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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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42/49

42.東アジア、空の旅


 日没近くになって、北京の廃都市が見えてきた。

 巨大な都市の廃墟が、夕日に照らされている。天安門(てんあんもん)の屋根が、赤く染まっていた。


「俺ら、一日でタジキスタンからここまで来たのか……」


「偏西風に乗れたから。普通なら何日もかかる距離」


 俺たちは集落を見つけて、その日は北京で一泊した。


 ◇


 朝一番に、エンジンの状態を確認した。

 

「全然、傷んでないな……。あの距離を飛んで、これだけ調子がいいなんて——さすが俺の設計だぜ……!

 ところで、今日はどう飛ぶ? ハルカ」


「午前中のうちに、朝鮮(ちょうせん)半島まで飛びたい。午後からは日本海を渡って、一気に福島まで行く」


「了解だ! アッサマも大丈夫か?」


「ええ、問題ないです」

 

 こうして二機は北京を飛び立ち、朝鮮半島の上空を飛んだ。

 山が多い地形だった。低空で慎重に飛びながら、海岸線に出ると、日本海が光って見えた。


「……俺たち、ついに帰るんだな」


「うん。帰ってきた。“二人”で」


「いや、違うな。“三人”で、だな」


 海を渡る間、二人ともあまり喋らなかった。これまでの旅の記憶が、頭の中を巡っていたのかもしれない。

 シロさん、ミドリさんとテツジさん、ミオとカズマさん、ダイチくん、ウミさん、シャオリンさんとチェン先生、ダーラムさん、そしてアッサマ——たくさんの人に出会ってきた。


 ◇

 

 そして、日本の海岸線が見えてきた。


「ハルカ、見えたな」


「うん」


 声が少し震えた。

 無線から、アッサマの声が聞こえた。


『ソラヒトさん、聞こえますか?』


「ああ、聞こえるぞ」


『ここから先が、あなたの故郷なのですね……』


「……ああ」


『……いい場所であることを願います』


「いい場所じゃないわけ、ないだろ……っ」


 俺はいつの間にか泣いていた。

 どういう涙なのか、自分でもわからなかった。


 スカイフィッシュ号とシンデン改が、日本の海岸線に向かって進んでいく。

 そして、日本海を渡り終えた。

 俺とハルカの間に、言葉はなかった。いや、必要なかった。

 

「ハルカ、あれ」


「見えてる」


 目の前に広がる寂れた街並は、間違いなく日本のものだった。

 旅の途中で、俺は何度この景色を思い出していただろう。実際に見ると、ただただ懐かしいという気持ちが溢れてきた。


「ソラヒト、泣いてる?」


「……泣いてねぇよ」


 ハルカは何も言わず、その手でそっと俺の背中に触れた。いつもの仕草だ。ただ今日は、いつもより温かく感じられた。


 ザザッという音と共に、アッサマから無線が入った。


『これが日本の景色ですか……。なんというか、落ち着きますね』


「な? いい場所だろ?」


『ええ、ソラヒトさんたちの集落が楽しみです』


 その後は、みんな黙って日本上空のフライトを楽しんだ。

 “天井”は高く、気流は穏やかだった。こないだまでの大冒険が嘘みたいに思えた。


 ◇


 日はすっかり傾き、空は夕焼け色に染まっていた。


「そろそろ見えてくるな」


「うん」

 

 福島の集落の上空に差し掛かると、次々と見覚えのあるものが見えてきた。


 俺が育った小屋。ボロボロの整備場。トビオ爺の畑。ハルカがいつもいた図書館。


「人、いる」とハルカが言った。


「あれ、トビオ爺だな」


 小さな人影が、空を見上げている。エンジン音に気づいたのだろう。


「降りるぞ」


「うん」


 いつもの草地に、スカイフィッシュ号を降ろした。続いてシンデン改が降りてくる。アッサマの新しいプロペラの音が、福島の空気に響いた。


 二人は小さい声で「ただいま」と言った。

 ここに帰ってきた時の習慣は、忘れていなかった。


 エンジンを切ると、辺りは静かになった。


 虫の声がする。風が吹く。福島の匂いだ。

 土と木が混じった、懐かしい匂い。


 コックピットから降りると、トビオ爺がゆっくりと近づいてきた。

 出発前より、少し痩せた気がした。歩き方も、少しゆっくりだ。それでも、目はしっかりとこちらを見ていた。


「……おかえり、ソラヒト」


 短い言葉だった。だが、その短さの中に、たくさんのものが詰まっている気がした。


「ああ、ただいま」

 

 俺は何を言えばいいかわからなかった。外国を見てきた。たくさんのことがあった。それを、どう伝えればいいのか……。


 トビオ爺は、俺をまじまじと見た。それから、ハルカを見た。


「ハルカちゃんも、無事だったか」


「うん。ただいま」


「よかった」


 シンデン改から降りてきたアッサマも合流した。


「はじめまして、僕はアッサマと言います。訳あって、二人と共に旅をすることになりました」


「うちのが世話になったようだな」


 アッサマが周りを見渡している。整備場、畑、小さな小屋。何もない、というほど何もないわけではないが、ドバイの賑わいとは全然違う、静かな場所だ。

 アッサマはただ「いい場所だ」とだけ呟いていた。


 俺はそれを聞いて、少し誇らしい気持ちになった。父さんが育って、俺が育ったこの場所を、初めて見る人間がどう感じるのか。それが気になっていたのかもしれない。


 その時、ぐぅぅと腹がなってしまった。


「トビオ爺、腹減った」

 

「ちょうど今から夕飯じゃ、たくさん食べろ。お仲間も歓迎する」


 トビオ爺は背中を向け、いつも食事をする場所へと歩いた。その背中が、やけに大きく見えた。

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