↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に  作者: 犬上義彦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

(6-3)


   ◇


 シャワーを出た蒼也は、スマホにたまっているメッセージをチェックした。


 ――ん?


 財務責任者からSNSの画面が転送されてきた。


 須垣と蒼也がパーティーで話している写真が問題視されているというのだ。


 あの時はただ挨拶をしただけで、業務に関する話はしていない。


 今回の騒動に便乗して、あたかも情報が流出していたように見せかけるため、意図的に流されたらしい。


 この画像にはすでに百を超えるコメントがついていた。


《インサイダー確定?》


《ヤバいだろ》


《これは決定的》


《通報案件》


《炎上確定》


 脇が甘かったと言われればその通りだが、明らかに反社会的立場の人物でない限り名刺交換くらいはするし、写真を断ることもできない。


 ただそれを悪用されたら誤解を鎮めるのは不可能に近い。


 株式市場の取引開始まで三十分。


 今日も波乱の一日になりそうだ。


 蒼也はスーツをクリーニングサービスの袋に入れて玄関先に出し、新しいスーツに着替えるとオフィスへ向かった。


   ◇


 幼稚園の昼休み、翠のスマホに知らない番号から着信があった。


 迷惑電話だろうと、一度は無視していたら、画像が送られてきた。


 ――何これ?


 一つの傘に収まった蒼也とレイナがタクシーに乗り込む姿を捉えた写真だ。


 また同じ番号から着信がある。


 翠は画面をタップした。


「写真が気になるだろ」


 名乗っていないのに、直感的に相手が分かった。


「須垣さんですか?」


「勘がいいな」


「どうして私の連絡先を?」


「情報は力だろ」


 答えになっていない返事に苛立つ。


「ご用件は?」と、自分でもびっくりするくらい棘のある声が出た。


「あんたの旦那が大変なことになってるのは知ってるか?」


 夜遅くまで会議をしていたことは知っているが、詳細は聞かされていない。


 返事を躊躇していると、見透かしたような笑い声が追い打ちをかけてくる。


「旦那の会社の株価が大暴落してる」


「そんな」


「旦那の会社を潰さないために、俺が助けてやってもいいぞ」


 相手の意図がつかめず黙っていると、須垣の下卑た声が聞こえてきた。


「その代わり、もちろんあんたには俺の言うとおりにしてもらうけどな」


「何をすればいいんですか?」


「決まってんだろ。あんたの旦那への愛を試させてもらう」と、須垣は鼻で笑って続けた。「バレやしないよ。俺だってヤバイってことは分かってるんだ。わざわざ旦那に告げ口するわけないだろ。ちょっとだけ目をつむっていればいいんだ。何もなかったことにすればいい。それですべて円満解決。約束は守るよ。この世はフェアなトレードで成り立っているからな」


「話すことはありません。切ります」


 通話を切った途端、別の画像が送られてくる。


 ミサラギホテルのカードに蒼也あてのメッセージが書かれた写真。


《蒼也へ 久し振りに愛し合わない? 部屋で待ってる》


 流麗な筆記体で《Reina》のサインも記されている。


 これは……。


 心臓がざわつき、思わず胸を押さえる。


 須垣からまた電話がかかってくる。


 出ざるを得ないように仕向けて、こちらの反応を楽しんでいるのだ。


 翠は動揺を悟られないように努めて冷静に電話に出た。


「無理に落ち着いたふりなんかしなくていいぞ」


「イラつかせて駆け引きを楽しんでいるんでしょうけど、そうはいきませんよ」


 取り繕ってみたところでお見通しなのは、こちらも承知の上だが、どちらにしろ向こうのペースにはめられてしまうのが悔しい。


「写真を見ただろ。旦那だって楽しんでるんだ。あんたも一人の男だけじゃつまらないだろ」


「どうしてこんな写真をあなたが持っているんですか?」


「言っただろ、情報は力だって」


 黙っていると、須垣が声を抑え気味に語りかけてきた。


「どう受け止めるかは、あんた次第だな」


 蒼也の会社がトラブルに巻き込まれているとしても、部外者の翠にできることなど何もないはずだ。


 ただ、それが須垣の仕掛けたことだとしたら、ここで断ればまずいことになるのだろうか。


 判断できずに無言の時間が過ぎていく。


「迷ってる暇はないぞ。今この瞬間も下落している。いつでも連絡を待ってるよ」


 高慢な笑い声とともに電話が切られた。


 スマホでミサラギメディカルを検索すると、真っ赤な株価が表示された。


 関連表示で荒れたSNSも流れてくる。


 ――どうしたらいいの?


 蒼也に連絡を取ってみようとしたが、そもそも、須垣の言っていることが本当なのかも分からない。


 助けてやるというのは、株を買い支えるということなのか、それに、個人でそんなことができるのか、翠にはまったく見当もつかなかった。


「センセー、どうしたの?」と、ヒロキくんとルナちゃんが脚に飛びついてくる。


「あ、ううん、なんでもないよ」


 慌ててスマホを片づけると、ヒロキくんが首をかしげる。


「トム・ソーヤとはなしてたの?」


「ち、違うよ」


「トム・ソーヤってなあに?」と、今度はルナちゃんが首をかしげる。


「こうえんのおじさん!」


 あらら、やっぱりおじさんかぁ。


 蒼也さん、あの時、本気で不機嫌だったな。


「センセー、おうたのじかんでしょ」


 子どもはすぐに興味が移る。


 今は、そういう切り替えがありがたい。


「そうだね、お教室に行こうか」


「オレね、こえでっかい!」


「元気いっぱい歌ってね」


 子どもたちに手を引っ張られているうちに、翠は先生の顔に戻っていた。


 午後の仕事に追われている間は、不穏な電話の内容は風のように吹き去っていた。


 夕方、家に戻ってきたときだった。


 クリーニングが返ってきていた。


 蒼也が朝のうちに出しておいたものだろう。


 翠はそれを部屋に持ち込んで、クローゼットにしまうためにビニール袋から取り出した。


 ふと見ると、ポケットの内容物が小袋に入れてハンガーに引っかけてあった。


 ――これって……。


 どうして?


 いくら疎いといっても、さすがにそういうものだとは分かる。


 薄く四角いコンドームのパッケージだ。


 持ってないって言ってたのに……。


 どうしてそれがスーツのポケットに?


 昼間須垣に見せられた写真が頭をよぎる。


 まさか、レイナさんと!?


 そういう関係じゃないって言ってたけど、やっぱり嘘だったの?


 ――旦那だって楽しんでるんだ。


 沼に引きずり込む魔物の手のように、須垣の声がわいてくる。


 疑いたくはない。


 だけど、何が本当なのか分からない。


 それに、本当のことを知ったからといって、それが解決なのかすらも分からない。


 何も知らない方が良かったの?


 ウブで無知な翠でいれば良かったの?


 関係のない部外者で居続けろというの?


 ここから先は入ってこなくていい。


 オマエニハカンケイガナイ。


 思考が渦を巻き、胸が押しつぶされる。


 ――信じたいのに。


 支えたいのに。


 気がつけば荒い呼吸を繰り返し、目眩に襲われていた。


 思わずしゃがみ込んで息を整える。


 静かな部屋に一人。


 心臓の音が反響し、潰れそうな心をさらに追い立てる。


 ぎゅっと目をつむっているのに涙が滲み出してくる。


 こんなところにいてはいけない。


 翠は鞄をつかんでマンションを飛び出していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。