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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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29/48

え?

ベッドの上で。

膝の上にあごを乗せて。

丸くなっている。

夕食の時。

お父さんとお母さんが。

話していたことを聞いてから。

食事中も。

お風呂の時も。

そして。

今も。

ずっと。

頭から離れない。


それは――


「梶川さんのお孫さん大変だったらしいな?」

「そうなのよ。何でも、昨日の夜に神社の裏山に入って。足を滑らせて落っこちて。救急車呼んだそうよ」

え……?

口に運びかけた。

箸の手が止まる。

「そうか。なんで山になんか行ったんだろうな。あんなとこ何もないのに」

でも。

彼は苗字は日置。

おちょぼ口に。

ご飯を運ぶ。

「それは分からないけど、足首とか骨折して。お孫さんサッカーしてるみたいで。梶川のおじいちゃんがこっぴどく怒ったそうよ」

ん?

骨折?

え……?

「サッカーか。まあ、足を使うからな」

「ええ。でもお孫さんジュニアの日本選抜に選ばれそうだったんですって。それがケガで棒に振る形になったって」

お茶碗と箸をそっと置いた。

「それってさ、日置くんのこと?」

「あら、葉月、お孫さんと会ったことあるの?」

「え、うん。でも苗字が違うよね」

「ああ、それは、孝道が、えーと、そのお孫さんのお父さんが、日置家に婿入りしたからだな」

「そっか……」

どうしよう……

私が神社のこと教えたから……

彼は……

「どうしたの葉月? 顔真っ青よ。気分悪いの?」

「え? ううん。大丈夫だよ」

お箸を手にして。

ミートボールをつまんで食べた。

美味しいはずなのに。

味が分からなかった。


――そうなんだ。

私が神社のことを教えたから。

彼はケガしちゃって。

頑張ってたサッカーの。

日本の選抜に。

選ばれたかもしれないのに。

ダメになっちゃった……

どうしよう。

おでこを膝に擦り付けて。

ぎゅっと。

腕に力を込めて。

足を引き寄せた。

でも――

どうして。

あの時。

正直に言わなかったのかな。

でも――

謝らないと……

お腹に挟んだ。

スマホを手に取った。

小さく息を吸って。

文字を打ち込んでいく。

「日置くん。ごめんなさい。私のせいでケガしちゃって。本当にごめんなさい」

何度も。

読み返して。

さっと。

送信ボタンを押して。

スマホをお腹に挟んで。

また。

丸くなる……


プルル……

プルル……

着信にビックリして。

スマホが脇へ滑り落ちた。

おそるおそる手に取って。

見つめた画面。

あっ。

彼からだ。

どうしよう……

怒られるかな。

でも。

今メッセージ送って。

電話に出ないのって。

もっとダメだよね。

そっと。

通話を押して。

髪を耳にかけて。

スマホを耳元に持っていく。

『もしもし? 北見さん?』

少し低い声。

ドクン。

と。

心臓が泣き出す。

「はい。あの……」

『ちょっと待って。とりあえず話を聞いてくれるかな?』

「はい」

『じいちゃんかな余計なこと喋ったのは。まあ、それは置いといて』

『北見さんのせいじゃないから。これだけは勘違いしないで。いい?』

「でも……」

『僕が北見さんの忠告を無視して、聞かなかったから。君は何度も止めなと言ってくれたでしょ?』

「でも、私が教えなければ、そもそも行かなかったでしょ?」

『それも違う。行こうとしたのは僕なんだ』

すーっと。

大きく息を吸う音がして。

『長くなるけど聞いてね』

ゆっくりとした話し方。

「……うん」

『どこから話そうかな……』

『そうだな、北見さんにケガのことを嘘を付いたのは、僕の誤りだったごめん。正直に言っとくべきだった』

『現にこうやって北見さんは、感じなくていい責任を感じてしまったわけだから。嘘付いてごめん』

『それと、どこまで聞いたか分からないけど。ケガは軽度の骨折。全治までは約2ヶ月』

『サッカーのこととか聞いた?』

「……うん」

『もう、じいちゃんお喋りだなぁ。えーと。選抜は候補に選ばれただけなんだ。その中からまた選抜があるんだ』

『でね。サッカーにはケガは付き物なんだ。それに、このくらいで諦めないから僕は』

『これくらいかな話すことは。北見さんごめんね。辛い想いをさせてしまった』

「ううん、そんな……謝らないで。私にだって、教えた責任はあると想う。ついて行けば良かった」

『え? ハハハ。北見さんは優しいんだ。でも、女の子が出歩く時間じゃないよ』

「そう、だね。多分、お母さんに怒られる」

『そうだよ』

笑いを含んだ声。

もぞもぞと。

足を崩して。

ぺたんと座り直す。

「あの、聞いてもいいですか?」

『もう、聞いてるよ』

「えへ。ああ。ふふふ」

なんか。

みーちゃんの返し方と。

おんなじで。

ちょっと。

気が抜けて。

少しだけ。

大人しくなる心音。

『ハハハ。良かった笑ってくれた』

耳に届く大きなため息。

私は片手を腿の間に挟んだ。

「港で、言いかけたこと、何だったのかなって」

『ああ、あれは……一緒に写真撮りたかったんだ』

「え!?」

『余りにも北見さんがかわいくて。髪型も服も、北見さんも』

ひゃっ。

腿で手をぎゅっと挟む。

せわしくなる鼓動。

『でも、自分の格好見たら北見さんに釣り合わないなって』

「そんなこと……言ってくれたら良かったのに」

『え!?』

裏返った声に。

クスクスと笑いが込み上げる。

「写真くらいなら……」

『本当に? うわーまじか。ダメかと想ってたから。うわー。今から島に飛んで行きたい気分だよ』

「ふふふ。飛べないよ」

『良かった。嫌われてるかなって想ってたから、その言葉が聞けただけで、空も飛べる』

「え? 嫌われてって、そんな風には想って……ないよ」

『そっか。ごめん。勝手に想ってただけだから。でもさ、北見さんの声もかわいい』

「ひぇ!?」

ビクッとして。

膝を立てた。

ずきん、ずきん……

心臓が頭で響き出す。

呼吸が早くて。

息が詰まる。

『ハハハ、今のもかわいいなぁ』

「……」

『誤解は溶けたかな? 自分を責めないで。僕は後悔してないから』

「……はい。ありがとう」

『でも、一つだけ後悔してる』

「へ?」

『北見さんと写真撮らなかったこと』

「ああ……ふふふ」

『でも、責任を感じて、心配してくれたことありがとう。それはそれで嬉しかったりもするから』

「ん?」

『じゃあ、もう遅いからそろそろ切るよ』

「あ、はい」

『それから、北見さんの笑い声って元気になるよ。お休み』

「へ? あ、はい。お休みなさい」

ツー、ツー……

「はぁ……」

そっと胸に手を添える。

ドク、ドク、ドク……

まだ。

収まらないみたい。


ふと。

視線を落とした。

スマホの画面。

ん?

メッセージの通知。

あっ。

やばい。

洋ちゃんからのメッセージが。

30分前から入ってる。

『葉月。そろそろやるか?』

『俺はいつでも大丈夫』

ゲームする約束してたのに。

あわあわしながら。

メッセージを打ち込む。

「ごめんね。お風呂入っててた」 

あっ。

間違えちゃった。

ピコン。

『了解。じゃあ今からやろう』

「うん」

『あのさ葉月』

『ショートヘア、似合ってるよ』

あっ。

『それと、ダンス部頑張れよ。俺もサッカー頑張るから』

「ありがとう。洋ちゃん」

「あのね」

途中まで打って。

削除して。

「じゃあ、ゲームしよう」

『オーケー』

スマホを伏せて。

「はあ……」

大きくこぼれた吐息。

なんでだろ。

洋ちゃんが。

似合ってるよって。

言ってくれたのに。

彼の声が。

頭に残るの。

なんでなの。

かな。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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