20.熊本のカルデラ集落
集落は、カルデラの底の一角にあった。
二十名ほどが暮らしている。畑が広く、野菜が豊富に育っていた。
火山灰が積もった土壌は、栄養が豊富で農業に向いているらしく、東京で見た廃ビルの野草とは全然違う——力強い緑色をしていた。
「野菜、すごく立派」
とハルカが言った。
「火山灰のおかげです。火山灰が積もると、土が豊かになる。この辺りの畑は、特に育ちがいい。
それに温泉もあるし、地熱も利用できる。ここで生きてる人間は、火山と付き合いが上手なんです」
集落の中心に、見慣れない装置があった。
地面に埋められた金属製の箱の中に、板状の石らしきものが入っている。
その板の表面には、びっしりと苔が生えていた。
隣には、いつも苔を掃除しているらしき道具が置いてある。
「あの苔まみれの板は何ですか?」
俺はその板を指差し、ダイチくんに聞いた。
「え? 知らないんですか?
あれが、燃料を作るエリクシル触媒ですよ」
「あれがそうだったのか……!
福島の集落では俺の爺ちゃんが管理してたから、見たことなかったんです。
てか、苔がすごいですね」
「いやぁ、それが厄介なんですよね。
この触媒、放っておくとすぐ苔まみれになるんです。
毎日掃除しないと、どんどん機能が落ちていく……」
ダイチくんは苦笑した。
「なんで、苔が生えるの?」
ハルカが聞いた。
「わかりません。この触媒の周りは、何故か植物が育ちやすいんですよ」
「植物が、育ちやすい……」
ハルカは小さく呟いた。何か気になっている様子だ。
「じゃあ、触媒の手入れ、手伝いますよ!
こっちは機械が得意なんでね!」
俺はそう言って、グッドサインをした。
「助かります。それと、燃料の補給は明日の朝でもいいですか? 先約がいたのを忘れていました」
「全然構いませんよ。今から飛んでも、すぐ夜になっちゃいますし。
その間、何か手伝えることがあれば、なんでも言ってください!」
「よかったです。では、今晩は僕の家に泊まってください。歓迎しますよ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
「それと、今から畑を見に行くんですけど、一緒に来ますか?
今朝から、少し様子が変なんです」
「変って……?」
「地面の様子がおかしいんです。噴火の前触れかもしれない」
ダイチくんは、真剣な顔をした。
◇
畑に着くと、ダイチくんはしゃがみ込んだ。
手のひらを地面に当てて、目を閉じた。
俺はハルカに小声で「何してんだろ?」と聞いた。ハルカは「いいから見てて」と小声で返した。
しばらくして、ダイチくんが立ち上がった。
「やっぱり、地面がそわそわしています」
「そわそわって、何です?」
と聞いた。もしかしたら、ダイチくんにも、ハルカやミオと同じ感知能力があるのかもしれない。
「うまく説明できないですけど、地面が落ち着いてない感じがします。
振動が、いつもと違う。細かい揺れが、地の底の方から上がってきている……」
「それが、噴火の前兆なんですか?」
「根拠はありませんが、僕はそう感じます。
ただ、朝に感じた波動が、今は移動していました」
ダイチくんは、南の方角を向いた。真剣な顔になった。
「あっちの方へ行ったんですか?」
「はい。南の方向へ、ものすごく大きなエネルギーが移動しています。
海を越えた向こうで、巨大な噴火が起きそうな気がします」
「海を越えた向こうで?」
「四日以内に、必ず大噴火が起きます。
それまでは、日本にとどまっていた方がいい。噴火の衝撃で、海上の気流が乱れます」
ダイチくんは、俺を真っ直ぐに見た。
「四日間、ここで待てってことですか?」
「いえ、沖縄でも大丈夫ですよ。もともと行く予定だと言ってましたよね?
ただ、その先へ進むのは四日後以降にしてほしいです」
俺はハルカを見た。ハルカは小さく頷いた。
「わかりました。信じます」
「ありがとうございます。
とにかく、この辺りが大きく噴火する可能性は低くなっていたので、一安心です。
戻りましょうか、そろそろ夕飯の時間です」
◇
集落に戻ると、夕飯の準備が始まっていた。
地面に穴が掘ってある。深さは三十センチほど。
葉で包んだ食材が入れられており、蒸気が上がっていた。
「ここの集落、地面で料理をするの?」
とハルカが聞いた。
「はい。これは地熱蒸しと言います。
地下の熱で蒸し焼きにする——この辺りは地面が熱いから、穴を掘るだけでかまどになるんです」
「地球が、かまどになってくれてる……」
「そう。それに、エリクシル燃料を作る熱も、地熱から来ていますし、本当に大地の恵みには感謝しています」
ダイチくんがエリクシル触媒の方を向いた。
「エリクシル燃料って、どうやって作られてるんですか?
仕組みをちゃんと知らなくて」
俺は単純に疑問だった。
今まではトビオ爺に任せっきりだったから、仕組みを知っておきたいと思った。




