表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/30

06.父の背中と、決意


 ハルカは俺の目を真っ直ぐに見た。


「ソラヒト、一つ聞いていい?」


「なんだ?」


「本当に一人で行くの? 行けると思ってるの?」


「……お前の体のことを考えると、無理はさせられないからな」


「そうじゃなくて。

 ソラヒトは津軽海峡、一人で越えられた? さっきの着陸も、私がいなかったらどうなってた?」


「……」


 俺は何も言えなかった。


「私がいない方が、もっと危ない。それに——」


「それに?」


「行きたい。私も。

 ソラヒトのお父さんがどうなったか、私も知りたい。

 軌変隊の話も、知りたい」


 俺は少し黙ってから、息を吐いた。


「……わかった。一緒に行こう。だけど——」


 その時、シロさんが割って入ってきた。


「ちょっと待てお前たち! ちゃんとわしの話を聞いとったのか?

 オデッセイ島には絶対に行ってはならん! 無謀過ぎる!」


 シロさんは立ち上がって、俺たちを見た。

 

「シロさん、ありがとう。でも俺、もう決めたんだ」


 俺はシロさんの目を見つめた。見つめ続けた。

 すると、シロさんは観念したように息を吐いた。


「……わしも歳かの。若者の期待に溢れる目には弱い。

 あの夜、宇宙(そら)を見上げた自分の目と重なるような気がしてしまう。

 ——ただし、それとこれとは話は別じゃ。わしの口から『行ってこい』などと簡単には言えん。

 お前さんには祖父がいると言っていたな?

 その人にしっかり事情を話して、想いを伝えてこい。許可をするのは、わしではなくその人のはずじゃ」


 シロさんは立ち上がって、両手を俺の肩の上に乗せた。その手は力強かった。

 

「……困ったなぁ、祖父を説得するなんて、オデッセイ島に行くよりもムズいかもしれないです……」


「なぁに、素直に気持ちをぶつけるだけじゃ。

 それでもダメなら、今は大人しく諦めろ」


 その日は、部屋を一つ貸してもらい、泊まった。

 初めての長距離飛行で、自分で思っているより体は疲れていたようだった。


 ◇


 翌朝、俺は廃ホテルの修理を申し出た。


 氷に押されて歪んだ扉の蝶番(ちょうつがい)を直し、暖炉の煙突の詰まりを取った。

 俺が修理をしている間、ハルカは残った食材でもう一品作った。

 潰した豆と桃の顆粒を混ぜたペーストを、温めたパンに塗って食べた。


「これは何だ?」とシロさんが一口食べて言った。


「豆と桃のペースト。豆は潰すと、全然違う食べ方ができる」


「うまい……。パンがこんなに変わるとは思わなかった」


「食材が少ない時は、調理の仕方を変えるといい。

 同じものでも、形や温度を変えると、全然違う料理になる」


「お前さんは、どこで料理を覚えたんだ?」


「集落の人に教わったり、自分で試したり。

 食べ物のことは、飛びながらいろんな人に聞いてきた」


「旅をしながら覚えたのか」


「はい。知らない土地に行って、知らないことを教えてもらう。それが楽しい」


「お前たちは、旅が好きなんだな」


 俺は修理の手を止めずに言った。


「地上にいたら見られないものが、飛べば全部見えますから。俺はそれが好きです。

 川がどこから来てどこへ行くか。森がどこから始まってどこで終わるか。人はどこに集まっているか。

 ——全部、飛べばわかります」


「それを見て、どう思うんじゃ?」


「そうですね、地球ってまだこんなに豊かなんだって思います。

 人がいなくなっても、気候が変わっても、地球はそのままある。

 川は流れてるし、森は育ってる。

 それを見てると、この地球が“終末世界”って呼ばれてるのが、嘘みたいに思えるんです」


「わしはあの日から五十年生きてきて、つい最近そう思えるようになった。

 お前は若いのに、もう気づいとるんじゃな」


「隕石が落ちる前の地球を知らないってのもありますけどね」


 俺はそう言って笑った。


 ◇


 廃ホテルの修理を終え、俺とハルカはスカイフィッシュ号に乗り込んだ。

 出発の時、シロさんが一つだけ言った。


「ここより北には行くなよ。

 夏でもエンジンが凍りつくぐらいの低温になる」


「わかりました。寄り道しないで福島まで帰ります。

 それじゃ、また来ます。シロさんも、それまでお元気で」


「ああ、待っとる。今度はわしがスープをごちそうする。材料くらいは用意できる」


「……楽しみ」


 ハルカは、ぽつりと言った。


 スカイフィッシュ号のエンジンが唸りを上げた。

 雪の上を滑走する。

 機体が浮いた。氷の廃ホテルが下に流れていく。

 夏の太陽の光を受けて、青白い氷柱が少しだけ金色に変わっていた。


「ソラヒト」


「なんだ?」


「怖い?」


「んー、一番はトビオ爺が怖いかもな」


「ふふ。説得、頑張って」


「こういう時もサポートしてくれよ……。

 オデッセイ島に行くまでのプランとか、考えながら飛ぼうぜ」


「確かに。現実的な話は、大事」

 

「とりあえず、太平洋からオデッセイ島に向かえないか、偵察しながら帰ろう」


「わかった。なるべく居眠りしないように、太平洋側の大気を読む」


「い、いつも静かな時、居眠りしてたのかよ……」


「ソラヒトの操縦、安心感があるから、眠たくなる。

 でも、大事な時は起きるから、心配しないで」


 スカイフィッシュ号は太平洋を左手に、安定飛行に入った。


「なあ、ハルカ。“天井”まで何メートルある?」


「今は四百メートル。でも、これからどんどん高くなる。

 今日は、とってもいい日」


「サンキューな」


 二人は前を向いた。

 夏の知床が、翼の下に広がっていた。

 夏なのに雪をかぶったままの大地が、静かにそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ