遭遇
見つかっちゃった。
おそるおそる顔を上げる。
にっこり笑っている男の子。
確か。
日置くん。
だっけ……
「髪切ったんだ……」
ため息混じりの声。
えっ!?
いつもは洋ちゃんがいる。
私の隣に座ってきた彼。
お尻を浮かせて。
そっと。
窓際に体をずらす。
「髪型、めっちゃ似合ってる。その、すげー、かわいいよ」
きゃっ。
肩が跳ねて。
ぐしゃぐしゃするから。
肩を寄せる。
「そ、そうかな」
「長いのも良かったけど、今の方が、すごくかわいいと思う」
ひゃっ。
どんどんと。
太鼓みたいな心臓。
「そう」
毛先を撫でて。
伏し目がちに窓の外を見つめた。
薄暗くなっていく町並み。
わっ。
窓ガラスに映る彼。
こっちを見てる。
うつむく私。
「あのさ、名前なんて言うの?」
「……北見です」
「ふーん。北見さん。下の名前は?」
「え……?」
思わず顔を上げて。
彼を見た。
微笑みながら。
スマホをかざしている。
「じゃあさ、連絡先交換してくれない?」
「え!?」
のけ反る私。
「ね? 交換しよ」
「あ、えーと、その……」
Tシャツの胸元を。
握りしめていた手に。
力がこもる。
じんわり汗が滲んでいる。
「あなたのこと知らないから……」
「なら、なおさら交換して知ればいいじゃん」
「あ、いや、でも……」
「なんで? 僕はゴールデンウィーク中しかここにいないし、東京帰っても、君と話したいなって」
「……」
「じゃあさ、明日って予定ある?」
「あ、あの、ごめんなさい明日は予定あるし、その、困ります……」
「あ、そうか、ごめんね」
「いえ……」
彼は。
ため息をこぼして。
背もたれに寄りかかった。
ドク、ドク、ドク……
鼓動が。
耳の外で鳴っているみたい。
なんで。
収まらないんだろう。
すごくかわいい……
彼の声が。
頭の中でこだまして。
「あのさ……」
彼の声に。
ビクッと。
肩が上がる。
「あの踊り、伝統行事って言ってたよね。なんて言うんだっけ?」
「……あ、あれは「神舞」です」
「神舞ね。本当に君は踊らないの?」
黙ってうなずく。
チラッと。
彼を見るとスマホをいじっている。
「ふーん。毎年7月にあるんだ。舞うのは高校生が多いんだ」
神舞のことを調べてたみたい。
ん?
がさごそと。
何かをし始めた彼。
横目で様子を窺うと。
何かをメモしてるみたい。
ビリビリ。
?
紙を破って。
それを持った手が。
こっちへ伸びて。
ひゃっ!
身を反らせて。
胸の前で両手を組んだ。
私の膝の上に置かれた。
紙の切れ端。
「それ、僕の連絡先」
「え!? あ、でも……」
「とりあえず、受け取って。後で捨ててもいいから」
そっと。
紙切れを手にする。
電話番号とアドレスが書かれていた。
「あのさ……」
『次は終点、福田港。福田港です……』
車内アナウンスが響く。
ここまで。
長かったような。
あっという間だったような。
とりあえず。
ここから。
やっと出られる。
私は紙片を握りしめた。
ゆっくりとバスが止まる。
降りようと立ち上がるけど。
隣の彼は座ったまま。
「あの……」
「ああ、ごめん」
彼は腰を上げると。
私に道を譲るようにして。
微笑んだ。
小さくお辞儀をして。
パタパタと早足で。
バスを飛び降りた。
すっかり。
日が暮れて。
頼りない外灯が照らす路地を。
駆け抜ける。
激しいままの心臓を連れて。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




