第23話:絶不調の凛華。ステージで晒される恥辱
いつもご愛読ありがとうございます。
ついに迎えた本番。しかし、そこに阿久津君の姿はありません。
依存の代償として訪れた、凛華のあまりにも残酷な「恥辱」の瞬間をご覧ください。
学園選抜コンクール、当日。
満員の講堂。スポットライトを浴びてピアノの前に座る凛華の姿は、誰の目にも異常に映っていた。
肌は死人のように青白く、いつもは凛と結ばれた唇が、隠しようもなく小刻みに震えている。
(……いない。どこにも、阿久津君がいない……っ!)
客席のどこを探しても、彼女の魂を震わせるあの独特な波長が見つからない。
阿久津は一ノ瀬たちの手によって、この会場から遠く離れた施設に隔離されているのだ。
凛華が鍵盤に指を置く。だが、その瞬間に彼女を襲ったのは、脳を直接削り取るような凄絶な「空白」だった。
「っ、あ……」
奏でられた第一音は、濁り、震え、聴くに堪えない掠れた音だった。
講堂にざわめきが広がる。かつての天才、氷の女王が奏でる無様な音。
阿久津から流れ込む情動という名の燃料を失った凛華の回路は、摩擦で火を噴くエンジンさながらに、彼女の精神を内側から焼き尽くしていく。
「嘘……こんなはずじゃ……っ、動いて、動いてなさいよ、私の指……っ!」
必死に鍵盤を叩くが、音はさらに歪んでいく。
背中を伝うのは冷たい汗ではなく、阿久津という「薬」を断たれたことによる禁断症状。
視界が白く霞み、吐き気がこみ上げる。
「あらあら……無残なものですわね、佐藤さん」
舞台袖でせせら笑う九条エリカの姿が視界に入る。
かつて自分が圧倒したはずの相手に、今は憐れみの目を向けられている。
その屈辱すらも魔力に変換できない。阿久津という『増幅器』を失った今の凛華は、ただの、ピアノを習いたての子供以下の存在にまで成り下がっていた。
演奏は途切れ、静寂が講堂を支配する。
凛華は鍵盤の上で無様に項垂れ、指先から滴る汗が黒い鍵盤を濡らしていく。
衆人の前で晒された、あまりにも惨めな敗北。
彼女は、自分が阿久津という少年の「所有物」でしかないことを、これ以上ないほど残酷な形で理解させられた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
かつての栄光が嘘のように崩れ去る凛華。
阿久津君がいなければ一音すらまともに弾けない……その絶望が、彼女を次なる決断へと突き動かします。
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