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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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12/27

12.旧世界から続く記録


 テツジさんの部屋は、廃ビルの三階にあるらしい。「部屋まで案内してやる」と言うので、俺とハルカはついて行った。


 廊下を歩くと、壁際に棚が並んでいた。

 棚の上には、ノートが積み上げられている。同じサイズのノートが、何十冊、何百冊と。

 全部、手書きで番号が振ってあった。


「テツジさん。このノートは、一体何ですか?」


 俺はその不思議なノートが気になり、真っ先に聞いた。


「記録じゃ。このビルの状態を、毎日記録しておる。

 どこにヒビが入ったか、どの柱が傾いたか、どの階の床が抜けたか。百年以上の記録がここにある」


「百年以上……?」


「ここのビルの管理人だった祖母から受け継いだ。

 こんな世界になっちまって、もう書き続ける必要はないんじゃが、癖が抜けなくての」


「なんか、その気持ちわかる気がします。

 テツジさんって、隕石が落ちた時は——」


 ここまで聞いて、ふと思った。トビオ爺のように、テツジさんも隕石の話をしたがらなかったらどうしようと。


「若いの、変に気を遣わんでよい。知らないことを知りたいと思う気持ちは、大事にせえ」


 俺は頭を掻いた。年の功には敵わないなと思った。


「隕石が落ちた時、わしは四十歳じゃった」


「昔の東京って、どんな感じだったんですか? 一千万人が住んでた頃の」


 テツジさんは目を閉じて、当時を懐かしむように語った。


「毎朝、人でごった返した電車に乗っておったな。

 道を歩けば肩がぶつかる。飯屋に入れば行列ができておる。

 うるさくて、にぎやかで——」


 テツジさんは、少し間を置いた。


「今となっては、夢のような話じゃな。ほっほ」


「はは、信じられないですよ。そんな話」


「今の若者には、そうじゃろう。生まれた時からこの静けさの中にいるんじゃから」


 部屋のドアを開けると、広い空間が現れた。

 かつてのオフィスだったらしく、広い部屋だ。

 窓ガラスは割れているが、板で塞いであった。

 その板の隙間から、外の光が差し込んでいる。


「あれがお前たちの飛行機か?」


 テツジさんが板の隙間から外を見た。遠くに、スカイフィッシュ号の翼が見えた。


「はい。そうです」


「継ぎ()ぎだらけじゃな」


「直しながら飛んでいたので……。みっともない姿になっちゃいました」


「いんや、いい機体だ。

 継ぎ接ぎが多いほど、長く飛んできた証拠じゃ」


 テツジさんは静かに言った。

 

「ありがとうございます。

 そういえば、テツジさんはもう晩飯食べましたか?

 俺、ちょっとお腹空いてきました」


「そういや、今日は起きてからずっと食べてないの」


「ええ!? 大丈夫なんですか!?

 三食きちんと食べないとダメだって、うちの爺ちゃんがいつも言ってますよ」


「いや、わしは子供の頃から不摂生で、毎日カップ麺ばっかり食べとった」


「カップ麺って、なんです?」


「そうか、知らんのか。

 簡単に言うと、お湯をかけるとあっという間に完成する麺料理じゃ」


「そんな便利なものが……」


「わしはとにかく、食べることには手間をかけたくない主義なんじゃ。

 だからこの世界でも、腹が減ったと思った時に、テキトーに野草をちぎって食べておる」


「よくそれで九十歳まで生きてますね……」


「まあ、それは運がいいんじゃな。ほっほ」


 テツジさんは声を出して笑った。

 その間に、ハルカは持ってきていた荷物から調理道具を取り出していた。


「テツジさんは普段、何の野草を食べてるの?」


 ハルカが聞いた。


「このビルのすぐ隣にセリが群生しておるんじゃよ。

 子供の頃はオカンがそれで鍋を作ってくれたんじゃが、わしは作る気が起きない。

 面倒なのは嫌いじゃからな」


「じゃあ今夜は、私が作る。鍋はできないけど」


「そりゃ楽しみじゃわい。

 ああ、それと一応ドクダミも生えておるぞ。

 けど、あれは独特の匂いがあって食べる気になれん」


「ドクダミ、使える」


「本当か? わし、あの匂い苦手なんじゃが……」


「匂いは塩と一緒に炒めると、飛ぶ。きっと食べやすい」


「本当か?」

 

 テツジさんは少し驚いた顔をした。


「あと、セリは根っこの部分は特に栄養がある」


「栄養か……。オカンもそんなこと言っとったのぉ」


「それに、葉と根を分けて使うと、二通りの料理ができる」


「二通りか。同じ植物でも、部位によって使い分けをするんじゃな」


「きっとお母さんもやってくれていたと思う」


「そうだったんかのぉ。

 とりあえず、みんなで外に採りに行こう。

 薄暗くなってきたから、気をつけろよ」


 ◇


 三人でビルの外に出た。


「すっげぇ……、これ全部セリですか? テツジさん」


「ああ、そうじゃと思う」


「手入れとかはしてるんですか?」


「わしがすると思うか?」


 ハルカがテツジさんを見た。


「……しなさそう」


「この娘は、はっきりとモノを言うんじゃの」


「はは、すみません。こういう奴なんです」


 俺は代わりに謝った。


 ビルの壁際を見ると、セリとドクダミが群生していた。

 ハルカは量を確認しながら、根っこを丁寧に掘り出した。

 俺とテツジさんは、横で見ていた。


「お嬢さんは、どこでそんな知識を得たんじゃ?」


「旅をしながら覚えた。立ち寄った集落の人に教わったり、自分で試したり。

 食材が少ない世界だから、一つの植物をいろんな食べ方で使えるようにしたくて」


「なるほどな。わしは九十年生きとるが、植物の正しい食べ方はほとんど知らん。

 興味を持つというのは、大事なことじゃの」


「もう十分採れた。川で水を汲んでから、戻る」


 俺は、川で水を汲むハルカの後ろ姿を見ていた。

 その時、ふと綺麗な髪だなと思った。

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