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終末 のんびり飛行紀 〜荒廃した地球で、スロー“フライ”!?〜  作者: 真星 紗夜(毎日投稿)


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11/28

11.都心飛行


 東京の空を飛んで、二時間近く経った。

 スカイフィッシュ号は、のんびりと飛行を続けている。

 建物の密度が増すにつれ、気流が変わっていくのがわかった。

 ビルとビルの間を風が通り抜け、場所によって強くなったり弱くなったりする。

 ハルカは肌でそれを感じ取り、俺に伝えてくれる。


「次の交差点、左側から空気が流れてる」


「了解!」


「右のビル、翼端まで十メートル切ってる。寄りすぎないで」


「大丈夫だ。見えてる」


 かつての首都高速道路の上を飛ぶ。道路の幅がそのまま、飛行ルートになる。左右にビルが並ぶ中を、スカイフィッシュ号がゆっくりと進んでいく。


「なあ、ハルカ。看板の文字、まだ読めるやつがあるな」


「うん。消えかけてるけど」


「日本語で書かれてるのは読めないけど、英語でレストランとか、ショッピングとか書いてあるな。

 ここで、一千万人が毎日飯食ったり買い物したりしてたんだな……」


「うん。五十年前まで」


「なんか、信じられないな。この静けさ。でも——」


「でも?」


「静かになったから、こうやって自由に飛べてるんだよな。

 ここに一千万人もいたら、俺ら怒られちまうよ」


「そういう考え方、ソラヒトらしい」


「そうかな? ……でも、変じゃないだろ?」


「ううん、変」


「思いついたらすぐに口が動いちまうんだから、仕方ないだろ」


 ハルカが小さく笑った。

 


 しばらく飛んでいると、廃ビル群の中に一棟だけ、様子の違う建物が見えてきた。


 一階部分の窓に板が打ち付けてある。補修された跡だ。

 屋上には、細い煙が上がっていた。


「あそこ、煙が出てるぞ」


「きっと、人がいる」


 俺は周囲を見回した。


「降りたいけど……、降りられる場所がないな。

 周りはビルだらけだし」


「さっき、大きな公園の跡が見えた。たぶん、代々木公園だと思う。木が多かったけど、開けた場所もあった」


「こんな街の中に公園か……。よし、行ってみるか」


 来た空路を戻ると、ハルカの言った通り、開けた場所があった。

 かつての公園だろうか、ビルがなく空が広く見える。しかし木が多く、降りられる場所は限られている。


「端の方、木の間に少し草地がある」


 ハルカが指を差した。


「なるほどな。けど、思ったより狭いな」


「ソラヒトの技術があれば大丈夫。真ん中に着陸すれば、両端に三メートルずつくらい余裕ができる」


「簡単に言うなよなぁ……」


 低空で木の上を横切り、草地の状態を確認した。

 幅は狭く、木が両側から迫っている。まるで針に糸を通すような、繊細な操縦が要求される。


「じゃあ、アプローチに入るぞ」


「頑張って」


「左右からの風の流れだけ、教えてくれ」


「わかった」


「このまま真っ直ぐ降りるぞ」


「ソラヒト、三秒後に右から風」


「オーケー、調整する」

 

 そして、主脚が草地に触れた。柔らかい土だった。

 どんどん速度が落ちていく。左翼の端が木の枝をかすめ、パサッという音がした。


「大丈夫。かすっただけだ」


 スカイフィッシュ号が止まった。木と木の間の、狭い草地に。


 俺が先に降り、ハルカに手を差し出した。


「足元、草と木の根が混ざってるから気をつけろよ」


「わかった。ねえ、ソラヒト。そろそろ日も暮れるし、調理道具も持って行った方がいいかな?」


「そうだな。人がいたら、また料理を作ってやろうぜ」


「持ってくれてありがとう」


「いや、まだ持ってねぇんだけど……」


「ソラヒトはいつも持ってくれるでしょ?」


「消去法で俺が持つしかないからな」


「ふふ。からかってごめん。でも、本当に感謝してる」


「おう」

 

 二人はさっき見つけた廃ビルに向かって歩いた。


 ハルカの手を引きながら、ゆっくりと進む。

 地面は草と石とコンクリートの破片が混ざっていて、非常に歩きにくい。

 所々に水が溜まっていて、ハルカはそこを避けながら歩く。


「大丈夫か?」


「大丈夫。ゆっくりなら歩ける」


「無理するな」


 話していると、煙の出ていたビルに近づいてきた。

 やはり他のビルと違い、一階部分の窓に板が打ち付けてある。入口のドアは、新しい蝶番(ちょうつがい)がついていた。誰かが修理した跡だ。


「ドアの蝶番、錆びてない」


 とハルカが言った。


「ああ、最近直したんかな?

 人がちゃんと住んでる証拠だな」


 俺はドアをノックした。


「すみませ〜ん!」


 しばらく間があった。


 そしてドアが開くと、老人が立っていた。九十歳くらいだろうか。背が高く、かなり痩せている。骨ばった手には、分厚いノートを持っていた。


「なんの用じゃ?」


「俺たち、空を冒険してるんですけど、通りかかったら人の気配があったので」


「やはりさっきの飛行機はお主らのものか」


「見てたんですか?」


「屋上から見ておった。

 小さい飛行機でビルの間を飛んでいたようじゃな。腕がいい」


 老人は、俺とハルカを交互に見た。


「若いな。いくつじゃ?」


「二人とも十八歳です」


「十八で、このビルの間を飛ぶのか。うまいもんじゃ」


「ありがとうございます。こっちの子が、気流を読んでくれるので、安心して飛べるんです」


「ほう、いい感覚を持っておるのじゃな」


 老人はハルカを見た。


「私は大気の変化を、肌で感じ取れる。それを、操縦士に伝えるだけ」


 ハルカが言った。


「第六感の覚醒、か」


「……そんな大したものじゃない」


「わしはテツジという。ここに住んで、九十年になるな」


 と老人が名乗った。


「九十年……。隕石が落ちる前から、東京に住んでいたんですか?」


 また、隕石の日を知っている人と出会った。


「ああ、そうじゃ。立ち話もなんじゃ、中へ入りなさい」


 テツジさんは少し後ろに下がり、手招きをした。

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