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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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30/31

30.香港と宇宙開発


 翌朝。ハルカは集落の台所に残り、朝食の準備を手伝っていた。

 俺はシャオリンさんと二人で、聖なる岩のクレーターへ向かった。


「岩の欠片を採るアルか。どのくらい取るネ?」


「手のひらに収まるくらいで大丈夫です。それと——NEXUSの痕跡が残ってないかも、探したいです」


「うーん。あのクレーターの中心部は、植物だらけで、痕跡を探すのは困難だと思うアル」


「まあ、ダメ元なので」


 クレーターに着くと、二人は中心部に向けて歩き始めた。そして、聖なる岩を過ぎ、さらに奥へ。

 植物が生い茂っているが、かき分けながら進む。


 すると、草の地面に金属の破片が散らばっているのが見えた。


「何だ……これ?」

 

 俺は拾い上げて確認する。

 錆びて原形をとどめていないが、ただの構造物の残骸だった。

 それ以外に、何も手掛かりになるようなものは見つからなかった。


「……やっぱり、残ってないな」


 と呟いた。


「隕石が直撃したアルから。仕方ないネ」


「そうですね」


 俺はしばらく辺りを見回した。

 NEXUS——軌変隊を送り出した会社——その本社がここにあった。

 ——しかし今は、草と木と岩しかない。


「くそっ、せっかく大きなヒントが得られそうな場所に来たのに……」


 俺は諦めて、聖なる岩に戻った。


 

 昨日ハルカが苔を削ったはずの部分が、また苔に覆われていた。

 俺は道具で表面を少し削り、小さな欠片を採った。手のひらに収まる大きさだ。

 集落で貰ってきた小さな瓶に入れて、蓋をした。


「これでいいアルか?」


「十分です。ありがとうございます」


 ◇


 集落に戻ると、朝食の匂いがした。


 ハルカが子どもたちと一緒に、芋と野菜の炒め物を作っていた。

 福島の桃の香りが漂っている。持ってきた桃の顆粒を料理に使ったみたいだ。


「採れた?」とハルカに聞かれた。


「ああ、聖なる岩は採れた。このサイズじゃ聖なる“石”かもしれないけど」


「NEXUSの痕跡は?」

 

「……残念だけど、そっちは何も残ってなかった」


「そっか」


 俺は瓶を取り出した。


「朝食を食べたら、少し試してみたい。これに触れて、機械の遠隔操作ができるか確かめる」


「無理、しないで」


「ああ」


 俺は瓶を握りしめた。


 ◇

 

 朝食を終え、集落の広場に出た。近くには、小型の発電機があった。

 俺は瓶の蓋を開け、石に触れた。目を閉じ、発電機を動かそうと念じる。

 

(動け……、動け……!)


 しかし、何も起きなかった。


「……ダメか」


 落胆していると、ハルカが近くに来て、俺の肩をポンと叩いた。


「そう簡単にはいかないのかも。

 昨日は、私が危なかった。あの瞬間、どうしても守らなきゃいけないって思ったんでしょ?」


「そうかもな。あの時は、危機感があった——今みたいに、ただ試そうとしてもダメなのか」


「強い意志が必要なのかもしれない。

 きっと、感情と繋がってる」


「ハルカの能力も、そういう感じか?」


「私は意識しなくても常に感じてるけど、思い返せば、危険な時は普段よりも感覚が鋭くなっていたかもしれない。

 津軽海峡の横風、鳴門海峡の渦潮、阿蘇山の不規則な気流……」


「なるほどな。じゃあ、オーストラリアへの旅路も、少しキツくなるかもな。

 耐えられなかったら言ってくれ、すぐに折り返す」


 無理そうだったら折り返す——それがトビオ爺との約束だった。


「ソラヒト、その瓶、貸して。

 フィリピンの火山、まだ不安」


「無理すんなよ」

 

 俺は瓶をハルカに渡した。

 ハルカは瓶を開け、指で石に触れた。

 そして、目を閉じた。


「南の方、オーストラリアへの空路——完全に通れなくなってる」


「え? 通れない?」


「昨日の噴火の影響が、予想より広がってる。

 火山灰が空路を塞いで、強い上昇気流が吹き上げている。あの方向には当分飛べない」


「じゃあ、オーストラリアには行けないのかよ?」


「しばらくは、難しい。

 でも、今日はインド方面に行ってみない?

 トビオ爺ものんびりやれって言ってたし、寄り道も楽しい」


 その時、俺はふと思いついた。「ねえ、チェン先生」と呼ぶと、チェン先生が近づいてきた。


「集落のエリクシル触媒、ハルカに触れさせてみてもいいですか?

 確かめたいことがあるんです」


「構わんが、何を試す?」


「エリクシル触媒は小惑星・エリクシルで取れた鉱石ですよね?

 そして、聖なる岩は小惑星・オデッセイの破片です」


「ああ」


「その二つの鉱石は、似た成分を持ってる。

 だから、同じ効果が出るかどうか、確かめてみようと思ったんです」


「ふむ、なるほどな」


 チェン先生は頷いた。



 触媒装置のそばにハルカを連れていく。

 ハルカは手で表面の苔を剥がし、触媒の板に触れた。


「どうだ?」


「……少し、鮮明になるかも。でも、聖なる岩に触れた時とは全然違う。フィリピンの火山までは、読めない」


「やっぱり違うんだな」


「同じ成分を含んどるのは間違いないが、純度が違うのかもしれないの。

 エリクシル触媒は精製された工業品で、聖なる岩はオデッセイの破片そのままじゃ。

 だから後者の方が、ずっと効果が高いのかもしれん」


「つまり——オデッセイ島に近づくほど、この効果が強まるってことか」


 ハルカは拳を握っている。その手は小刻みに震えていた。

 

「……そうなると思う。

 オデッセイ島に着いた時、私の感覚がどうなるのか、少し怖い」


 瓶を見ると、苔むした小さな石が、朝日を受けて静かに光っている。


「キツかったら遠慮なく言ってくれ、まあ、だいぶ先の話だろうけどな」


「うん。ありがとう」


「じゃあ、そろそろ行くか!」

 

 シャオリンさんが「絶対また来るアルヨ!」と叫んだ。

 チェン先生が静かに手を上げた。


 スカイフィッシュ号のエンジンが唸りを上げた。


 機体が浮いた。クレーターが見えた。聖なる岩の周りだけ、植物が密生している。

 朝日を受けて、緑が輝いていた。


 スカイフィッシュ号は、西へ向かって飛行を開始した。

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