(5-6)
◇
背中に回された指でワンピースのファスナーが下ろされ、ふわりと床に輪ができた。
下着姿の翠を軽々抱きかかえると蒼也はベッドへと運び、勢いに任せて組み伏せる。
「翠……」
熱い吐息が胸を焦がす。
柔らかく、燃えるようなキスが心を解き放つ。
何度もキスを重ね、官能の渦に引き込まれているうちにいつの間にか下着が剥ぎ取られ、露わになった胸にまたキスの嵐が降り注ぐ。
「ずるいよ、翠」
――えっ。
「こんなかわいい姿を今まで内緒にしてたなんて」
とっさに隠そうとする腕をがっちりとつかまれ、鋭い爪でシーツに縫い付けられる。
「だめだ。もっとじっくり、たっぷり見せて」
遠慮などない男の欲望に蹂躙されながら翠はその愛撫に溺れていた。
敏感な部分をすべて知っていたかのように、蒼也は翠の体で愛のメロディを奏でていく。
自分でも知らなかった愛があふれていく。
――もう迷わない。
翠は蒼也の全てを受け入れる準備ができていた。
だが、その時だった。
蒼也の手が止まる。
「しまった」
「どうしたんですか?」
「いや、その……」と、蒼也が額に手を当てる。「男のたしなみを用意してない」
「いいですよ」と、意味を察した翠は背中に手を回し、力を込める。「夫婦なんですから」
「だけど……」
蒼也を抱き寄せ耳元に囁く。
「蒼也さん。私がどんなに痛がっても、どれだけ泣いても絶対に止めないでください」
「無理することはないよ」
低く抑えた声の優しさが切ない。
ギュッと白くなるほど手を握る。
「お願い。何があってもやめないで!」
「あぁ」と、エメラルドの瞳が熱を帯びる。「愛してるよ。翠の全てが欲しい。おびえた体も、熱い心も」
「私も、蒼也さんの全部を感じたい」
カーテンの隙間から差し込む月明かりに浮かぶ妻を強く抱きしめた男の瞳に炎が宿り、微笑みとともに交わされたキスが、恐怖を焼き尽くす。
「待った甲斐があったよ、翠」
二人のリズムがシンクロし、蒼也の指揮で愛のコンチェルトが奏でられる。
偽装の仮面は燃え尽き、ただ愛の炎だけが燃え上がる。
どれほど愛し合っただろう。
脱力した男の体がベッドに沈む。
「やっと手に入れたよ、俺の宝物」
男の吐息に、翠は温かな涙で頬を濡らしていた。
◇
淡い光が差し込む朝のキッチンで、蒼也が翠の腰に腕を回し、首筋にキスを落とす。
「翠、食べてもいい?」
吐息が火照った肌をくすぐり、胸が熱くなる。
「蒼也さん、朝からそんな……」
――ベッドから出たばかりなのに。
身をよじり逃げようとする翠を、蒼也ががっちりとした腕で引き寄せる。
「俺の心を乱れさせるのは誰だよ」
男の指が荒く髪を梳き、瞳がまっすぐに捕らえられる。
「蒼也さん、こんなの……愛されすぎです」
うずく体に途切れることのないキスが襲いかかり、翠の鼓動を狂わせる。
「逃がさないよ」
胸から舌を這わせていく容赦ない視線が恥じらいの殻を打ち砕き、新しい扉を次々に暴いていく。
理性が時計に目を向けさせるのに、知ってしまった愛に溺れる好奇心が、豹変した男を受け入れてしまう。
「愛してる。何度でも言うよ。愛してる、翠」
「私も……」
愛があふれ声にならない。
二人の吐息が絡み合い、世界が虹色に輝き始める。
理由なんてない。
こうなることを望んでいた。
熱い吐息の輪唱は終わらない。
窓の外では、月曜日の都会が動き出していた。




