カレハ奪還作戦:決着編;エディア
「本体を探すと言っても……この階層が広大ですからね」
「せやなぁ……迷宮要塞の構造的に、ここはかなり広いほうやねんな、上に比べりゃ」
「そもそもアビの本体があのネズミみたいな女の人でない可能性もありますからね……どう考えましょうか」
迷宮要塞は一階層から正四角錐型の構造をしている。つまり、下に行けば行くほど階層が広くなり、構造も複雑化するということだ。ここ十四階層も、その広さは街一つ分ほどはある。天井高も五メートル以上はあり、そこから異常を見つけ出すことは至難の業だった。だが、エディアにはこういうときに使えるものがある。
「【魔の力よ、広がりて我が敵を示せ。詳細至るまで明らかに、情報は万の価値になるべく】」
「おお、フル詠唱やね」
「【万物の位置を示せ】!!」
エディアの魔力が半径一キロ近くの同心円状に薄く広がった。それは、空間を丸ごと把握する魔術だ。エディアの脳内に一気に情報が押し寄せ、ずきずきと頭が痛む。しかしこんなので音を上げることはしない。今もウィーナがアビを抑えてくれているのだ。一切の見落としなく、隅々まで空間を把握していく。しかしいるのは、大小の魔獣くらいだ。魔族らしい人の気配や、異様な魔力というものは感じられない。
「…………ふぅ、異常はないですね」
「大丈夫か?その魔術、確かめちゃくちゃキツイんやろ?」
「大丈夫ですよ、痛みには慣れてますし魔力には余裕があります。アビとの戦いで消耗した分も順次治ってますしね」
「ほな、移動して探してこか。効率考えたら、アビの心理を推測するんもアリやな」
「そうですね……魔族の心理ですか……」
アビは、戦闘開始から一貫して影の分身であり続けた。本体がこの階層にいることは前提としておかないと話が進まないのでそこは仮定しておくが、それ以外が考察の余地が少ない。いや、戦闘に入る前に、彼女と少し言葉を交わしていた。その時に彼女は、確かにこう言っていたのだ。「ワタシ、普通って言葉が嫌い」だと。普通の思考を嫌うのであれば、エディアの思考と真逆をやればいい。
「彼女が普通を嫌うのであれば、私が普通の思考をしてその真逆を突けばいいってことですね。そして、私が分身を操る立場になって考えれば……分身が見えるギリギリのところ、例えば天井に張り付くとかでしょうね」
「ちゅーことは、逆を考えたら地面のどっかにいるってことやろか?」
「いえ、それだけでは絶対に足りない気がします。悪辣というスパイスが完全に無いので、ただ闇雲に地面を探ってもいないでしょう」
彼女と会話したから確信できるが、あれは生粋の悪人だ。悪辣という思考のスパイスがあればあるほど楽しいと思う愉快犯だ。故に、エディアの思考の逆である地面をさぐるだけでは辿り着けないはずだ。しかしその思考の逆の逆、つまり天井にいる可能性もなくはないし……ああクソ、思考の沼だ。これこそアビの狙いということなのだろう。心底悪辣な魔族である。
「もう面倒ですね、多分彼女の本体はどっかの影に潜んでいると思うので、影を無くしますか」
「それはどういう……」
「こうするんですよ。【精光弾・散】!!」
魔力が渦巻き、巨大な光弾が発生する。それが周囲を照らし、周りの影は一切合切なくなった。それをエディアは容赦なく打ち上げる。まるで太陽のごとく眩く輝く光球が階層中を照らした。光が弾け、壁に遮られない限りの影が消える。直上から眩しい光が落ちてきているのだ、影など生まれる余地はない。やがて光は治まるが、エディアにはそれだけで十分だった。もう、アビがどこにいるのかは分かった。いや、思いついたという方が正確か。
「そうか、影になれるんなら本体が影としてどっかに潜っとるかもせぇへん、だから影を消すために光の球を生み出したっちゅうことか」
「そうです。でも、これでわかりましたよ。本体がどこにいるのか」
「マジか!どこや?」
「それは……」
エディアは、掌に光で文字を描く。多分、話が完全に聞かれているからだ。それを読んだガブライトはふんふんと頷いた。納得したのだろう、ニヤリといういい笑みを浮かべる。
「ほな、準備しよか」
「ええ、そうですね。ガブライトさん、できますか?」
「先輩にまかしとき、俺は頼られるんが好きやからな」
「ありがとうございます。じゃあ、せーのでやりますよ。せーのっ」
エディアとガブライトの魔力が膨れ上がった。二人は顔を見合わせて、魔法を結実させる。
「【精光輝剣】」
「【精土弾】」
そして、生まれた光の剣がエディアの足元を切り裂いた。そこから、ナニカが飛び出る。小さな、小さなネズミだった。それをエディアが生み出した巨大な岩の弾丸が撃ち抜く。寸分たがわぬ、正確な狙いで直撃した。ネズミは吹き飛ばされながら、魔力を吐き出す。まるで、風船に穴が空き空気が漏れ出るかのように。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
「まあ、古典的と言えば古典的ですよね。被害者の下の地面、その地中に潜んでいたなんて」
「しゃあない、魔族なんぞ文芸文化が発達しとるわけがないからな。まさか人間の文化で物語が先んじて自分の手口バラしとるなんて知らへんのやろ」
確かに、それはそうかもしれない。ネズミはもう分身とほぼ同じ姿へと戻っていた。多分、あれこそが本来の姿なのだろう。背中を擦りながら、こちらを鋭い目線で睨めつけてくる。
「…………よ、よくもやってくれたわね、人間ども!」
「強がりにしか聞こえへんな、ホンマに」
「ですね。とっとと倒しましょうか」
「舐めてるわね、ワタシの力を……ワタシは十大貴族!魔族を統べる名家が当主なのよ!!」
「小心者の間違いなんじゃないですか?分身使っている割に近くに潜んで保険を掛けているので」
「うるさいうるさいうるさーいッ!!死ねェ!!」
アビが地面を蹴る。その体は再び黒黒とした影のような闇に包まれており、まるで攻撃が通用しないそれのように見えた。しかし、そのハッタリが通じるほどエディアもガブライトも馬鹿ではない。攻撃が通用しなかったのは、身体すべてが影から出来ている分身だからであり、あれはただの気休め程度の鎧だ。
「【土光融合・隕閃】!!」
「【精光輝剣・乱舞】!!」
エディアの魔法と、ガブライトの魔法が現実を書き換えていく。空中に巨岩が生成され、ガブライトの周りに数百の光の剣が現れた。アビの表情には明確な恐怖が生まれる。やはり、彼女は戦闘経験が少ないのだろう。
──────そして、すべての魔法がアビに直撃したのだった。




