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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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18/28

18.鳴門の渦潮


 奈良盆地を出ると、紀伊半島の山地に入った。

 山の稜線が続く。山が低いところを選びながら、慎重に高度を上げる。

 エンジンは昨晩カズマさんに直してもらってから、快調だ。


「“天井”まで、今は三百五十メートル。

 この山地を抜ければ、海が見える」


「どのくらいかかりそうだ?」


「三十分くらい」


「そうか、今日はどの辺りまで行けっかな?」


「寄り道しなければ、夕方には沖縄に着くと思う」


「沖縄か、確かリゾート地なんだよな?」


「うん。今はどうなってるのか、わからないけど」


「楽しみだ」


 山の斜面が目の前を流れていく。かつての林道だろうか、草に覆われた細い跡が山腹(さんぷく)を走っていた。


 やがて山が低くなり、前方に光が見えた。


「海だ……。なんか久しぶりな気がするぜ」


 紀伊水道が、朝日を受けて輝いていた。


「ここから四国まで渡る。今は穏やかだけど、鳴門(なると)の辺りは、少し違う感じがする」


「違うってなんだよ?」


「海流が、大気をかき混ぜているような感じ。うまく言えないけど」


「そうか、気をつけながら飛ぼう」


 海岸線を越えると、海面スレスレの飛行になった。波頭(なみがしら)が白く砕けている。水面が翼の真横に見える。


「塩、気をつけなきゃな。

 また誰かに直してもらうことになっちまう」


「大丈夫。四国まで、距離は短い」


 四国の海岸線が見えてきた頃、前方の海面に異変があった。


 遠くから見ると、海の色が違う場所がある。青い海の中に、白く泡立つ円形の模様がいくつも見えた。


「ハルカ、あれ何だよ……」


「……鳴門(なると)渦潮(うずしお)


 近づくにつれて、その規模がわかってきた。


 巨大な渦が、海面をゆっくりと引きずり込んでいた。直径は五十メートルを超えているだろうか。渦の中心に向かって、海水が螺旋を描きながら沈んでいく。

 海面全体が、まるで生き物のように(うごめ)いていた。


「でっけぇ……」


「鳴門海峡は、瀬戸内海と太平洋の潮位(ちょうい)差で流れが生まれる。潮が満ちる時と引く時で、海水が大量に行き来する。その時にできる渦が、鳴門の渦潮」


「潮位差で、あんなものができるのかよ……」


「流れる量が膨大だから。流れる水の量は、世界でも有数の規模だって本で読んだ。隕石落下後の地形変化で、さらに激しくなってるのかもしれない」


 スカイフィッシュ号が渦の上空に差し掛かった。

 その瞬間、機体が揺れた。


「ソラヒト、高度を上げて」


 とハルカが言った。声が少し緊張していた。


「どうした!?」


「渦が気流を引っ張って、下向きの力が発生してる。

 上昇気流じゃなくて、下降気流。吸い込まれる」


「空気まで下に引っ張るのかよ……!」


「いいから早く上げて」


 スロットルを押し込み、機首を上げる。

 しかし、下降気流が機体を押し下げようとする。


「“天井”まで、あと二百メートル。上げすぎも、ダメ」


「下からも引っ張られて、上も限界か」


「そのまま、速度を上げて渦から離れて」


「了解した……!」


 スロットルを最大にして、前に突き抜ける。

 渦の上空を抜けた瞬間、下降気流が消え、機体が一気に安定した。


「ふぅ、なんとか抜けたか……。

 渦が、空にまで影響を与えるのかよ」


「水と空気は繋がってる。水が動けば、空気も動く」


「なら、ミオが言ってた通りなら、オーストラリアやアメリカ側の大気は安定してるのかもな」


「うん」


 振り返ると、渦潮が変わらず海面を引きずり込んでいた。

 遠くから見ると、ただ白く泡立っているだけのように見える。しかしその力が、空まで届いていた。


 

 四国に入ると、海岸線から内陸へ向かった。

 四国山地が眼前に広がる。山の稜線が幾重(いくえ)にも重なり、奥へ行くほど濃い緑になっていく。川が山の間を縫って流れている。渓谷が深い。


「四国って、山ばっかなんだな」


「四国山地は、日本でも有数の急峻(きゅうしゅん)な山地。川の流れが速くて、渓谷が深い。だから人が入りにくい場所が多かった」


「そのせいか、人の気配が全然しないのは」


「隕石が落ちる前も人が少ない場所だったから、生き残った人も、少なかったのかもしれない」


「そっか。東京みたいな場所もあれば、こういう場所もあるんだよな」


 山の上を飛びながら、川を見下ろした。水が澄んでいて、川底まで見える。魚が泳いでいる。清流だ。

 人間がいなくなった川は、あまりにも透明だった。


 

 四国山地を越えると、西側に別の海が見えてきた。


 豊後(ぶんご)水道だ。四国と九州の間に横たわる海峡。

 波は穏やかで、水面が静かに光っていた。


「こっちは穏やかだな」


「豊後水道は、瀬戸内海と太平洋をつなぐ海峡。

 鳴門みたいな急激な潮位差はないから、流れは緩やか」


「どのくらい広いんだ?」


「直線で渡れば、距離は短い」


「よし、じゃあどんどん進むぞ」


 海岸線を越えた。また海の上だ。

 今度は波が穏やかで、水面が落ち着いている。

 鳴門の時とは全然違う。


「ハルカ、気流は?」


「安定してる。このまま真っ直ぐ飛んで」


 スカイフィッシュ号が豊後水道を渡っていく。


 四国の山並みが遠ざかっていき、九州の陸地が近づいてくる。

 すると、前方に巨大な煙が見えた。


「ハルカ、あれって?」


 その煙は、俺たちの行手を(はば)むように立ち昇っていた。

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