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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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44/49

44.オデッセイ島へ


 翌日、俺は整備場でアッサマを捕まえた。


「アッサマ、ちょっと頼みがあるんだが」


「なんです?」


「トビオ爺を、シンデン改に乗せてほしいんだ。座席、一つ空いてるだろ」


 アッサマは眉をひそめた。


「重量バランスが変わります。それに、ひとりの命を預かるんです、簡単に頷けることじゃないですよ」


「まあ、そう言うと思った」


 俺は(きびす)を返し、ハルカのいる図書館へ向かった。

 別に、トビオ爺の件を諦めたわけではない。


 ハルカは図書館の椅子に座っていた。


「ハルカ、おはよう」


「おはよう」

 

「本読んでる所悪いが、アッサマにトビオ爺を乗せてもらうよう頼んでくれないか?」


「……なんで私が」


「いいからいいから」


 ハルカは少し不思議そうな顔をしながら、俺の後ろをついてきた。

 そして、整備場にいるアッサマを見つけると「アッサマ、トビオ爺を乗せてあげて」と、軽く言った。


 アッサマの表情が、一瞬で変わった。


「……まあ、いいでしょう」


「え、もう?」


 俺は思わず声に出してしまった。いくら何でも、ハルカのお願いだからって、返事が速すぎるだろ。


「重量バランスなんて、人が一人乗ったところで大して変わりませんし、ソラヒトさんが設計したエンジンがあれば、必ず辿り着けます」


「お前、さっきまで渋ってたじゃんか」


「気が変わったんです。人間、気が変わることくらいあります。むしろ、気が変わるから人間なんです」


 アッサマはごちゃごちゃと御託(ごたく)を並べている。


「……ハルカが言ったからだろ?」


「う、うるさいですね、相変わらず」


 ハルカが「ありがとう、アッサマ」と言うと、アッサマの顔がまた少し赤くなった

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。


 ◇


 午後からは、トビオ爺も交えて作戦会議を始めた。

 まずはハルカが、聖なる岩に触れて遠くの大気を読んだ。


「ハルカ、大丈夫か?」


「うん。このくらいなら、平気」


「よかった。それで、どうだった?」


 ハルカは紙に地図を描いた。北太平洋にあるとされるオデッセイ島を中心とした地図だった。


「北太平洋が、渦を巻いているのを感じた。その中心にあるのが、オデッセイ島。そこだけ大気は穏やか。

 渦は反時計回りで回ってるから、日本の側は北の冷たい空気が吹き荒れてる」


「つまり、そこを抜ける時に石油精製燃料でエンジンを温めるわけだな」


 俺がそう聞くと、ハルカはペンで飛行経路を書き足した。

 それは、真っ直ぐ渦の中心へは向かわず、反時計回りにぐるりと回った。

 

「真っ直ぐは飛ばないのか?」


「真っ直ぐ飛べるほど、甘い横風じゃない」


「風の流れに沿って、少しずつ近づくってことか?」


「時間はかかるけど、それが安全だと思う」


「安全なのはいいが、どのくらい時間がかかる計算なんだ?」


「二十時間は、覚悟した方がいい」


 俺とアッサマは顔を見合わせた。


「アッサマ、二十時間なんて飛んでたことあるか?」


「……あるわけがないでしょう。

 ハルカさん、では何時ごろ出発するのがいいと思いますか? 着陸は明るくないと難しい」


「午後からのフライトが、ベスト。

 出発の日は、お昼前まで寝てた方がいい。トビオ爺も早起き禁止」


「花の水やりは村の若いのに任せるかの」


 トビオ爺は、名残惜しそうに言った。

 


 その日の夜は、寝床の窓に布を貼り付けて寝た。朝が来ても明るくならないように。

 

 ◇


 翌日、俺はハルカに起こされた。

 もうお昼を過ぎていたらしいが、全く気づかずに眠ってしまっていた。

 だが、今まで感じた中で、一番スッキリと目が覚めた。


「……っしゃ、行くか!」


「うん。行こう」


 滑走路に出ると、集落の人々が見送りに来ていた。子どもたちが「行ってらっしゃい!」と叫んだ。料理を作ってくれたおばちゃんが、保存食の包みを持たせてくれた。


「お腹が空いたら、コックピットで食べなさい」


「ああ、いつもありがとな、おばちゃん」

 

 トビオ爺は、シンデン改の後部座席に乗り込んでいた。


「うむ、悪くないの」


「トビオ爺、アッサマは上手い。安心して乗ってていいぞ」


「アッサマくんの目を見ればわかる。最初から信頼しとるよ」


「ありがとうございます、トビオさん」


 この二人って案外いいチームかもな、そう思った。


「じゃあ、俺たちが先に出るから、アッサマはその後をついてきてくれ。何かあったら遠慮なく連絡してくれ」


「わかりました。気をつけてくださいね、ソラヒトさん」


「アッサマもな」


 俺はアッサマに拳を突き出した。アッサマも拳を握り、こつんと合わせてくれた。


「ハルカ、俺たちも乗るぞ」


「うん」


 スカイフィッシュ号とシンデン改、二機のエンジンが唸りを上げた。


 福島の集落を飛び立ち、太平洋へと向かった。

 午後の太陽の光が、背中を押してくれた。

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