表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/28

13.ハルカの料理教室


 部屋に戻ると、ハルカが調理を始めた。


「テツジさんも、見て覚えて」


 まず、セリの根を洗い始めた。根の細い部分を取り除き、泥をきれいに落としている。

 その間に、コンロに火をつけ、お湯を沸かす。


「なるほど、根っこの方を先に茹でるのか」


 とテツジさんが鍋を覗き込んだ。


「根は固いから、先に火を通しておかないと、葉と一緒に炒めた時に固さが残る。

 根と葉で、火の通りやすさが違う」


「理屈があるんじゃな、料理にも」


「全部そう。なぜそうするかを知ると、食材が変わっても応用できる」


 ハルカは、セリの根が柔らかくなったところで一度お湯を捨てた。そして、そこに刻んだドクダミを加えて炒め始めた。

 すると、独特の匂いが立ち上った。


「うわ、この匂いじゃよ。わしが苦手なのは」

 

 テツジさんは少し顔をしかめた。

 しかし、しばらくすると匂いが変わった。


「あら……、匂いが消えたわい」


「飛んだ。加熱すると、匂いの成分が揮発する」


 ハルカが説明した。


「ほう。科学じゃな」


「料理は科学。私もそう思う」


 仕上げにセリの葉を加えて、さっと炒める。

 最後に塩で味を調える。


 俺はハルカから鍋を受け取り、三人分を器に取り分けた。


「……それじゃ、いただきます」

 

 テツジさんが、最初の一口を食べた。


「うまい……。ドクダミが、こんな味になるとは思わなかった。今まで料理しなかったのが勿体ないくらいじゃな。

 お前たちが来なければ、知らないまま死ぬところじゃったわい」

 

 テツジさんは、さらにもう一口食べた。


「美味しいなら、よかった。

 次に来た時は、他の調理方法で作る」


「また教えてくれ。わしもお返しを用意しておく」


 テツジさんは器を置き、ノートを取り出した。

 今日の出来事を書き記しているようだった。


「テツジさんは、なんでノートに書き続けてるんですか?

 誰かに読んでもらいたいからですか?」


 俺は、ふと気になったことを聞いた。


「いや、そうではない」


「じゃあ、何のために……?」


「記録することで、今日の出来事がモノとして残る。

 記録されないものは、忘れ去られてしまう気がしての——それが嫌なんじゃ」


「忘れ去られる、か……」


「一千万人が暮らしたこの街が、誰にも記録されずに朽ちていく。

 それは、あまりにも寂しいと思わんか?」


「思います、確かに。だから書き続けてるんですね」


「わしが死んでも、ノートが残る限りは……」

 

 テツジさんが棚の奥から一冊のノートを取り出した。

 他のものよりも、しっかりとしたノートだ。


「これは父のノートじゃ。隕石が落ちる直前に書いたらしい。

 父はビルの管理人をしながらも、NEXUS(ネクサス)という、香港(ほんこん)にある民間の宇宙会社にも勤めておった」


「NEXUS……?」

 

「NEXUSは、軌変隊が所属する会社じゃ。

 そこで、軌変隊との交信をする仕事もしておった」


「軌変隊と、直接やり取りしてたんですか?」


「そうじゃ。軌変隊との最後の交信を受け取ったのも、父じゃった」


 部屋が静かになった。


「最後の交信、というのは?」


「隕石の破片が地球に落ちる、その直前じゃ。

 通信が途絶える寸前に、軌変隊から一度だけ交信が入った。

 父はその内容を、そのままこのノートに書き記した。

 世界が崩壊する前に、記録として残しておかなければと思ったんじゃろう。

 わしにはわかる」


「何と書いてあるんですか?」


 テツジさんはページを開き、俺たちに見せた。

 ノートには、几帳面な手書きの文字が並んでいた。


『作業は完了したが、予期せぬ事態が発生した。最年少の隊員一人だけが帰還する。

 我々は最後まで、任務を全うした』


「軌変隊に、生き残りがいたんだ……。

 その人は、今どこにいるんですか?」


「わからん。世界が崩壊した後、その人間がどうなったかは、誰も追えなかったんじゃろう」


 テツジさんは、首を振った。


 その晩は、テツジさんの部屋に泊まった。

 外は蒸し暑かったが、ビルの外壁を覆う蔦のおかげで、部屋の中は涼しかった。

 植物でできた自然のカーテンが、ありがたかった。


 ◇

 

 翌朝、スカイフィッシュ号のエンジンが(うな)りを上げた。——出発の時だ。


「気をつけてオデッセイ島に行くんじゃぞ」


「……あれ、俺らその話しましたっけ?」


「いや、言わんでもわかったわい。

 あの話をした時の、目でな」


「そういったところまで観察されているんですね」


「わしは観察も記録も大好きじゃからの、ほっほ」


 テツジさんは、持っていたノートとペンを見せた。

 

「それじゃテツジさん、お元気で」


「ああ、お前さんも元気でな」


 テツジさんは、手を振っている。


「料理、たまにはやってみて」


 ハルカも小さい声で、別れを告げた。


「ああ、お嬢さんに教えてもらったことは、しっかりノートに書いたから大丈夫じゃわい」


 狭い草地を滑走する。木の枝が翼をかすめる。

 機体が浮き、テツジさんが下に見えた。ノートを持ったまま、まっすぐ立っている。


「テツジさん、見てるな」


「うん」


 翼を軽く傾けて挨拶をすると、テツジが小さく手を上げた。


 スカイフィッシュ号を南へ向かって飛ばした。

 廃ビル群が後ろに流れていく。

 石と鉄の森が、緑の海の中に沈んでいった。


「ハルカ、“天井”は?」


「今は四百メートル。南下すると、少し余裕が出てくるはず」


「今日は、どの辺まで行けるかな?」


 眼下の景色が変わってきた。

 石と鉄の森が終わり、また草原が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ