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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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25/30

25.迫り来る黒い影


「ハルカ!」


 俺は即座に海へ飛び込んだ。

 海の中に入ると、ハルカが沈んでいくのが見えた。

 体が弱いから、泳ぐ力が足りない。


(届け……!)

 

 俺は腕を掴んで、なんとか水面から顔を上げた。


「おい、大丈夫か!」


「……ごほっ、大丈夫。ごめん」


 とハルカが言った。息が乱れていた。


「怪我は?」


「ない」


 ウミさんが舟から手を伸ばし、俺たちを引き上げてくれた。

 二人は舟の上に倒れ込んだ。


「ソラヒト」


 ハルカは濡れた体で俺にしがみついてきた。


「なんだ?」


「ありがとう」


「当たり前だろ。ったく、心臓止まるかと思ったぜ」


「私も」


「やっぱ、俺がいないとダメだな。

 ……いや、空の上では、いつも俺が助けられっぱなしか」


 海を見た。透き通ったエメラルドグリーンの水の下に、珊瑚礁が広がっている。

 ハルカが落ちた場所の下にも、静かに広がっていた。


「ハルカ」


「なに?」


「絶対に死ぬなよ」


「……ソラヒトこそ」


「俺も死なない。生きて、父さんとの約束を果たすんだ」


 二人とも空を見上げたまま、舟の上に横になっていた。


 ◇


 三日目の朝、南の空に異変が起きた。

 ハルカをおぶって海岸を歩いていると、肩を叩かれた。

 

「ん、どうした?」


「……南の大気が、変わった」


 ハルカが南の方角を向いたまま、動かない。

 目を細めている。


「何かが来るのか?」


「来るんじゃない。もう、来てる」


 数分後、水平線の向こうに黒い柱が見えた。

 最初は細かった。しかしどんどん太くなり、横に広がり始めた。

 黒い煙が、空に向かって猛烈な勢いで広がっていく。

 水平線を埋め尽くすほどの規模だ。


「でっか……、あれってまさか噴火か?」


「ダイチさんの言った通り。四日以内って言ってたから、今日か明日だと思ってた」


 集落の人間が次々と外に出てきた。

 みんな黙って南の空を見ていた。

 ウミさんも出てきたが、その顔は少し青ざめていた。


「南の外国の火山でしょうか?」


 とウミさんが聞いた。


「たぶん、そうです。

 俺たち、熊本に寄った時に、大地の波動が読める少年と出会ったんです。

 その人が言っていたことが、当たった……」


「そう……。あそこまで大きな噴火、私の記憶にはないわ。

 それをピンポイントで予言できたなら、その人の能力は本物なのでしょうね」


 俺はハルカの方を向いた。

 

「ダイチくんがいなかったら、今頃俺たち噴火に巻き込まれてたな」


「うん。海の上にいたら、逃げ場がない。

 大地の動きは、私じゃ感知できないし」


 ハルカが静かに言った。


「……明日、出発できそうかな?」


「……たぶん、できると思う。

 ただ、ルートは考え直さなくちゃいけない。

 噴火の影響が続きそうだから」


 ハルカは南の空を見て、何かを考えているようだった。

 

 ◇

 

 夕飯は、また集落の全員で食べた。


 今日はハルカも料理を手伝った。

 魚の干物とイモを合わせたものに、ハルカが持ってきた桃の顆粒を振りかけた。

 福島で育った桃の甘い香りが食欲をそそった。


「桃って初めて食べたけど、意外と料理に合うのね!」


 とウミさんが言った。


「基本的には、何にでも合う。

 後で種をあげるから、育ててみて」


「いいの? それは嬉しいわ」


「次に来た時に、ちゃんと育ってるか、見せて」


「それはもちろんよ。

 その代わり、必ず帰ってきてね……」


「俺たちは必ず帰ってきますよ。父さんとの約束もありますし」

 

 俺は即答した。即答以外、あり得ないといった感じだ。


「ソウタさんとの約束?」


「父さんが帰れなかったら、俺が代わりに確かめてくれって書いてあったんです。

 確かめたら、ちゃんと伝えなきゃいけない。

 ここにいるウミさんたちにも、シロさんにも、テツジさんにも、ミオちゃんにも、ダイチくんにも——トビオ爺にも」


「みんなに伝えるために帰らなきゃいけないのね」


「そういうことです」


「……なら待ってるわ。ずっと、ずっとね」


 ◇


 俺とハルカは明日に備えて、早めの時間に布団に潜っていた。


「なぁハルカ。帰ってきたら、また日本を飛ぼうな。

 まだ行ってない場所がたくさんある」


「うん」


「沖縄に渡るまでに、たっくさん島があった。

 それに、四国もちゃんと降りてみたかったな。渦潮のそば、危なかったけど面白かったし」


「私がいないと、きっと飛べない」


「だな。じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


 ◇


 翌朝は、早くに目が覚めた。


 起きてスカイフィッシュ号の様子を見に行くと、燃料は満タンになっていた。

 ウミさんが夜のうちに用意しておいてくれたらしい。


 集落の全員が見送りに来た。

 子どもたちが「また飛行機に乗せて!」と叫んだ。


 ウミさんが最後に近づいてきた。


「ソウタさんに似てるけど、あなたはあなただから。

 ソウタさんの言葉もあるでしょうけど、まずはあなた自身のために飛んでほしいわ」

 

 と静かに言った。


「……ありがとうございます」


「帰ってきたら、話を聞かせて。全部」


「待っていてください」


 スロットルを押し込む。滑走路を駆け出す。

 そして、機体が浮いた。


 リゾートホテルの駐車場の跡に、ウミさんが立っている。

 子どもたちはジャンプしながら両手を振っている。


「……また、来ます」


 俺は小さい声で、そう言った。


 しばらく飛行し、南西諸島の最南端の島を越えた。

 眼下の海の色が、エメラルドグリーンから深い青へ変わっていく。


 日本が後ろに消えていき、東シナ海が広がった。

 どこまでも続く、深い青の海。

 今、スカイフィッシュ号は、世界へと飛び立った。

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