第61話:保健室のカーテン越し、震える小さな影
いつもご愛読ありがとうございます。
物語は新たな舞台、保健室へ。
感情を失った志乃と、すべてを癒やす聖奈。二人の少女が、阿久津君の持つ「情動」という名の灯火に、本能的に惹きつけられていきます。
午後の微睡みに包まれた学園の保健室。
凛華と結衣、二人の女王を「調整」し続ける日々に、俺の身体もまた、説明のつかない倦怠感と微かな熱を帯びていた。
「……失礼します。少し、休ませてほしくて」
静かにカーテンを潜ると、そこには先客がいた。
隣のベッドに座り、膝を抱えているのは、クラスでも一際目立たない少女――鈴木志乃だった。
いつも大きなヘッドフォンを首にかけ、無機質な瞳でタブレットを眺めている彼女が、今は青白い顔で小さく肩を震わせている。
(……魔力の波形が、死んでいる?)
俺の視界に映る彼女のバイオリズムは、深海のように静まり返り、今にも消え入りそうだった。感情の欠落。それが彼女の天才的な電子干渉能力を、内側から腐らせている。
「鈴木さん、大丈夫か? 顔色が悪いけど」
「……阿久津君。……うるさい。あなたの、その『熱』が……脳に響く」
志乃がヘッドフォンを外し、濁った瞳で俺を射抜いた。
その瞬間、俺の内に芽生えた「放っておけない」という微かな庇護欲が、共鳴パスを介さずとも室内の空気を変質させた。
ガサリ、とカーテンが開く。
「あら、阿久津君。またそんなに、女の子を無自覚に『酔わせる』匂いをさせて……」
現れたのは、養護教諭の高橋聖奈だった。
白衣のボタンを緩く留め、慈愛に満ちた、けれどどこか底の知れない微笑を浮かべて俺たちを見下ろしている。
「聖奈先生……。鈴木さんの調子が良くなさそうで」
「ええ、分かっているわ。この子は、あなたのような『猛毒』を欲しがっているの。……もちろん、私もね」
聖奈が俺の首筋に指先を滑らせ、その熱を確かめるように細い目を細めた。
感情を失った人形のような少女と、すべてを包み込みながら飢えている聖母。
保健室という密室で、俺の「情動」を巡る、これまで以上に静かで背徳的な共鳴の予感が、熱を帯びて立ち昇り始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
無機質な志乃と、包容力溢れる聖奈。
阿久津君を巡る共鳴の輪が四人に広がり、主従関係はさらなる混沌と深化を迎えます。
新たな出会いがもたらす波乱に、ぜひご期待ください!




