風と星と……
「北見さん」
また。
うるさくなる心臓。
胸に手を添えて。
ゆっくりと立ち上がって。
お辞儀をした。
「僕、北見さんと友達になりたいんだ。ここに知り合いいないし。明日には東京帰っちゃうけど」
?
「初めて、父さんの田舎に来たんだ」
手すりに捕まって。
空を見上げた彼。
「知ってるかな。東京ってこんなに多くの星が見えないんだよ」
「そう、なんだ」
私は見慣れた星空を見上げる。
家の明かりがあるから少ないけど。
電気を消せば。
沢山見えるし。
神社に行ったら。
満点の星たちが見える。
「知らないことってあるんだなって。そこにあるのに、気づけないことって。そこに気付けたから、島に来て良かったって思える」
「難しい……」
苦笑いして。
首をかしげる。
「ハハハ……」
笑いだした彼。
「ごめん。やっと、笑ってくれたから」
「あっ」
両手で口を覆う。
「じゃあ、お休み。北見さんと出会えて良かった。いい想い出が出来たよ」
彼は窓に手をかけた。
からから。
「あ、あの」
「ん?」
「部屋の電気消してみて」
「ん?」
首をひねる彼。
私はちょこちょこと。
部屋の扉まで駆け寄って。
電気のスイッチを切った。
大きく息を吐いて。
小走りに窓際に戻る。
両手を胸に添えたまま。
「あの、やってみて」
声をふりしぼる。
「分かった」
彼は微笑みを残して。
部屋に引っ込む。
明かりが消えて。
外灯と家々のかすかな光だけが。
道路をぼんやりと照らしている。
暗くなった窓辺に。
彼の姿が現れた。
私は片手で空を指差した。
彼はうなずいて。
また。
手すりを握って。
あごをゆっくりと上げる。
薄明かりの中でも。
その表情が変わっていくのが分かった。
「すげー……」
唇を噛んで。
私も見上げた。
さっきよりは断然多くの星たちが。
見てくれてありがとう。
喜んでいるみたいに。
きらきらと揺れている。
「これ、真っ暗な所行ったら、もっと見えたりする?」
「うん。神社とか山の上とか行ったら。星だらけだよ」
「へえー。そうなんだ。神社ってそこの神社?」
「うん」
「じゃあ、ちょっと行ってみるよ」
「え? 今から?」
クスクスと笑い声が聞こえて。
「だって、明日には東京帰るって言ったでしょ?」
胸のスマホをチラリと見た。
20時51分。
さすがに外に出るのお母さんやお父さんに怒られるよね。
「北見さん、ありがとう。じゃあ、お休み」
からから。
彼は暗闇の中に消えた。
がらがら。
扉の開く音がして。
彼が出て来た。
「お休み、北見さん、ありがとう」
「あ、いえ、気をつけて。イノシシとか出るかもしれないから」
「大丈夫、これでもサッカー部のエースだから、逃げ足は早い。じゃあ、お休み」
「あ、お休みなさい」
彼は小さく敬礼をして。
その手を高らかに振って。
走り出す。
小さく手を振り返した私。
タン、タン……
軽やかな足音が。
徐々に小さくなって。
路地の奥の闇へと紛れた。
大丈夫かな……
見上げた空の星たちは。
空一面に。
変わらない揺らぎを。
降らせていた。
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