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葉隠れの蕾  作者: ぽんこつ


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23/26

遭遇

見つかっちゃった。

おそるおそる顔を上げる。

にっこり笑っている男の子。

確か。

日置くん。

だっけ……

「髪切ったんだ……」

ため息混じりの声。

えっ!?

いつもは洋ちゃんがいる。

私の隣に座ってきた彼。

お尻を浮かせて。

そっと。

窓際に体をずらす。

「髪型、めっちゃ似合ってる。その、すげー、かわいいよ」

きゃっ。

肩が跳ねて。

ぐしゃぐしゃするから。

肩を寄せる。

「そ、そうかな」

「長いのも良かったけど、今の方が、すごくかわいいと思う」

ひゃっ。

どんどんと。

太鼓みたいな心臓。

「そう」

毛先を撫でて。

伏し目がちに窓の外を見つめた。

薄暗くなっていく町並み。


わっ。

窓ガラスに映る彼。

こっちを見てる。

うつむく私。

「あのさ、名前なんて言うの?」

「……北見です」

「ふーん。北見さん。下の名前は?」

「え……?」

思わず顔を上げて。

彼を見た。

微笑みながら。

スマホをかざしている。

「じゃあさ、連絡先交換してくれない?」

「え!?」

のけ反る私。

「ね? 交換しよ」

「あ、えーと、その……」

Tシャツの胸元を。

握りしめていた手に。

力がこもる。

じんわり汗が滲んでいる。

「あなたのこと知らないから……」

「なら、なおさら交換して知ればいいじゃん」

「あ、いや、でも……」

「なんで? 僕はゴールデンウィーク中しかここにいないし、東京帰っても、君と話したいなって」

「……」

「じゃあさ、明日って予定ある?」

「あ、あの、ごめんなさい明日は予定あるし、その、困ります……」

「あ、そうか、ごめんね」

「いえ……」

彼は。

ため息をこぼして。

背もたれに寄りかかった。

ドク、ドク、ドク……

鼓動が。

耳の外で鳴っているみたい。

なんで。

収まらないんだろう。

すごくかわいい……

彼の声が。

頭の中でこだまして。

「あのさ……」

彼の声に。

ビクッと。

肩が上がる。

「あの踊り、伝統行事って言ってたよね。なんて言うんだっけ?」

「……あ、あれは「神舞」です」

「神舞ね。本当に君は踊らないの?」

黙ってうなずく。

チラッと。

彼を見るとスマホをいじっている。

「ふーん。毎年7月にあるんだ。舞うのは高校生が多いんだ」

神舞のことを調べてたみたい。


ん?

がさごそと。

何かをし始めた彼。

横目で様子を窺うと。

何かをメモしてるみたい。

ビリビリ。

紙を破って。

それを持った手が。

こっちへ伸びて。

ひゃっ!

身を反らせて。

胸の前で両手を組んだ。

私の膝の上に置かれた。

紙の切れ端。

「それ、僕の連絡先」

「え!? あ、でも……」

「とりあえず、受け取って。後で捨ててもいいから」

そっと。

紙切れを手にする。

電話番号とアドレスが書かれていた。

「あのさ……」

『次は終点、福田港。福田港です……』

車内アナウンスが響く。

ここまで。

長かったような。

あっという間だったような。

とりあえず。

ここから。

やっと出られる。

私は紙片を握りしめた。

ゆっくりとバスが止まる。

降りようと立ち上がるけど。

隣の彼は座ったまま。

「あの……」

「ああ、ごめん」

彼は腰を上げると。

私に道を譲るようにして。

微笑んだ。

小さくお辞儀をして。

パタパタと早足で。

バスを飛び降りた。

すっかり。

日が暮れて。

頼りない外灯が照らす路地を。

駆け抜ける。

激しいままの心臓を連れて。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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