46.オデッセイ島の今
「着陸地点、探そう」
ハルカは島を見ながら言った。
「そうだな。アッサマ、降りられそうな場所を見つけたら教えてくれ」
『了解しました。とは言え、こんなジャングルの島に降りられるんですか……?』
二機は、島の周りをゆっくりと旋回する。
中心に巨大な木々が密生する島があり、その周りを囲むように、三日月型の島が浮かんでいる。きっと隕石衝突の衝撃で隆起した海底部分なのだろう。
「木、デカすぎんだろ……」
一本の木の高さが、東京で見た廃ビルに匹敵するほどだった。枝が空に向かって、異様な勢いで伸びている。
「オデッセイの成分が、植物の成長を極限まで促進してる」とハルカが言った。「これまで感じた中で、一番濃い」
「たしかに、聖なる岩の巨大バージョンってことだもんな。
ハルカ、具合は大丈夫か?」
「平気。でも、感じすぎる。遠くの大気の情報が、ずっと流れ込んでくる」
その時、無線からアッサマの声が入った。
『ソラヒトさん、中心の島を見てください』
「いい着陸場所でもあったか?」
『いや、飛行機の残骸らしきものがあります……』
高度を落として確認する。浅瀬に、錆びついた機体の一部が見えた。翼の形、塗装の跡。見覚えのある色だった。
「あれって、まさか——」
俺は声を失った。間違いない、父さんが十五年前に福島から飛び立っていった機体だ。色褪せているが、間違えるはずがない。手が操縦桿の上で震えた。
(でも、あの不時着のしかたなら……)
続けざまに無線が入る。
『ソラヒトさん、そこから三日月の島を見てみてください』
アッサマに言われた場所を見ると、木々の合間に開けた場所があった。さらによく見ると、草の生え方が不自然だ。定期的に刈られているような形跡がある。
「滑走路……なのか……?」
『降りてみましょう』
二機が、開けた草地に降りた。空気は穏やか、草の滑走路も、よく手入れされていて着陸は容易だった。
エンジンを切ると、異様な静寂が広がった。風の音さえ、ここではほとんど聞こえない。木々が音を吸い込んでいるようだった。
四人ともコックピットから降りると、木々の奥から何かが動く音がした。
全員が、その方向を見た。
「な、なんだ……っ?」
俺は思わず声を出した。
すると、茂みが揺れ、何かが姿を現した。
全身が、長い体毛に覆われている。背丈は人間と同じくらい。しかし、二足で立っていた。じっと、こちらを見ている。
「……あれは、猿か?」
アッサマは身構えた。何か武器になるものを、咄嗟に探そうとしている。
「待て……!」
トビオ爺はアッサマを制止し、ゆっくり前へと歩き出した。
猿のような生き物と目を合わせて、動きを止めた。
「……お前、ソウタか……?」
その一言で、全員が固まった。
猿のような生き物は、トビオ爺の声に反応した。その体は小刻みに震えている。
俺は息を呑んだ。
「これが、父さん……なのか?」
その猿のような生き物——いや、父さんが俺の顔を見た。長い間、何かを確かめるように見続けた。
「これ、オデッセイの成分の影響だと思う」
ハルカが冷静に言った。
「長い間この環境に晒され続けて、体が変化したってことかよ?」
「たぶん」
トビオ爺が、父さんの前にしゃがみ込んだ。
「……ソウタ、すまなかった。お前は、ずっとここで待っていたんだな……」
「……」
父さんは言葉を発さなかった。しかし、トビオ爺の手を、両手でしっかりと握った。
今は、それだけで十分だった。
◇
父さんの住処は、中心の島の奥深くにあった。
機体の残骸から取れる部品で作った簡易的な小屋。周囲には、食べられる植物を育てている小さな畑がある。オデッセイの成分のおかげで、植物がよく育っていた。
「父さん、まるで原始人だな」
父さんはうんうん頷いている。
「声、出せないのか?」
さらにうんうん頷く。
その時、小屋の奥に金属製のケースが置いてあるのが見えた。
「父さん、あれって……?」
聞くと、父さんは丁寧に保管されたケースを、大事そうに抱えて持ってきた。
そして、みんなの前にそれを置いた。
ケースは角が溶けていたが、持ち手の部分には『NEXUS』と書いてあった。
「お前は、これを……ずっと守っていたのか」
トビオ爺が聞くと、父さんは強く一回頷いた。言葉はないが、確かな意思を持った頷きだった。
「お前は、見たのか……?」
父さんは首を振った。
「父さん、開けてもいいか?」
父さんはゆっくりと頷いた。というか、俯いたように見えた。
「じゃあ、開けるぞ……」
俺がケースを開けると、中から真っ二つに割れた精密機械のようなものが現れた。それは、軌変隊の記録媒体だった。
「そんな……、壊れてるなんて……」
ハルカがそれだけ呟いた。
他のみんなは、声すら出せなかった。




