エピローグ
「それでどうだったのかい?カレハ奪還作戦とやらは」
「はい、十大貴族と名乗る実力者に壊滅寸前まで追い込まれましたが……ランカーたちが間に合い、死者はゼロでした……らしいです」
アウルは左眼をさすりながら、詳細を説明していた。この場にいるのは二人だけ、アウルとキーカである。カムフトームの学院長室で黒檀のデスクを挟み、面談……というよりかは報告をしているというわけである。
…………カレハ奪還作戦は、アウルが気絶している間に終わっていたらしい。バイカルとの決戦直後から全く意識がなく、次に起きたのは王都シュッツエルの病院の中であった。そのまま身体の怪我が治ったら放り出され、そして学院に呼び出されて今に至るというわけである。
「絶対報告する人俺じゃないほうがいいですよ、俺今なにも把握してませんよ?」
「ハハハ、まぁそうだろうなと思っていたよ」
「じゃあなんで呼んだんですか」
「君はリーダー、つまりあの作戦の責任者だったからねぇ……やらなきゃいけないことがいっぱいあるよ?参加者へのポイント分配、素材換金の手伝い、怪我人の治療代の肩代わり、教師への始末書……」
「うげ……最悪だ」
思わず本音がこぼれ出たアウルに、キーカは再び声を上げて笑った。随分と人がいい最強だこと、とアウルは半眼でキーカを睨めつけた。その瞬間、左眼がずきりと痛む。もう痛むはずのない、潰れた左眼がだ。
「…………コレは、貴方がやったんですか?」
「いいや、私は何も。君の想い人がやったことさ」
「そうですか……」
アウルの左眼は、バイカルとの最終決戦で確実に潰れた。それは間違いない。しかし今は視界が完全に戻っていた。アウルのソレとは異なる魔力を放つ、左眼によって。
「驚いたよ。まさか、倒した魔族の眼を移植しようだなんて彼女が言うとは思わなかったからな」
「俺にも断ってほしかったんですがね……」
「仕方ないだろう、君はずっと眠っていたのだから」
「怪我人を治すんなら何でもしていいって話じゃないでしょう、起きてからでも手術の相談は───」
「……今はそんな話をしている場合じゃないと思うんだが」
チッ、バレたか。この眼の責任を問いただしてどうにか自分の仕事の負担を軽減しようと思っていたのだが、最強には通じなかったらしい。机の上に置いてある大量の書類、そこからむんずと掴み取った束をこちらに差し出してきた。
「はいはい、やればいいんでしょう?」
押し付けられた書類の束を受け取り小脇に抱えて、学院長室を後にしようとする。もうこの人に敬意を示すのも面倒になってきたし、とっとと退散しようというわけだ。
「ああ、最後にいいか」
「はい?」
「彼女から伝言だ。─────"追いつくまで、待ってる"、だそうだ」
「……………………わかりました。彼女に、"すぐ行く"と伝えておいてください」
「私は伝言板じゃないんだがな……まあいいだろう、君の仕事が終わったのを確認したら、伝えてやる。そのほうが、君もキッチリやってくれるだろう?」
「………本当にいい性格してますね、最強さん」
「期待しているのだよ、魔族の力を受け継いだ新人クン」
アウルはため息をついて、今度こそ、学院長室を後にした。扉を開け、そして廊下に出る。扉の横に誰かが、いた。
「───お疲れ様、アウル」
カレハがそこに居た。アウルの胸に万感の思いが湧き上がってくるが、溢れてしまうのをなんとか堪える。再会は、しみったれたものなんかじゃないほうがいい。だから、平然と笑って、右手を上げた。
「おう、待たせたな」
カレハは笑う。数週間見ていないだけなのに、まるで数年会わなかったかのように懐かしくて、頬が上気した。彼女は見ないふりをしてくれる。
「なんか……この前の続きみたいね、こう並んで歩くと」
「やめろって、俺のトラウマになりかけてるんだから」
「そう?悪かったわ」
沈黙の帷が降りる。気まずい。それもそうか、あの日から一切話せていなかったのだから。廊下を歩きながら、カレハの方をチラとみる。左眼は忌々しいほどちゃんと働いてくれていた。
「どうしたの、アウル」
「いや……この眼、ずっとこれなのかと思ってたんだ」
「でも、左眼が使えないよりかは全くマシじゃない?眼力使いとしてはさ」
確かに喜ぶべきことだろう。アイツの眼力は、アウルのソレとは全く性質も核も違う。実力としては完全に格上なのだから、もらえたことは確かにいいことなのだ。でも、プライドというか、意地というか、そういうのが完全に拒んでいるのも確かだった。
「アイツ由来の力を使いたくない、っていうのもあるんだ」
「くだらないわね……でも、そういうところもいいと思うわよ」
「ん?」
「ねぇアウル、私が魔族だって分かったとき、どう思った?」
完全に、歩む脚が止まっていた。カレハの表情は真剣そのもので、どんな答えでも受け止める、という表情だった。アウルも口を引き結んで、カレハの問の答えを考える。
「……まあ、騙してたのかとは思ったよ。正直に言うとな」
「そう……」
「でも、俺達と確かに戦い抜いた一年は、絶対に嘘じゃないってわかってた。だから、カレハが魔族だとか人間だとかどうでもよくて、エーゲン・ラフトっていう居場所にこれからも居てほしい。そう思ったよ」
「……」
カレハは押し黙ってしまった。そこで黙られると、なんだか不安になってくるのだが……答えを間違えてしまったのだろうか。
「───────アウル、助けてくれてありがとう。私、この恩は絶対に返すから!」
カレハがピッとアウルの顔を指で指して、笑いかける。そして、アウルの頬に柔らかい感触が確かに触れた。それを感じた瞬間、カレハの存在が途端に遠くに去っていく。紛れもない、唇の感触だった。
「……か、カレハ!?」
「また、明日ね!アウル!」
去っていく背中は、どこか嬉しそうで、追いかけられないほど速かった。
@
『エーゲン・ラフト』は確かに学院の名前に刻まれた。一年生ながら、学院まるごとをひっくるめて騒動を起こしたパーティとして。
だが、──────その名前が、世界を救う英雄たちのパーティ名となるかもしれない。
なぜなら、アウルたちの戦いは、終わらない。彼らが、願いを持ち、塔にいるかぎり。
そして、アウル・リヴァーネムが、前をその眼で見据え続ける限り。
ここまでご覧いただき、本当に感謝を申し上げます。今回にて、Augenkraftは更新を終了します!また気が向いた際にでも少し閑話を書きたいとは思っていますので、その時があれば!!
ではでは、最後にご愛読に感謝を述べつつ、失礼します。




