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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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19/30

19.九州の火山


「あれは、火山の噴煙(ふんえん)阿蘇(あそ)(さん)……だと思う」


 ハルカが答えた。


「デカい煙だな。いや、デッカすぎるぜ」


「今も活火山のままなのかも」


 そして、九州の陸地に入った。

 内陸へ向かうにつれて、空気が変わった。

 気温が違う、湿度が違う。何か硫黄のような匂いが、風に混じっている。


「なんか、匂うな。屁こいたか?」


「デリカシー死んでるの? こくわけない。

 きっと火山ガスの匂い。

 それに、火山灰も飛んでるはず。エンジンで吸い込まないように、あまり高度を上げないで」


 前方に、大きな山が見えてきた。

 山頂は“天井”まで達しており、噴煙は乱気流に飲み込まれて不規則に散っている。


「ハルカ、山の近くの気流はどうだ?」


「上昇気流が強い。地面が熱いから、空気が温められて上に向かう。

 そのおかげで、この辺りの“天井”は高いけど、近づかない方がいい」

 

 山を大きく迂回しながら飛ぶ。

 噴煙が遠くに見える。それでも、空気の揺れが伝わってきた。機体が小刻みに震える。


「揺れるな、機体」


「火山の影響。でもこの距離なら問題ない。

 そういえば、燃料はあとどのくらいある?」


 とハルカが聞いた。


「燃料なら全然よゆ……う……」


「どうしたの?」


「……ヤバい。燃料の減りの速さが異常だ。

 残り二割って針が示してる」


「それって?」


「……おそらく漏れてるな。

 ただ、かなり小さい穴だと思う。

 じわじわと漏れ出てる感じだ」


「急いで」


「わかった。人がいそうな場所を見つけたらすぐに降りるぞ。

 沖縄旅行は、明日以降にお預けだ」

 

 じわじわと燃料が漏れ出て焦る中、山を迂回(うかい)すると平らな土地が広がっているのが見えた。

 カルデラの底だ。

 広大な平地に、畑が広がっている。

 煙が何本も上がっていた——集落だ。


「あそこに降りるぞ。燃料もギリギリだ」


「カルデラの内部の気流は、かなり不安定。

 余裕を持って飛行して」


「ああ、集中する……!」


 そして、カルデラの底の草地に向けて、アプローチに入った。

 しかしその時、機体が大きく揺れた。


「ソラヒト、しっかりして」


「わかってる!」


 そうは言ったが、俺の頭の中は、燃料漏れから来る焦りでいっぱいだった。


「カルデラの中で気流が回ってる。外と内で温度差があるから。

 右前に上昇気流。逃げて」


 機体を左に傾ける。上昇気流を横に避ける。機体が安定を取り戻す。


「大丈夫か? ハルカ」


「大丈夫。もう一度、落ち着いて。

 ソラヒトなら、できる」


「サンキューな。今度は低速で慎重にやる」


 二度目のアプローチ。今度はゆっくりと高度を下げる。上昇気流を感じながら、ハルカが細かく指示を出してくれる。


「少し右。そのまま。今、下げて」


 主脚が草地に触れた。今度は穏やかな着陸だった。

 速度が落ちて、止まった。


「ふぅ、かなり焦ったぜ」


「お疲れ様」


 エンジンを切ると、遠くで火山が煙を噴き続ける低い音が聞こえた。地面から、かすかな熱が伝わってくる。


「ここ、どこなんだ?」


「たぶん、熊本」


「しかし、あっついな……」


 俺は服を脱いで下着一枚になった。


「……私も」


 ハルカも真似して下着姿になった。


「ハルカも脱ぐのかよ……」


「だって、暑い」


「一応女の子なんだから……」


「そういうの、気にしない」


羞恥(しゅうち)(しん)死んでるのか……?」


「デリカシー死んでる人に、言われたくない」

 

 コックピットから降りると、さらに暑い空気が襲う。

 暑いというより、熱い。地面から直接熱が来ている。

 草地の端に、湯気が上がっている場所があった。


「あれ、温泉じゃねぇか?」


「天然の温泉、初めて見た」


「後で入れるか見てみようぜ!」


「一緒には、入らない」


「そういうつもりでは言ってねぇけど……、流石にそこは気にするんだな……」


 話していると、集落から人が歩いてきた。

 俺たちと同じ歳くらいの若い男だった。

 上半身は裸だが、この照りつける太陽に似合わず、肌は真っ白だった。身体も細々としている。

 若い男は、スカイフィッシュ号を見て少し驚いた顔をした。


「飛行機ですか。さっき、上空で気流に捕まっていたようですけど、よく抜けましたね。

 ヒヤヒヤしながら見てたましたよ」


「こんなに暑いのに、ヒヤヒヤできてよかったじゃないですか」


 俺は冗談っぽく言った。


「あはは、面白い人ですね。

 カルデラの中の気流は複雑だから、飛行機で侵入しようとする人なんて、まずいない。でも、上手かった」


「こっちの子が、大気の流れを読んでくれるので」


「大気“も”読めるのか……。

 ああ、僕はダイチといいます」


「ダイチくんですね。

 俺はソラヒト。こっちはハルカ。福島から来ました」


「福島から熊本まで飛んで来たんですか……」


 ダイチくんが北東の空を見上げた。


「沖縄を経由してフィリピン方面へ行く予定だったんですけど、燃料タンクに穴が開いてしまって……」


「それは災難でしたね」

 

「修理は俺が自分でやれますけど……、エリクシル燃料を頂くことってできますか? お礼はしますので」


「ええ、いいですよ。

 うちの集落では、大量に作っていますので」


「もしかして、地熱でエリクシル燃料を作っているんですか?

 福島では太陽の熱で作ってるって、俺の爺ちゃんが言ってました」


「大体のところはそうでしょう。

 地熱を利用できるのが、うちの特権ですので」


 ダイチくんが歩き出した。


「ついて来てください、集落を案内します。

 燃料もお渡しします」


「ありがとうございます!

 よし、ハルカ背中に乗っていいぞ」


「……ありがとう」


 服が少ない分、ハルカの身体はいつもより柔らかく感じられた。

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