23.リゾートホテルに住む人々
俺はウミさんに案内されて、リゾートホテルの中に入った。
「ウミさんは、ここに住んでるんですか?」
「ええ、そうよ。ここはリゾートホテルを改築して作られた集合住宅で、二十人くらい暮らしているわ」
「すっげぇ……、設備も整ってますね」
中を見渡すと、太陽光発電の設備があった。
海水淡水化装置も動いており、蛇口を捻ると水が出た。
エリクシル燃料も生産している。
これまで立ち寄った集落の中で、一番インフラが整っていた。
「リゾートホテルって、もともと設備が充実してたからね。非常用の設備とか、うまく利用して暮らしているわ。
太陽光パネルは屋上にそのままあったし、海水淡水化装置はホテルの地下に残ってた。
最初は動かすのに苦労したけど、今は普通に使えてる」
「すごいな。俺、海水淡水化装置って見たことないです」
「見てみる?」
「いいんですか!?」
「もちろんよ!」
◇
ウミさんが地下に案内してくれた。
電気を付けると、現れたのは大きなタンクとパイプが並んでいる装置だった。
というか、しれっと付けた電気すら、俺にとっては衝撃的だった。
「海水を取り込んで、特殊な膜で濾過して、塩を除いて飲み水にする。電気さえあれば動くわ」
「太陽光で電気を作って、その電気で海水を飲み水にしているんですね……」
「そう。電気は大事。人間の生活の基本は、昔も今も、結局は電気なのよね」
「太陽光発電って、沖縄は日差しが強いから効率いいんですか?」
「そうなのよ。日照時間が長いから、かなりの量の発電ができる。エリクシル燃料も、余るくらい作れるわ」
「後で補給させてもらえますか?
俺たちの飛行機も、エリクシル燃料で動くんです」
「もちろんよ! 明日の朝に用意するわね」
「ありがとうございます!」
◇
ロビーに戻ると、集落の女性たちが夕飯をこしらえて待っていた。
「これって、もしかして、お肉?」
ハルカが目を見開いた。
「そうよ。これは豚肉を使ったチャンプルー。
私たちも、普段から食べているわけではないけど、今日は珍しくお客さんが来たからね!」
ウミさんは、えっへんと胸を張って答えた。
「こんなに貴重なもの、いいの?」
「もちろんよ! これでハルカちゃんが元気になってくれれば、私たちは嬉しいわ」
「……ありがとう。
そういえば、チャンプルーって、なに?」
「チャンプルーはね、お肉やお野菜やお豆腐なんかを混ぜこぜにして炒めた料理よ」
「彩りが、きれい」
「そうでしょ? ほら、冷めちゃう前に、おあがり!」
「いただきます」
俺も一礼して、チャンプルーを食べた。
「う……、うっまぁぁぁ!!
俺、肉って初めて食べた! こんなにうまいんだな!!」
「私も、初めて。本当に美味しい」
二人は、とにかくガツガツ食べた。
「あらあら、お腹が空いてたのね。
まだまだあるから、落ち着いて食べなさい」
「げほっげほっ、すみません。
こんなに美味しいもの、食べたことなくて」
「ところで、あなたたちはこれからどうするの?
また福島に帰るの?」
「いえ、東シナ海に出て、フィリピンとオーストラリアを経由して、オデッセイ島を目指します」
ウミさんが少し表情を変えた。眉間に皺が寄っている。
「オデッセイ島……。
十五年前にも、ここからオデッセイ島を目指して、外国に出た飛行機乗りがいたわ。
それっきり、連絡はないけど……」
俺は、はっとした。
「それ、俺の父さんかもしれないです。
父さんはオデッセイ島を目指して、帰ってきてないんです。
どうなったかを確かめるために、俺たちは飛んでいるんです」
ウミさんは俺を見た。しばらく黙っていた。
「お父さんの名前、なんていうの?」
「大空蒼太といいます」
「……ソラヒトくん、少し待ってて」
ウミさんは立ち上がり、奥の部屋へ向かって走った。
そして、しばらくして戻ってきた。
手には、古びた箱を持っていた。
「十五年前ね、ここに一人の飛行機乗り——あなたのお父さんが来たの。
その人が『もし福島から飛行機乗りが来たら渡してほしい』と言って、これを預けていったのよ」
俺は箱を受け取った。手が少し震えた。
「……開けてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
箱を開けると、中には封筒が一通入っていた。
封を開けると、手書きの文字が並んでいた。
『軌変隊が残した記録が、オデッセイ島にあるという情報を掴んだ。彼らが最後まで諦めなかったという記録も見た。俺は、それらが本当かどうか、自分の目で確かめたい。
お前がこれを読んでいるなら、同じ気持ちのはずだ。
俺が帰れなかった時は、お前が代わりに確かめてくれ。そして、真実を世界に伝えてくれ』
しばらく動けなかった。
部屋には、波の音だけが響いていた。
「ソラヒト」とハルカが小声で言った。
「大丈夫だ、大丈夫。
ただ、父さんもここまで来てたんだって、思ったら——」
声が少し掠れていた。それ以上は言わなかった。
「ソウタさん、面白い人だったわよ。
当時まだ子供だった私に、すごく楽しそうに飛行機の話をしてくれたのを覚えているわ」
とウミさんは言った。
「ソラヒトくんの顔を見た時、もしかしたら、と思ったわ。
あの時のソウタさんと同じ顔をしてたから」
俺は封筒を大切に折りたたんで、胸のポケットにしまった。




