第54話:観客席からの視線。阿久津が送る、遠隔の『エール』
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絶体絶命の窮地に響いた、たった一人の少年の叫び。
物理的な距離を超え、魂の共鳴が結衣を再び「最強」へと押し戻します。
静まり返ったスタジアム。トラックの土にまみれ、動けなくなった結衣の耳に、数千の嘲笑を切り裂くような鋭い叫びが届いた。
「走れ、結衣――っ!!」
その声に、結衣の身体がビクンと大きく震えた。
観客席の最上段。警備員を振り切り、手すりに身を乗り出しているのは、間違いなく阿久津だった。
一ノ瀬の隔離を力ずくで突破したのか、彼の服は乱れ、顔には擦り傷が絶えない。だが、その瞳には、今この瞬間も絶望している結衣への、狂おしいほどの情愛と**再起**を願う独占欲が燃え盛っていた。
(……阿久津、君……っ!?)
その瞬間、遮断されていたはずの共鳴パスが、凄絶なまでの熱量を持って再接続された。
距離など関係ない。
阿久津が結衣だけを見つめ、彼女の勝利を誰よりも強く渇望した瞬間、爆発的な『情動』が目に見える黄金の波動となってスタジアムを駆け抜け、結衣の最奥を貫いた。
「っ、ぁあああああ……っ!! あ、ついの……中が、阿久津君で……いっぱいになる……っ!」
冷え切っていた彼女の魔力回路に、阿久津の魂そのものが流し込まれる。
指先、つま先、そして心臓。
依存による禁断症状が、一転して、彼に生かされているという最強の万能感へと書き換わる。
結衣は土を掴んでいた手で力強く地面を押し、立ち上がった。
その瞳には、黄金の魔力の炎が宿り、全身からは周囲の空気を歪めるほどの熱気が立ち上っている。
「……見てて、阿久津君。私、あなたの熱があれば……どこまでだって、走れる……っ!」
絶望を脱ぎ捨てたエースの**再起**。
阿久津の放つ『エール』という名の背徳的な供給を全身に浴びて、彼女は再び、神域の加速へと足を踏み出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
阿久津君の登場と、かつてないほど強烈な遠隔供給。
二人の絆が「隔離」という物理的な壁を粉砕し、結衣の**再起**を後押しします。
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