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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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28/49

出迎え。

1時間ほど前。

洋ちゃんからフェリーに乗ったって。

メッセージが来た。

気の早い私は。

連絡が来たとたんに。

家を飛び出した。

一番のお気に入りの。

水色のワンピースを着て。

胸元から肩にかけて。

刺繍やレースがあてがわれて。

肩に膨らみがある。

ウエストは絞り気味のハイウエスト。

そこから広がるミニのフレアスカート。

これを着たら。

スカートの揺れみたいに。

ご機嫌になれる。

私たちの住む。

福田町は夕凪島の東側。

北東の端にある。

だから。

町の西側は山になっていて。

日が翳るのが少しだけ早い。

港の待合室の向かい側。

フェリーが接岸する場所が見れる。

防波堤に一人腰かけて。

『フロイライン』の『かわいいでしょ?』を聞きながら。

鼻歌歌って。

浮いている足でリズムをとる。

凪いだ濃い青と。

夜を迎えようとして。

端の方から群青に染まる空。

その間の水面に。

町には届かない。

夕陽を浴びて。

白い船体を。

一層輝かせて。

少しずつその姿を大きくしている。

あと。

15分もすれば。

洋ちゃんが帰ってくる。

そっと。

横髪を撫でる。

驚くかな。

へへ。

ピコン。

ん?

スマホを持ち上げて。

画面を見る。

あっ。

彼だ……

『ごめんね。昨日撮った写真です。スマホじゃ限界だけど、すごくきれいな星空見えた。教えてくれてありがとう』

添付された画像をタップする。

「わあ……」

暗闇のなかに。

色んな色の。

小さな点が。

ぎっしりつまっている。

そこに。

一つだけ。

線を引く星が。

「流れ星だ」

ピコン。

『後ろ見て』

ん?

私は上体だけで。

振り向くと。

え!?

松葉杖姿の彼が。

片手を上げて立っていた。

まじまじと彼を見るのは。

初めてかもしれない。

さらりとした。

真ん中で分けられた髪。

面長の顔に。

大きな瞳。

しゅっとした鼻筋。

その下の口元が。

上がる。

また。

耳のそばで鳴り出す心臓。

イヤホンを外して。

ゆっくりと。

立ち上がる。

スカートを軽くはたいて。

せーの。

ぴょん。

スカートを翻して。

防波堤から飛び降りた。

「良かった。また北見さんに会えるとは、ラッキーだね」

彼の視線が。

私をなぞるように下がって。

上がる。

足の指に力が入って。

ぐっと丸めて。

肩を寄せた。

「え、あ、昨日は大丈夫だったの?」

「ああ、昨日はなんでもなかった。おかげでいい想い出になったよ」

松葉杖に目がいって。

「でも、そのケガはどうしたの?」

「ああ、これ? 今日家の階段から落っこちてさ。足首の捻挫と打撲」

「大丈夫?」

「ああ、全然。サッカーにはケガは付き物だし」

「あ、あのきれいだった、送ってくれた写真。それに流れ星も映ってた」

「そうなんだ、ちょうど流れ星が映り込んだんだ。ちゃんと願い事もできたし」

「願い事?」

「北見さんとまた会えるようにって」

「え……!?」

ドクン。

として。

スマホを胸元で抱きしめていた。

「今日の服、とても似合ってるね、うん、髪型にもぴったりだし、すごくかわいい」

ひゃっ。

肩が上がって。

息が詰まって。

さ迷う視線。

そっと。

震える指先で。

髪を耳にかける。

「ダメもとで聞くけど……」

「……なに、かな?」

ピンポーン。

『まもなく、姫路行きのフェリーが入港します。ご乗船のお客様は……』

「いや、やっぱりいいや」

「ん?」

「そろそろ、フェリーが来るみたいだから……その。またメッセージ送ってもいい?」 

小さくうなずいていた私。

「ありがとう。じゃあ、元気でね。それと、神舞踊ったらいい。本当に上手だった。見惚れてたから」

「……ありがとう。頑張ってみる」

彼は少し首をかしげて微笑んで。

敬礼をすると。

コン、コン……

松葉杖の音を連れて。

ゆっくりと歩いて行く。

「あの、日置くんも。サッカー頑張って。あと、早くケガが治りますように」

彼は片手でガッツポーズをして。

手を振った。

そして。

待合室へと入っていった。

「はぁ……」

私はスマホの画面を見つめた。

流れ星……

北見さんとまた会えますように……

どうして?

どうして。

こんなにぐしゃぐしゃしてるの。

片手でワンピースの胸元を握りしめた。

「おーい! 葉月!」

あっ。

顔を上げると。

待合室からこっちへ向かって。

手を振りながら。

駆けてくる。

洋ちゃん。

「お帰りー!」

びょんぴょんと跳び跳ねて。

両手を振る。

あっ。

その手が止まる。

フェリーに乗ろうとしていた。

彼と目が合った。

気がした。

彼は人の波と一緒にフェリーに飲み込まれた。

「ただいま、葉月。どうした? 誰かいたのか?」

「へ? ううん。お帰り洋ちゃん」

首をかしげて微笑む。

洋ちゃんは。

フェリーをちらりと見て。

首を捻る。

私に向き直って。

「髪切ったんだな」

「うん。ダンス部に入るから」

そっと髪を撫でる。

「そっか、いいんじゃないか。でも、その、なんか見慣れないな」

「うん。初めてだからね。こんなに短くしたの。びっくりした?」

「まあな」

ちぇっ。

なんかリアクション薄め。

もっとびっくりして。

かわいい……

彼の声が甦って。

ぎゅっと。

目をつむる。

「葉月?」

「ん?」

目を開けると。

洋ちゃんが。

不思議そうな眼差しを向けていた。

「なあに?」

洋ちゃんは。

ふっと。

笑って。

ポケットから。

小さな紙袋を取り出した。

「これ、お土産」

差し出した私の両手に。

ちょんと置かれた白い包み。

少し重い。

「ありがとう。洋ちゃん。開けてもいい?」

「もちろん」

かさかさと。

音を立てて。

紙袋を開けた。

「わあ、カーヤちゃんだ」

キーホルダーを顔の前にかざす。

「東京は人も多いけど、物もたくさんあるな」

「すっごく嬉しい」

思わず抱きつこうとして。

何か視線を感じて、

踏み留まった。

「どうした? なんか変だぞ葉月。何かあったのか?」

「え? ううん。なんにもないよ。ねえねえ。今日はゲーム出来る?」

「ああ、もちろん」

そう言って。

洋ちゃんはリュックに付けていた。

カーヤちゃんのキーホルダーをつまんで見せた。

「ほら、葉月とお揃い」

微笑む洋ちゃん。

いつもなら。

吸い込まれるように。

抱きついていたのに。

どうして。

抱きつけないのかな。

私。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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