第62話:感情を失った人形、鈴木志乃の渇望
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感情のない少女、志乃。
彼女が阿久津君という名の「バグ」を取り込み、初めて少女としての本能を再起動させる瞬間をご覧ください。
聖奈先生が「少し外してくるわね」と意味深な微笑を残して去った後、保健室は再び、二人きりの沈黙に支配された。
カーテンの向こう側、ベッドに腰掛けた志乃は、無機質な瞳で俺をじっと見つめている。その瞳にはハイライトがなく、まるで精巧に作られた人形のようだった。
「……阿久津君。教えて。佐藤さんや田中さんが、どうしてあなたに、あんなに『醜く』執着するのか」
彼女は感情の乗らない声で、淡々と問いかけてくる。
その指先は、自身のタブレットの画面をなぞっているが、その魔力波形は依然として凍てついたままだ。
「俺にもよく分からないよ。ただ、俺の『想い』が、彼女たちの力になってるのは確かみたいだ」
「想い……。非論理的な、バグ(感情)。……でも、今の私は、そのバグがないと……世界を計算できない」
志乃がヘッドフォンを投げ捨て、俺の制服の襟元を掴んで引き寄せた。
至近距離で見つめ合う。彼女の無機質な視線の奥に、焦げ付くような「欠乏」の炎が見えた気がした。
「……阿久津君。私の中を、あなたの『バグ』で、めちゃくちゃに書き換えて」
俺が彼女の冷たい頬に手を触れた瞬間。
俺の内に芽生えた、彼女の空虚を埋めてやりたいという強烈な「独占欲」と「慈しみ」。その熱い情動が、共鳴パスを通じて彼女の脳髄へダイレクトに流し込まれた。
「っ、ぁ……! あ、つ……っ!」
志乃の身体が、電流を流されたように激しく跳ねた。
阿久津の情動という名の猛毒が、彼女の死んでいた神経を強制的に叩き起こしていく。
感情を失った人形が、初めて「熱」を知った瞬間。
彼女のバイオリズムは爆発的な演算速度を叩き出し、瞳には黄金の光が宿った。
「……すごい。脳が、焼けるみたい……。阿久津君……もっと。もっと私を……あなたの色で、汚して……っ」
彼女は潤んだ瞳で俺を見上げ、自身の震える唇を俺に差し出してきた。
無機質だった少女は今、阿久津の『情動』という名の劇薬を、全身の細胞で欲し始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
阿久津君の情動に触れ、システムが過負荷を起こすほどに昂ぶる志乃。
彼女にとって、彼の「熱」はすでに、最高精度のプログラムよりも価値のあるものとなっています。
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