声の主
ほっと。
抱きしめたスマホを。
握りしめながら。
振り向いて。
視線を道路に落とすと。
聡お姉ちゃんの親友の。
栞お姉ちゃんが手を振っていた。
「こんにちは、栞お姉ちゃん」
「やほ。これからあーちゃんと、公民館で神舞の練習するんだけど、葉月ちゃん遊びに来る?」
「あ、もうちょっとしたら、友達が来るから、ごめんなさい」
「そっか。まあ、気が向いたら、その友達と一緒においでよ」
「はい」
「じゃ、またね~」
「はーい」
お姉ちゃんは。
顔の脇で両手を振って。
跳ねるように歩いていった。
栞お姉ちゃんは。
島の学校には行ってなくて。
通信制の高校生。
って。
教えてくれた。
とてもダンスが上手で。
YouTubeに動画もあげてる。
そんな栞お姉ちゃんと。
聡お姉ちゃんは。
今年の神舞を舞うんだって。
神舞は夕凪島の伝統行事で。
毎年。
夏の満月の夜。
瀬田町の神社で行われる。
二人の巫女さんが。
神様じゃなくて。
みんなのために舞を踊るんだって。
去年。
初めて見たんだけど。
二人の高校生のお姉さん。
とってもきれいだった。
双子かなって思えるほど。
そっくりで。
振りもぴったりで。
とにかく凄かった。
そうだ。
あの時。
洋ちゃんが――
「葉月もしたらいいのに」
「なんで?」
「ああいう服、葉月、好きだろ」
って。
私のおでこをつんつんした
――
確かに。
かわいいというか。
きれいな衣装だった。
一人は上下白で。
もう一人は赤と黒。
お姫様ぽくって。
だけど。
ダンスも得意じゃないからな。
でも。
あれ着れたら。
洋ちゃん喜んでくれるのかな。
へへ。
でも。
まだまだ先だよね。
巫女さんは。
だいたい高校生だもんね。
ふらふらと。
舞ってきたモンシロチョウ。
ダンスか……
画面に指を滑らせて。
スマホで神舞の動画を映し出す。
立ち上がって。
スマホを桟に置いて。
動きを真似てみる。
ゆったりとしたメロディ。
これくらいなら出来そうかな。
でも。
後半部分はテンポが変わって。
舞は激しくなる。
わっ。
足がもつれる。
うーん。
難しいなぁ。
パチパチ。
ん?
外から拍手の音。
視線をさまよわせると。
斜向かいの家の2階。
窓の中に男の子がいて。
こっちを見て笑っていた。
?
同い年くらいの子。
でも。
町内の子じゃない。
知らない子。
「踊り上手だね。僕は日置勇太。君、名前は?」
風に乗って届いた爽やかな声。
「え?」
「ああ、いきなりごめん。君がかわいすぎて、つい」
ぽけーっと。
じわじわ体が熱くなって。
ドンって。
心臓が大きくなった。
「その踊りは何て言うの?」
「え、あ、神舞っていうの。島の伝統行事」
なんでだろ?
わしゃわしゃする。
「ふーん。君が踊るの? いつ踊るの?」
「え、ううん。踊らないよ」
「え? そうなの? そんなに上手いのに?」
わしゃわしゃが。
ぐちゃぐちゃになる。
「あ、友達が来るから」
私はスマホを取って。
さっと。
窓を閉めた。
「はぁ……」
ため息をして。
窓に寄りかかる。
ドク、ドク、ドク……
胸に添えた手に伝わる。
すごい早さで動いている心臓。
かわいい……
上手だね……
あの子の言葉が頭の中に。
こびりついていた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




