カレハ奪還作戦:決着編;ユウセイ
莫大な衝撃波と焔が空気を揺らして、揺らして、揺らして。そして終息した。
「おい、やりすぎじゃないか?ルイズ」
「魔族にやりすぎもないと思うわヨ」
ルイズはこんな巨大火力を放ったというのにケロッとしている。基礎的な魔力量がユウセイのそれとは全く比にならないということなのだろう。
土埃と爆炎の煙が巻き起こっている今のうちに、作戦を実行に移すべきだ。ユウセイは十手を構えながら、十手に魔力をふりかけていく。付与する情報とは、冷却。ルイズの作戦たる熱疲労をより効果的にするために、冷却温度は絶対零度だ。
「大層な口を利いておいて、これだけですか?人間!」
ペインが煙を切って飛び出してくる。既に魔力は練りに練られている、発動するのは模倣の魔法だ。
「【模倣:精水流波】!!」
魔力が結実、現実が書き換えられる。空を飛ぶペインの眼前に現れるは、巨大な水泡。こちらのメイン火力たるルイズが炎を用いた魔法を使うのに合わせて水属性の魔法をコピーしたのだろう。しかし、そんな甘いものを許すはずがない。
「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
ユウセイは地面を蹴って飛ぶ。十手はいつでも振り抜ける状態でペインへと強襲するその様は、まるで薩摩藩士が敵に飛びかかるそれのようだった。ペインも、それで自分を切り裂くつもりなのだろうと、ユウセイの意図を類推する。
「ハッ、そんなもの当たりませんよォ!!」
「───馬鹿が」
ペインがその背中の羽根で後退する。空中で身動きすることのできないユウセイの十手が、ギリギリペインの体に届かない位置へと移動されたのだ。─────だが、それはユウセイの狙いではない。ユウセイの狙いは、今展開されている水泡だから。
「なッ!?」
「舐め腐った上から目線が、テメェを殺す楔になるんだ!」
水泡に十手が刺さった。その瞬間、絶対零度まで冷え切った十手に水泡の熱が移動し始める。途端に水泡は凍りついていく。ペインは予想外の行動に目を見開く。そういう動作一つとっても、コイツは戦闘の経験に乏しいことが読み取れるというもの。凍りついた水泡……いや、もうこれは氷塊と言うべきだろう、それは魔法の浮力で支えきれず落下していく。
「魔法一つを無効化したところでェ!!」
「────あラ、そうかしラ?わざわざ私に合わせて水属性を選んでいたということハ……火属性の押し合いに自信がないんじゃないノ?」
ユウセイに気を取られてしまえば、ルイズの接近を許すのと同義。すでに両の拳は焔で覆われている。燃え盛る拳が、ペインの翼の根本に炸裂した。衝撃と焔が爆発し、ペインの顔が痛みに歪む。
「ゴッ!!??」
「まだまダ───!!」
「ッ……調子に乗るなァ!!」
ルイズが左の拳を炸裂させようとするが、ペインも流石に馬鹿ではない。魔力が弾け、先程ユウセイも見た、眷属の手を背中から生やすそれを発動した。当然、その掌はルイズに向かっている。
「【模倣:炸爆精烈】」
爆発が、巻き起こる。生やした眷属の腕諸共炸裂させ、ルイズを吹き飛ばした。咄嗟に焔に巻かれることでダメージは吸収するが、衝撃までは吸収できない。地上に落ちるルイズにユウセイは目を取られかける。
「盟友!気にしないデ!!」
「ッ、おう!!」
幸い十手に付与した情報はまだ効き目がある。絶対零度とまでは行かなくても温度が氷点下であれば多分作戦に支障はないので、少し十手の温度を上げる。それによって魔力に余裕が生まれた。まだルイズの準備が整っていない、時間稼ぎと注意を逸らす役目を遂行しよう。
「お前に何ができる!」
「創意工夫、だッ!【情報付与】対象:左拳 効果:耐熱化、温度上昇ォ!!」
ユウセイの拳が熱を帯びる。ほんのちょっと熱いくらいから、それはだんだんと上がっていく。ユウセイのボルテージを反映するかのように。そしてその拳を、十手と触れ合わせる。その瞬間、ジュッ!!という焼けるような音と蒸気が爆発した。地球人なら知っているだろう。とても冷たいものと、熱いものが触れ合うと、空気中の冷やされていた水分が一気に気化、水蒸気となることを。魔力を使わずにペインの視界を塗りつぶす策だ。
想定通り、ペインがうろたえる気配がする。
「なんだ!?」
「喰らえッ!!」
二属性は本当に魔力消費が激しい。持ってあと十秒と言ったところだろう。だから、全力を────。
「【模倣:精風嵐波】!!」
だが、ペインが黙っているはずもない。魔力によって生まれた暴風が、空中のユウセイとペインを乱雑に弾き飛ばす。蒸気の煙も諸共吹き飛ばす狙いだったのだろう。ユウセイには飛行手段がないが、ペインはその羽根を使って飛ぶことができる。ならば風で揺さぶり落とすのは、理にかなっているだろう。ルイズがいなければ。ルイズが先に下に居たおかげで、地面に叩きつけられることなく彼女にキャッチされる。
「危ねっ……助かったぜ、ルイズ」
「ちゃんと気をつけテ、盟友。作戦もうまくいくかわからないのだシ、一応逃げることも想定しなさイ」
「ああ、わかってるよ」
二人して、ペインを見上げる。彼は戦闘開始から常に魔法を発動していて、もうかなり消耗しているはずだが……そんな雰囲気は微塵も感じられない。
「ちょこまかと攻撃して……いい加減諦めたらどうですか?」
「諦める?そんな言葉、俺達の辞書にはねぇよ」
「そうネ。ワタシが最も嫌いな言葉だワ…………さて、盟友。準備ができたわヨ」
「オーケー、これで決めるか。」
「ええ、終わらせましょう。【火遁の術・神衣纏】!!」
ルイズの魔力が渦を巻き、莫大な熱量が迸る。それはルイズの小柄な肢体を包んでいく。一年前、丁度カムフトームに入学した直後のあの乱闘の最中だった。ルイズと戦ったときに彼女が見せた、神々しいまでの焔衣。それが今一度、ここに再臨する。
「焔を纏ったところで……何が変わるというのですか!!【模倣:土光融合・隕閃】!!」
ペインが、トドメと言わんばかりに巨大な魔力を消費する。告げられた名前は、エディアが愛用する隕石の魔法。土塊が迷宮要塞を構成する岩石を取り込み、もはや小さな山ほどの大きさまで膨れ上がっていく。その後ろには、光球。光属性の魔法と土属性の魔法、二属性を操る者しか許されぬ絶技を、簒奪するペインの絶技。
「いい、盟友。ワタシが合図したら、アイツを氷漬けにしなさい」
「無理を言ってくれる、って言いたいところだが……やってやろうじゃねぇか」
「行くわよ!!」
「死ね、人間どもがァ!!!」
ペインが指を振り下ろす。それを合図に、光球が炸裂して隕岩を吹き飛ばす。重力と衝撃、二つで加速するそれは、二人の人間を潰すことなど造作もないだろう。だが、それは、常人の話。ここにいるのは、地球からやってきた二人の転移者。故に、叶わぬ道理など、一切無し。
「はあああああああああああッッ!!」
ルイズが、焔の衣をはためかせながら飛翔する。その様はまさに、不死鳥がごとく。その背中には、冷気を存分に放つ十手を構える、ユウセイが背負われていた。迫る隕岩に、臆することはない。勢いを殺さず、焔の天使は肉薄する。
「一気に、貫通するわヨ!!!」
炎が激突する隕石を諸共融解させ、穴が開きはじめた。空から落ちる隕石であれば、十分に加熱されているがゆえにこれはできなかっただろう。だが、これは急拵えの仮初。十分に温まりきっていないソレは、加熱することで融解する余地があるということ。
ルイズが飛翔する勢いは全く衰えず、巨大な隕石に穴が穿たれていく。まだまだ勢いのままに飛翔するルイズ。そしてついに、穴はその隕石の直上へと至った。視界が開け、ペインが面食らう顔が視える。
「いくわヨ、盟友!!」
「おう!!」
そして、背負っていたユウセイを、投げ飛ばす。ペインは、咄嗟に魔法を放とうとするが、それよりもユウセイが肉薄するほうが速い。
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇッッ!!」
十手を腹に突き刺して、そのまま吹っ飛んでいく。絶対零度に近い十手は、突き刺した場所からペインの身体を凍らせていく。ペインの腹は悪魔らしく細く痩せている。直ぐ様凍りついていくのは当たり前だ。
「な、がほッ………!!」
「───────終わりよ」
流暢に、ルイズが呟く。それと同時に放たれた焔の拳が、ペインの凍った腹を、貫いたのだった。




