アイデアの向こう
美容院を出る頃には。
すっかり夕焼け空だった。
その中を家に帰るのか。
二匹のトンビが。
旋回しながら。
山の方へと飛んで行く。
「すっごい頭が軽いね」
首を左右に振ってみる。
髪が揺れても。
自分の頭じゃないみたい。
「そうですね。首元もスースーします」
「確かに、ちょっと寒いかも」
「でも、楽チンですよ、きっと。髪洗うの」
「ハハハ。そうかも」
新鮮な感覚。
サイドの毛先を指で撫でる。
ずっと。
当たり前にあったものが。
なくなって。
後悔はないけど。
なんか。
何かを置いてきたような気持ちと。
見たことのない。
自分と出逢った。
生まれ変わったような感じとが。
シーソーみたいに。
あっちへ。
こっちへ。
でも。
新しい自分が勝って。
足取りも浮き足立つ。
みーちゃんは。
バス停まで見送ってくれた。
「さっきのおばさんたちが言っていた、ダンスの動画を上げるの面白いかもしれませんね」
みーちゃんは。
ぽんぼんと。
人差し指をほっぺに当てている。
「えー。でも、全然下手だよ」
「最初から上手な人はいませんよ。私たちの成長の記録にもなりますし」
「そっか。そだね。やってみようかな」
「フフフ。私たち島のアイドルになれますかね」
アイドル……
か。
でも。
みーちゃんと一緒なら。
楽しくなるの間違いないし。
神舞も上手に出来るようになれば。
私も舞手になれるかもしれないし。
あっ。
そうしたら。
洋ちゃんも喜んでくれる。
それに。
みーちゃんと二人で神舞も踊れるかもしれない。
「じゃあ。二人のユニットの名前考えなくちゃね」
私は笑顔のまま。
顔の横で。
人差し指を立てる。
「いいですね」
みーちゃんは。
両手をほっぺに添える。
ふーっと。
沸き上がるような。
体の中にある。
ふわふわした何か。
分からないけど。
今。
すごく楽しい気分。
ブルルル……
エンジンの音を響かせて。
5分と待たずに。
バスがやって来た。
「じゃあ、またね」
小さく手を振る私。
「はーちゃん、ありがとう楽しかったです。そうだ。今度は家に泊まりにきてくださいね」
胸の前で両手を振るみーちゃん。
「うん」
バスに乗り込むと。
通学で使う。
いつもの席が空いていた。
そこに腰かけて。
窓の外のみーちゃんに手を振る。
ブーン……
バスが動き出して。
みーちゃんの姿が流れていった。
そうだ。
おばさんが言ってた。
『キョンキョン』を検索してみる。
ふーん。
名前は小泉今日子さん。
昭和のアイドル。
画像の項目を。
トン。
軽くタップする。
わぁ……
出てきた画像。
きれいで。
かわいい人。
えへ?
似てる?
似てないよね?
こんなにかわいくないよ。
でも。
似てることにしとこっかな。
ブレーキがかかって。
少し体が前につんのめる。
両足に力を込めて。
踏ん張った。
バスが止まって。
プー。
扉が開く。
乗り込んできたお客さん。
あっ。
私は少し屈んで。
うつむいた。
気づかれませんように。
急に走り出す鼓動。
心臓が口から出そう。
やばい。
磁石がくっついたみないな。
視線を感じる。
人の気配が近づいてきて。
「あれ? もしかして」
その声に。
ぱちんと。
心臓が跳び跳ねていた。
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