光のどかな朝
聡お姉ちゃんは。
バイトがあるから。
行っちゃったけど。
私はノンちゃんと遊んでいた。
ブルルル……
フェリーが黒い煙を上げはじめた。
始発の姫路行き。
「ノンちゃん、そろそろ帰ろっか」
ノンちゃんの首元を。
わしゃわしゃした。
ノンちゃんは。
ペロペロと私のほっぺを舐めた。
私は立ち上がって。
両手を挙げ伸びをする。
潮の香りがする。
澄んだ空気を胸一杯に吸い込んだ。
「えい」
スカートを翻しながら。
防波堤から飛び降りた。
ノンちゃんは。
尻尾をふりふり。
地面を確認して。
ぴょこんと降りてきた。
防波堤に沿って。
港の待合室がある建物のほうに向かう。
お日様が。
私とノンちゃんの影を重ねていた。
ん!?
待合室に向かう人の中。
洋ちゃん!
お父さんとお母さんの後ろを歩いている。
洋ちゃんが言ってた旅行か。
いいなぁ。
そう見えるだけなのか。
なんか。
楽しそうな洋ちゃん。
イヤホンをして。
なに聞いてるのかな。
そう言えば最近。
音楽の話してないな。
小学校の頃は。
男子アイドルグループの『Says』とか。
女子アイドルグループの『フロイライン』の曲を二人で聞いていたけど……
あっ。
へへ。
閃いた私。
唇を結んで。
ニヤニヤをこらえながら。
ノンちゃんに向かって。
「静かにね」
と。
人差し指を口に添えた。
そおっと。
でも。
少しだけ早足で。
洋ちゃんに。
気づかれないように。
駐車場を横切って。
背後に回る。
そして。
ちょこちょこと。
距離を詰めて。
!
洋ちゃんが。
背負っていたリュックを。
手に持った。
ばれたのかと思ったけど……
にんまりしながら。
「おはよう」
ぎゅっと。
背中から抱き付いた。
ビクッと背筋が伸びた洋ちゃん。
「おはよう……」
ん?
少し沈んだ感じの声。
テンション高そうに見えたのに。
元気ないな。
やっぱり。
病気なのかな。
「洋ちゃん。気をつけてね」
「ああ、あのさ、メッセージ返せなくてごめんな、寝てた」
「そっか。じゃあ、今日の夜は洋ちゃんからメッセージちょうだい」
「分かった」
少し明るい声。
早く良くなりますように。
そう神様にお願いしながら。
ぎゅーっと。
しがみついた。
「痛っ……」
「あっ、ごめんね」
くっついていたいけど。
仕方ないから。
そおっと離れてあげる。
振り向いた洋ちゃん。
「葉月、お前さ……」
「ん?」
洋ちゃん。
視線があちこちに。
「洋介~」
洋ちゃんのお父さんの声。
「はーい」
「ふふ。行ってらっしゃい」
「じゃあ、行ってくる。夜メッセージ送るからな」
「うん! 待ってる。寝ないで待ってるからね。忘れないでよ」
「分かってる」
洋ちゃんは片手を上げて。
お父さんの元へ駆けていった。
私は。
その背中に向かって。
両手を振る。
「洋ちゃん! 行ってらっしゃーい」
振り返った洋ちゃんも。
リュックを背負って。
両手を振り返してくれた。
日差しを浴びた洋ちゃん。
笑顔が眩しいくらい。
ふふ。
久しぶりに。
いつもの洋ちゃんだった。
聡お姉ちゃんは。
そっとしておいてあげた方がいい。
そう話してたけど。
ほっとけないもんね。
少しでも。
良くなってくれたらいいし。
さっきの洋ちゃんを見たら。
治ったかもしれないし。
「ノンちゃん、帰るよ」
「ワン!」
私はくるんとスカート舞わせて。
歩き出した。
早く夜にならないかな。
チュンチュン。
声につられて。
見上げた電線に。
二羽のすずめが仲良く並んでいた。
青く高い空を背にして。
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