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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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43/49

43.いつもの味は、特別な味


 出迎えてくれたのは、いつも料理を作ってくれるおばちゃんだった。


「あら、ソラヒトくん、ハルカちゃん。無事に帰ってきたのね。

 ご飯、たくさん食べていきなさい」

 

 献立は、野菜の味噌汁と、塩漬けの魚だ。

 ずっとここにいたら、質素だと思ったかもしれない。でも、世界を旅してきた俺には違って見えた。


「「いただきます」」


 俺とハルカは空っぽのお腹に、味噌汁を流し込んだ。

 美味い……。福島の食材で作られた料理は、どこか特別な味がした。


 アッサマは恐る恐る、味噌汁を一口飲んだ。


「どうだ、美味いか?」


 俺はアッサマの方を見て聞いた。ドバイでは味噌汁なんてないだろうから、正直不安な気持ちもあった。


 しかし、アッサマは「……美味しい」と言った。少し驚いた顔だったが、心の底からの言葉だった。「ドバイの味とは、全然違う。でも、美味しいです」


 それを聞いたトビオ爺は、「そりゃそうだ」と言った。「育った場所が違えば、味の好みも違う。でも——美味いものは、どこでも美味いわい」


 食べていると、集落の子供達が続々と集まってきた。


「ソラヒト兄ちゃん、おかえり!」


「おう、ただいま! 悪いな、先に食ってたぞ」


「オデッセイ島はどうだった?」


 一人の子供が、そう聞いた。トビオ爺の箸の動きが止まった。俺にはわかる——トビオ爺こそ真っ先に聞きたかったことだが、聞けなかったということを。


「……実はな、オデッセイ島は、まだ行けてないんだ。

 でも、世界を回ってその準備は整えてきた。

 だから、明日以降で条件が良い日があれば、福島から直接向かおうと思う」


 子供たちは「へー!」「そっかー!」と言い、次々と質問をぶつけてきた。「どこまで行った?」とか、「何が一番美味しかった?」とか、子供らしい質問が多かった。


 ◇

 

 食事が終わった後、整備場へ行くとトビオ爺がいた。


「トビオ爺、こんな所にいたのか。……あのさ、少し、話があるんだけど……」


「なんじゃ?」

 

 トビオ爺は動きを止め、俺の目を見た。


「沖縄でさ、父さんの手紙を見つけたんだ」


 俺は胸のポケットから手紙を取り出した。(しわ)がついて、少しボロボロになっている。それでも、ずっと持ち歩いてきた。


「……ソウタの手紙か。どんな内容だった?」


「軌変隊の記録が、オデッセイ島にあるかもしれないって。確かめたいって。帰らなかったら、代わりに確かめてくれって。

 それで俺、気づいたんだ。俺が父さんを追いかけてるんじゃなくて、俺と父さんが同じものを追いかけているだけなんだって。

 そう気づいたら、なんか自分が誇らしくなっちゃってさ」


 トビオ爺に手紙を渡した。じっと見ている。読んでいるのか、ただ見ているだけなのか、わからなかった。


「ソウタも、ソラヒトも——わしと同じことを思っていたのか……」


 トビオ爺の声は少し(かす)れていた。


「同じって——じゃあ、トビオ爺も……?」

 

 トビオ爺は、黙ってスカイフィッシュ号を見ていた。自分からは言いたくない、といった感じだ。

 だから俺は、少し話題を変えた。


「結構変わっただろ、この機体」


 三枚翼になり、エンジンも変わっている。旅立ちの時とは、全く形が変わっていた。


「ああ、翼もエンジンも、よく考えられておる。

 わしが設計したものと比べて、大違いじゃ」


「つっても、翼とエンジン以外は何もいじってないぜ?

 トビオ爺が土台を作ってくれたから、ここまで飛んでこられたんだ」


「懐かしいの……、わしがコイツを設計したのは、十年も前になるな」


「ああ、トビオ爺に乗せてもらうの、すごく気持ちよかったな。今でも覚えてるよ」


「ほんの数ヶ月でパイロットは交代になったがの。お前は天才だと思った」


「なんだよそれ、俺はただトビオ爺が動かしてるのを見て真似しただけだ」


「それを天才だと言うんじゃよ」


 二人でしばらく機体を眺めていた。

 すると、トビオ爺がこの場から去ろうと、足を一歩動かした。

 ——俺は、トビオ爺の気持ちを代弁した。


「なあ、トビオ爺。本当は飛びたいんだろ?——空。

 行きたいんだろ?——オデッセイ島」


 トビオ爺は、少し考えるように頭を掻いていた。俺が考える時と、同じ仕草だ。


「俺さ、操縦を覚えてすぐにハルカを乗せるようになったから——トビオ爺と飛んでた時間って、案外少ないんだよな」


 トビオ爺は、何も言わずに聞いていた。いや、言わないんじゃない、言えないような感じだった。


「トビオ爺、一緒にオデッセイ島へ行かないか?

 俺、なんとなくだけど、トビオ爺も飛びたいんじゃないかって、ずっと思ってた」


「でも、ハルカちゃんなしじゃ、危険じゃろ……」


「アッサマのシンデン改がある。座席は一つ空いてるはずだ。話は俺がつけるから、後はトビオ爺の意思だけだ……!」


 トビオ爺は、宇宙(そら)を見上げた。


宇宙(そら)は、広いな」


 俺は何も言えなかった。トビオ爺の表情に、何か深い色があった。それが何なのか、まだわからなかった。


 ◇


 夜、寝る前に、ハルカと一緒に外へ出た。

 星がよく見えた。チベット高原ほど鮮明ではないが、俺は福島の星空が一番好きだった。世界を飛んだ今なら言える——世界一好きだ。


「ハルカ、次はいよいよオデッセイ島だな」


「うん」


「怖いか?」


 いつものように聞くと、ハルカは少し考えている様子だった。


「……怖い。でも——ここまで来た意味を、意義を、確かめたい」


「俺も同じだ」


 二人で、しばらく星を見ていた。同じ気持ちで、同じ方向を見てるってわかった。きっとハルカもわかってるはずだ。


「ハルカ、ありがとうな」


「何が?」


「ここまで、一緒に来てくれて」


「……お礼を言うのは、おかしい。私が来たかったから、来ただけ」


「それでも、ありがとう」


 星が静かに光っていた。いよいよ最後の旅が始まる。

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