戦いは……
「そんな直線的な軌道、読むまでもねぇ!」
上からの強襲であるが、その軌道は真っすぐで狙いがわかり易すぎる。アウルたちは飛び退り回避して、ウルストに反撃──未だに攻撃を食らっていないので、先制攻撃と言ったほうが正しいか──を浴びせる。
「はああああッ!」
「【精光弾】!」
アウルのナイフ、エディアの光弾が二方向から同時に襲いかかり、防御を強要する。しかしウルストは難なく右手の剣でナイフをいなしたまま回転を続けて光弾を斬り伏せた。この程度の攻撃ではやはり届くはずもない。
アウルは一歩下がると、前衛組に役割をスイッチする。
「膨大で混み合った魔力だから、ヤツの弱点は見破れない……頼んだぞ!」
「ああ、頭にきてるのはお前だけじゃねえんだよ」
ユウセイが踏み込んで、ウルストに肉薄する。そのまま振り抜いた十手は、魔力による独特な輝きを帯びていて、弑するには足らずとも傷つけるのには十分すぎる鋭さとなっている。ウルストは左から向かってくる十手を剣で受けることはせず、左手を開いて突き出した。
「何を……!」
「【防御壁】」
ウルストの身体から放たれていた無数の魔力のうちの一つが迸り、透明な障壁を生み出す。それは迫る十手を受け止め、その威力を全て受け止めた。その見えない壁に、ユウセイはは何処か既視感を感じる。
そしてすぐさま思い出した。あれは、同じ一年のメガネの彼が使っていた魔法と同系統ではないか、と。
ウルストは受け止められた十手を見て、あからさまに落胆の表情を見せた。
「なるほど、人間はこの程度か……」
「……舐めないでほしいわね!」
だが、その無防備で余裕を見せている顔面に正面からカレハの飛び蹴り。ウルストはそれすらも首を横に振って紙一重で回避し、ニヤリと笑った。
「その蹴り含めて言っているんだよ」
刹那、下半身である蛇の尾が霞んだ。と同時に、カレハとユウセイの身体がふっとばされていた。そのあまりの速度に、ユウセイの十手が手からすっぽ抜けてカランカランと地面に落ち、
「「がはッ!?」」
二人はほぼ同時に、周りの太い幹に叩きつけられて、肺の中の空気をすべて吐かされた。そのまま崩折れて地面に膝をつく二人。
アウルは二人に駆け寄りたいが、この魔族から眼を離せばそれは致命的というのも生ぬるい隙となる。それに駆け寄ってもアウルに回復はできない。二人が頑張ってくれるのを期待しか出来ない。
アウルの胸中を知ってか知らずか、ウルストはアウルを文字通り蛇睨みした。
「ユウセイ、カレハ……」
「フン、お前は後から叩いてやる」
アウルを後回しにして、エディアから攻撃しようということらしい。アウルはそうさせまいとエディアの方に行こうとするが、ウルストの移動速度のほうが早い。一瞬でエディアの眼前を占拠した。
「【精光弾】!」
エディアもちまちま攻撃を食らわせて牽制するものの、そんなもの魔族の肉体にとってはかすり傷にすらならない。ウルストはその剣の射程圏内にエディアを捉え、杖を構えようとする彼女を杖ごと切り裂いた。
無情にも飛び散る鮮血が、浅からぬ傷を負わせている証左だった。エディア自身の血でできた血溜まりに、そのまま突っ込むように倒れる。
「かッ……」
「エディア!」
「さぁ、後はアウルだけだな」
ウルストは口調は淡々としているが、その顔は嗜虐心と優越感、そして怒りを発散できる快感に醜く歪んでいた。アウルはそんなウルストを睨みつけて、眼力を使おうと魔眼布に手をかけた。その瞬間、腕がいつの間にかガッシリとウルストに掴まれていた。
抜け出そうとするものの、ギリギリと万力のような力で押さえつけられていて、全く動かない。
「させるかよ。『魔眼』なら、その魔眼を出させないだけでいい」
「……まるで魔眼の対処法を知っているみたいだな」
「言ったろ、俺の前で『魔眼』を名乗るのは愚策だってな」
ウルストはアウルを持ち上げる。あからさまに嬲る格好だ。アウルは身を悶えて捕縛から抜け出そうとするが、魔族の力に遠く及ばない。
「無様だな。あれほど言っておいて、この程度か。魔族であれば余裕であしらえるな」
「……」
「さて、お前は啖呵を切ってくれたお礼に、すっぱり殺してやろう。ついでに、シェイカも甚振っておくか」
「ッ……そんなこと、させるか!」
ウルストを倒す気炎を燃やす。アウルは全力で左手を動かし、魔眼布を引きずり下ろす。だが、その行動すら完遂できなかった。アウルの左手が、気付かぬうちに尾で締め付けられているからだ。凄まじい技量と速度である。
それによって遂に絶望の顔を見せそうになったアウルだが、あるものを見て口許を釣り上げる。
「ハッ、油断のツケは大きいぞ……!!」
「はああああああッッ!!」
既に意識を取り戻していたカレハが、超高速で飛翔する。それは、木を全力で蹴飛ばしたことによる爆発的な加速だ。瞬きよりも速くウルストに肉薄し、伸ばされている拳がそのまま貫く矢としてウルストの後頭部に襲いかかる。
だが─────。
「油断じゃない、余裕って言うんだよ」
「なッ……」
今度こそ、本当に絶句した。一瞥すらしないで、カレハの蹴りを止めたのだ。
それは例のごとく透明な壁───────ではなく、不気味に輝く紫色の壁だ。
カレハの蹴りが毒の壁に直撃し、紫の塊が撒き散らされる。カレハは慌てて足を引き抜いて、ブーツが少し溶かされる程度に収めることが出来た。
「二つ目の、魔法……」
アウルを手と尻尾で拘束しながら、カレハの方を見ずに魔法を行使するというとんでもない芸当を行ったウルスト。カレハはもう一度その壁を回り込んで避けて攻撃しようとする。しかし、そちらから攻撃しようとすればアウルがいて巻き込んでしまうのは必定である。それに毒の壁が一枚だなんて一言も断言できない。
ウルストは瞑目して、小さく呟く。
「攻撃は悪くなかったな。ただ、魔族には通用しないってだけで」
「ご講釈どうも……早く殺せよ、ビビってんのか?」
アウルがそう煽ると、ウルストは眉をピクリと動かした。完全に圧倒しているはずの人間風情に煽られて、その自尊心に少し傷がついたらしい。
「命知らずな奴め……なるべく楽に殺そうと思ったが、やはり辞めた。苦しんで死ね」
「ハッ……一貫してねぇ野郎────がッ!?」
言い切る前に、アウルの身体に拳が入った。胃液が逆流し、思わずえずいてしまう。
「俺も実際に人間と出会うのは初めてだが……伝承通りどこまでも魔族とはわかり会えない存在だな」
「俺もそう思うな……ぐッ!」
またしても攻撃。一撃で気絶するような威力ではないのがいやらしい。アウルは痛みと怒りで吹き飛びそうな理性をなんとか繋ぎ止めながら、魔眼布越しに睨みつける。
「さて、これで終わりにしてやるよ」
「……」
アウルは、ドサリと地面に落とされる。もう反撃する元気もない、と判断されて開放されたのだ。実際アウルの身体は全身悲鳴を上げていて、動かそうにも指先くらいしか動かない状態だ。
「もう煽る気力もなくなって……哀れだな」
ウルストが剣を振り上げる。それは、断頭の構えだ。
そしてその剣が容赦なく振り抜かれ─────。
「どういうことだ、お前」
「まって、このひとをころさないで」
シェイカが、アウルをかばうように手を広げていたからだ。




