第53話:一歩も動けない。依存が招いた最悪のコンディション
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ついに鳴り響いた号砲。しかし、結衣を待っていたのは栄光ではなく、残酷なまでの現実でした。
「阿久津君がいなければ一歩も進めない」という、依存の果ての真実をご覧ください。
ピストルの号砲が、静まり返ったスタジアムに鳴り響いた。
だが、田中結衣の身体は、爆発的な加速を見せることはなかった。
スターティングブロックを蹴り出した一歩目は、無様に地面をなぞり、彼女はその場に崩れ落ちるように膝をついた。
「っ、が……ぁ……! あ、つ……身体が、冷たい……っ!」
周囲を走る選手たちが、風を切って彼女を抜き去っていく。
かつては背景のように置き去りにしていた凡俗な走者たちの背中が、今は絶望的に遠い。
阿久津との共鳴という名の燃料を断たれた結衣の肉体は、もはや自力で駆動する術を忘れていた。
筋肉が収縮するたびに走るのは、研ぎ澄まされた加速の悦びではなく、阿久津の情動を求める飢餓感による、焼けるような激痛。
「田中結衣、どうした!? 立ち上がれないのか!」
「やっぱり不正だったんだ……」「あんな不自然な記録、おかしいと思ってたよ」
観客席から降り注ぐのは、期待の眼差しではなく、落胆と嘲笑を含んだ冷たい言葉の礫。
阿久津に触れられ、支配されることでしか最強になれなかった。その事実が、逃れようのない**絶望**となって、彼女の心臓を直接握り潰す。
(あ、ああ……阿久津君。助けて……私、もう、動けないよ……っ)
トラックの土を噛み、泥にまみれながら、結衣は震える指先を客席へと伸ばした。
だが、そこには彼女を救う少年の姿はない。
爆速のエースが晒した、あまりにも惨めな醜態。
依存の果てに待っていたのは、己の無力さを世界中に突きつけられる、底なしの**絶望**だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
かつてない屈辱と**絶望**。
阿久津君という唯一の救いを断たれた結衣の姿は、観客の目にどう映ったのか。
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