帰りの最中《さなか》
「今日はありがとう外村くん。練習も楽しかったし、パンも美味しかった」
「こちらこそ、そうそう、『タケヤ』のポテトサラダのサンドイッチも旨いよ」
「うわっ。いいね。こんど買ってみる。外村くんも美味しい物好きなんでしょ?」
「ん? まあね。そうだ。北見さんは何のゲームしてるの?」
「色んなのするけど。今は『渦潮』っていう。オープンワールドのゲームかな。キャラがねめっちゃかわいいんだ」
「へえ。かわいいのが好きだもんね北見さん。『渦潮』か。俺もやってみようかな」
「やりなよ! 私がキャリーしてあげる。洋ちゃんや西郷くんに瑞葉ちゃんもやってるよ」
「そっか。じゃあ後でダウンロードしてみるよ」
「是非是非!」
横断歩道の信号待ち。
行き交う車は。
小さなライトを灯し始めていた。
ん?
「外村くん瀬田町は反対でしょ?」
「ん? バス停まで送るよ。俺のバスまだ来ないし」
「そうなの?」
「うん、あと10分後かな」
「そっか」
信号が青に変わる。
横断歩道を渡ればバス停はすぐ近く……
あれ?
洋ちゃん!
ん?
中臣さんと喋ってる。
んん?
中臣さんは私服だ。
しかも。
フリフリのおしゃれなミニスカート。
オーバーサイズのトレーナーもかわいい。
んんん?
洋ちゃんの用事って……
ひょっとして……?
私たちがバス停に近づくと。
中臣さんが先に気がついて。
「こんにちは」
って。
笑いを含んだ。
高い声が飛んできた。
「こんにちは」
私より先に外村くんが応じていた。
洋ちゃんは。
目を丸くして。
私と外村くんを見てうつむいた。
ブルルル……
タイミングよくバスが来て。
プー。
扉が開く。
「じゃあね、外村くん。今日はありがとう」
私の横で。
同じような挨拶を中臣さんにしている洋ちゃん。
「こちらこそ楽しかった。気をつけてね、北見さん」
「うん」
どういうわけか。
狭い入り口を。
洋ちゃんとぶつかりながら。
一緒に乗り込んだ。
いつもの一番後ろの指定席。
進行方向左側に腰かけた。
窓の外で。
外村くんと中臣さんが。
揃って手を振っている。
私は外村くんに。
洋ちゃんは中臣さんに。
手を振り返す。
何か面白かったのか。
外村くんと中臣さんが。
顔を合わせて。
笑いだした。
バスは。
そんなことも気にせず走り出す。
なんだろう。
ぐしゃぐしゃしてるの?
ため息をこぼして。
シートに寄りかかった。
チラッと自然に向いた視線の先。
リュックを抱えた洋ちゃんの手。
あっ。
中臣さんとつないでた。
「お前、膝どうした?」
「ああ、転んでさ、擦りむいちゃったんだ」
「ふーん」
「ねぇ、洋ちゃんの用ってなんだったの?」
「ん? お前こそ外村と何やってたんだよ」
「え? 私は二人三脚の練習してたんだよ」
「ふーん。そっか」
腕を組んで目を閉じた洋ちゃん。
ん?
「怒ってる?」
「何で?」
「だって、貧乏ゆすりしてる」
「あ?」
揺すっていた足が。
ピタッと止まる。
洋ちゃんのイライラの合図。
「ねえねえ、なんだったの用事? 私は教えたんだから教えてよ」
「聞いてない」
「ん?」
「外村と遊ぶなんて聞いてない」
「だって、言おうと思ったら洋ちゃん用があるって行っちゃったじゃん」
むすっとした顔をして。
目を瞑った洋ちゃん。
「ねえってば」
洋ちゃんの袖を引っ張った。
「静かにしてくれ」
「……っ!」
洋ちゃんが払った腕が。
私の顎に当たった。
「もう、ひどいよ洋ちゃん」
「……悪い」
洋ちゃんは、ぼそぼそと呟いて。
うつむいて目を閉じた。
ちえっ。
口を尖らせて。
顎をさする。
そんなに痛くなかったのに。
なんでだろ。
胸がじんじんする。
なんか。
つまんないな。
車内が暗くなる。
エンジン音が一段と大きく響く。
バスがトンネルに入った。
窓ガラスに映る女の子一人。
眉が下がって。
尖った唇。
さっきまであんなに楽しかったのに。
シートに深く沈み込んでもたれる。
チラッと見た洋ちゃんは目を閉じている。
寝ちゃったのかな?
もう。
何やってたかくらい。
教えてくれたっていいのに。
小さく息を吐いて。
洋ちゃんの肩に頭をもたげた。
ビクッって。
体が震えたけど。
私はそのまま目を閉じた。
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