出迎え。
1時間ほど前。
洋ちゃんからフェリーに乗ったって。
メッセージが来た。
気の早い私は。
連絡が来たとたんに。
家を飛び出した。
一番のお気に入りの。
水色のワンピースを着て。
胸元から肩にかけて。
刺繍やレースがあてがわれて。
肩に膨らみがある。
ウエストは絞り気味のハイウエスト。
そこから広がるミニのフレアスカート。
これを着たら。
スカートの揺れみたいに。
ご機嫌になれる。
私たちの住む。
福田町は夕凪島の東側。
北東の端にある。
だから。
町の西側は山になっていて。
日が翳るのが少しだけ早い。
港の待合室の向かい側。
フェリーが接岸する場所が見れる。
防波堤に一人腰かけて。
『フロイライン』の『かわいいでしょ?』を聞きながら。
鼻歌歌って。
浮いている足でリズムをとる。
凪いだ濃い青と。
夜を迎えようとして。
端の方から群青に染まる空。
その間の水面に。
町には届かない。
夕陽を浴びて。
白い船体を。
一層輝かせて。
少しずつその姿を大きくしている。
あと。
15分もすれば。
洋ちゃんが帰ってくる。
そっと。
横髪を撫でる。
驚くかな。
へへ。
ピコン。
ん?
スマホを持ち上げて。
画面を見る。
あっ。
彼だ……
『ごめんね。昨日撮った写真です。スマホじゃ限界だけど、すごくきれいな星空見えた。教えてくれてありがとう』
添付された画像をタップする。
「わあ……」
暗闇のなかに。
色んな色の。
小さな点が。
ぎっしりつまっている。
そこに。
一つだけ。
線を引く星が。
「流れ星だ」
ピコン。
『後ろ見て』
ん?
私は上体だけで。
振り向くと。
え!?
松葉杖姿の彼が。
片手を上げて立っていた。
まじまじと彼を見るのは。
初めてかもしれない。
さらりとした。
真ん中で分けられた髪。
面長の顔に。
大きな瞳。
しゅっとした鼻筋。
その下の口元が。
上がる。
また。
耳のそばで鳴り出す心臓。
イヤホンを外して。
ゆっくりと。
立ち上がる。
スカートを軽くはたいて。
せーの。
ぴょん。
スカートを翻して。
防波堤から飛び降りた。
「良かった。また北見さんに会えるとは、ラッキーだね」
彼の視線が。
私をなぞるように下がって。
上がる。
足の指に力が入って。
ぐっと丸めて。
肩を寄せた。
「え、あ、昨日は大丈夫だったの?」
「ああ、昨日はなんでもなかった。おかげでいい想い出になったよ」
松葉杖に目がいって。
「でも、そのケガはどうしたの?」
「ああ、これ? 今日家の階段から落っこちてさ。足首の捻挫と打撲」
「大丈夫?」
「ああ、全然。サッカーにはケガは付き物だし」
「あ、あのきれいだった、送ってくれた写真。それに流れ星も映ってた」
「そうなんだ、ちょうど流れ星が映り込んだんだ。ちゃんと願い事もできたし」
「願い事?」
「北見さんとまた会えるようにって」
「え……!?」
ドクン。
として。
スマホを胸元で抱きしめていた。
「今日の服、とても似合ってるね、うん、髪型にもぴったりだし、すごくかわいい」
ひゃっ。
肩が上がって。
息が詰まって。
さ迷う視線。
そっと。
震える指先で。
髪を耳にかける。
「ダメもとで聞くけど……」
「……なに、かな?」
ピンポーン。
『まもなく、姫路行きのフェリーが入港します。ご乗船のお客様は……』
「いや、やっぱりいいや」
「ん?」
「そろそろ、フェリーが来るみたいだから……その。またメッセージ送ってもいい?」
小さくうなずいていた私。
「ありがとう。じゃあ、元気でね。それと、神舞踊ったらいい。本当に上手だった。見惚れてたから」
「……ありがとう。頑張ってみる」
彼は少し首をかしげて微笑んで。
敬礼をすると。
コン、コン……
松葉杖の音を連れて。
ゆっくりと歩いて行く。
「あの、日置くんも。サッカー頑張って。あと、早くケガが治りますように」
彼は片手でガッツポーズをして。
手を振った。
そして。
待合室へと入っていった。
「はぁ……」
私はスマホの画面を見つめた。
流れ星……
北見さんとまた会えますように……
どうして?
どうして。
こんなにぐしゃぐしゃしてるの。
片手でワンピースの胸元を握りしめた。
「おーい! 葉月!」
あっ。
顔を上げると。
待合室からこっちへ向かって。
手を振りながら。
駆けてくる。
洋ちゃん。
「お帰りー!」
びょんぴょんと跳び跳ねて。
両手を振る。
あっ。
その手が止まる。
フェリーに乗ろうとしていた。
彼と目が合った。
気がした。
彼は人の波と一緒にフェリーに飲み込まれた。
「ただいま、葉月。どうした? 誰かいたのか?」
「へ? ううん。お帰り洋ちゃん」
首をかしげて微笑む。
洋ちゃんは。
フェリーをちらりと見て。
首を捻る。
私に向き直って。
「髪切ったんだな」
「うん。ダンス部に入るから」
そっと髪を撫でる。
「そっか、いいんじゃないか。でも、その、なんか見慣れないな」
「うん。初めてだからね。こんなに短くしたの。びっくりした?」
「まあな」
ちぇっ。
なんかリアクション薄め。
もっとびっくりして。
かわいい……
彼の声が甦って。
ぎゅっと。
目をつむる。
「葉月?」
「ん?」
目を開けると。
洋ちゃんが。
不思議そうな眼差しを向けていた。
「なあに?」
洋ちゃんは。
ふっと。
笑って。
ポケットから。
小さな紙袋を取り出した。
「これ、お土産」
差し出した私の両手に。
ちょんと置かれた白い包み。
少し重い。
「ありがとう。洋ちゃん。開けてもいい?」
「もちろん」
かさかさと。
音を立てて。
紙袋を開けた。
「わあ、カーヤちゃんだ」
キーホルダーを顔の前にかざす。
「東京は人も多いけど、物もたくさんあるな」
「すっごく嬉しい」
思わず抱きつこうとして。
何か視線を感じて、
踏み留まった。
「どうした? なんか変だぞ葉月。何かあったのか?」
「え? ううん。なんにもないよ。ねえねえ。今日はゲーム出来る?」
「ああ、もちろん」
そう言って。
洋ちゃんはリュックに付けていた。
カーヤちゃんのキーホルダーをつまんで見せた。
「ほら、葉月とお揃い」
微笑む洋ちゃん。
いつもなら。
吸い込まれるように。
抱きついていたのに。
どうして。
抱きつけないのかな。
私。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




