ではじめて。
洋ちゃんとクラスが離ればなれになった。
仕方のないことだけど。
ちょっぴりつまんない。
窓際の真ん中が私の席。
やたらと広い校庭が一望できる。
砂埃を巻き上げたその向こう。
家の屋根より高く。
鯉のぼりたちが泳いでいた――
窓の外から。
柔らかな風に乗って。
賑やかな声が聞こえてくる。
何気なく目をやると。
1組が体育祭の二人三脚の練習をしていた。
視線は洋ちゃんを探して。
すぐに見つける。
眩しそうに手をかざしている。
そばに駆け寄って来た女の子。
中臣さん……
学年で一番きれいな子。
なんか恥ずかしそうな洋ちゃん。
!
中臣さんとペアなんだ。
洋ちゃんがしゃがんで。
二人の足首にひもを巻き付けて。
あっ!
背筋が伸びる私。
手握った……
「……北見」
ビクッ!
先生の声。
「北見、続き読んで」
「あっ! はい」
ガタッ。
椅子をならして立ち上がる。
教科書を持って。
やばい。
分からない。
ん?
小さくささやく声。
右隣の机の上。
ノートの端に14ページと書かれていた。
私は咳払いをして。
教科書のページをそっとめくって。
読み上げる。
「じゃあ、次を中村……」
私は息を吐きながら。
ストンと椅子に腰かけた。
「ありがとう」
隣の外村くんをチラリと見た。
外村くんは、教科書に視線を落としたまま。
右手でピースをした。
私はぺこりと頭を下げる。
「きゃー! わー!」
風に聞こえる、はしゃぎ声が気になって。
編み込んだ髪を訳もなく撫でている。
なんだろ。
このわしゃわしゃする気持ち。
洋ちゃんが他の女の子と手をつないだだけなのに。
なんか。
洋ちゃんでれでれしてて。
そりゃあ。
中臣さんなら私でも緊張するかもだけど。
むずむずして。
私は腿の間に両手を挟んだ。
背筋を伸ばして。
視線を投げた校庭。
すぐに見つけた洋ちゃんと中臣さん。
二人ともニコニコしてて。
ちぇっ。
私はそっぽを向いた。
それから、授業に集中できないまま。
キーンコーン、カーンコーン……
チャイムが鳴った。
私はため息を落として。
ぱんっ。
教科書を閉じた。
ぎーっ……
外村くんが席を立つ。
「あっ、さっきはありがとう」
「ああ、別にたいしたことじゃないし」
「ううん。助かった」
「あのさ……」
「ん?」
「その……なんかぼっーとしてたけど、具合悪いの?」
「ん? ううん。大丈夫だけど」
「そ、そう、じゃあ、トイレ行くから」
外村くんは首の後ろを手でさすりながら歩いていった。
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