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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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15/30

15.奈良のジャンク屋


 草地を歩いていくと、小屋が見えてきた。


 一軒だけ、ぽつんと建っている。小屋の周りには、機械の部品や廃材が山積みになっていた。


「あれ、ジャンク屋っぽくないか?」


 近づくと、小屋の中から金属を叩く音がした。


「ちょうどいいや、スカイフィッシュ号のエンジン、見てもらおう」


 俺はドアをノックした。


「すみませ〜ん!」


 すると、金属の音が止まった。しばらくして、ドアが開く。


 顔中に油の汚れがついた、五十代くらいの男性が出てきた。がっしりとした体格で、手が大きい。

 俺とハルカを見て、それから遠くにあるスカイフィッシュ号を見た。


「あの飛行機で来たのか? 随分とボロボロだな」


「そうです。実は見た目だけじゃなくて、中身もボロでして……」


「何かトラブルでもあったのか?」


「はい。エンジンの吸気系に塩が詰まっちゃって……。直すの、手伝っていただけますか?」


「いいだろう。見せてみろ」


 男はスカイフィッシュ号に近づき、エンジンカバーを覗き込んだ。


「……なるほどな」


「直せそうですか?」


「直せる。塩を削る道具もある。ただ、今はちょっと手が離せなくてな……」


 男は腕を組んだ。


「どのくらいかかりますか?」


「明後日になる。今、別の仕事が忙しいんだ。途中で止めるわけにいかない。すまんな」


「明後日か……」


「待てないなら、他を当たってくれ。ただ、この辺で機械を直せるのは俺くらいだ」


「いや、待たせてください」


「わかった。その間、うちに泊まっててもいい。飯も出す」


「いいんですか? ありがとうございます。あの、お名前は?」


「カズマ。ジャンク屋のカズマだ」


 カズマさんが小屋に戻ろうとした時、声がした。


「お父さん。この人たち、誰?」


 小屋の裏から、女の子が歩いてきた。


 十二、三歳くらい。長く綺麗な黒髪で、体は細く、肌は真っ白だった。

 手に、自作らしい水中眼鏡を持っていた。ゴムと廃材で作ったものだ。

 俺とハルカを見て、それからスカイフィッシュ号を見て、目を輝かせた。


「すごい! 本物の飛行機じゃん!」


「ああ、本物だぞ! カッケェだろ?」


 俺は自慢げに言った。


「触っていい?」


「ああ、優しく撫でてやってくれ。長旅で疲れてるんだ」


 女の子がスカイフィッシュ号に駆け寄った。翼を触る。継ぎ接ぎの部分を指でなぞる。

 そして最後に、機首を撫でた。


「これ、全部直した跡?」


「そうだ。あちこちで直しながら飛んできたんだ」


「すごい。物を直すのって、大変なんでしょ?

 お父さんが言ってた!」


 その時、小屋の中からカズマさんの声がした。


「ミオ、夕飯にするぞ」


「わかった! ねえお父さん、この飛行機、明後日まで直せないんでしょ?

 なら、その間私がお客さんの案内をする! いいでしょ?」


「そうだな、奈良の街を見ていってもらおう。

 君たち、暇か?」


「ええ、飛行機が飛べるようになるまで、特にすることもないので」


「じゃあ決まり! ウチが明日、湖を案内してあげる!」


 ミオは、俺とハルカを交互に見た。


「お二人は、潜れる?」


「いや、俺たち、あんまり潜ったことないかも」


「じゃあ、もし無理だったら、岸から見るだけでもいいよ! それでも十分すごいから!」


「ミオ、調子に乗ってあまり遠くに連れていくなよ」


「わかってるって!」


 ミオは、あっさり答えた。

 仲のいい親子なんだなと思った。


 ◇


 夕飯は、湖で獲れたという魚の塩焼きだった。

 カズマさんが無言で焼いて、無言で皿に盛った。


「うおっ、うまそうじゃんか!」


 俺は魚の脂の香りに、ヨダレが止まらなかった。

 ハルカは荷物からタイムを取り出した。

 

「カズマさん、少し手を加えてもいい?

 私、持ってきたものがある」


「ああ、好きにしろ」

 

 ハルカが焼き上がった魚にタイムの葉を散らすと、香りが小屋中に広がった。


「いい匂い! それ何?」


 ミオが聞いた。すぐに何にでも興味を持つ子なんだなと思った。


「これはタイム。魚の臭みを消して、香りをつけてくれるハーブの一種」


「この辺りじゃ、そんなの見たことないな〜」


「これは私たちの集落で育てて、旅に持ち歩いてる。

 ミオちゃんも、食べてみる?」


「うん!」


 ミオが一口食べた。


「……え、おいしい。魚って、こんな味になるの?」


「タイムがあると、同じ魚でも全然違くなるんだと思う」


「教えてよ! 育て方!」


「乾燥した土が好きだから、丘の上の方が向いてるかも。

 後で種を渡す」


「じゃあここで育てられるかな?

 お父さん、タイム育ててもいい〜?」

 

 ミオがカズマさんを上目遣いで見た。

 ミオは父親の扱いがよくわかっているようだった。


「……好きにしろ」


 とカズマさんが言った。


「お父さん、いっつもこれしか言わないの! でも、反対はしてないから、オッケーってことだと思う!

 ね? お父さん」


 カズマさんは一瞬ミオを見た。

 何も言わずに微笑んでいた。


 俺は、ふと窓の外を見た。


「ここは一体、何があったんだ? 湖の底に街があるようだけど……」


「明日、案内してあげる。飛行機から見るのと、陸から見るのは全然違うから!」


「ありがとう。楽しみだ」

 


 食事が終わると、カズマさんは小屋の奥に引っ込んだ。

 金属を叩く音が再び始まった。


「なあ、ミオ。お父さん、いつもああなのか?」


「そう。機械が好きで、毎日何かをいじってる。

 でも優しいよ。私が潜って怪我して帰ってきた時とか、何も言わないで手当てしてくれる」


「無口な人なんだな」


「うん。潜水道具を壊しちゃっても、次の日には勝手に直ってる!」


「はは。お父さんに感謝するんだな」


「うん!」


 俺はそのミオの笑顔が印象的だった。

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