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ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に  作者: 犬上義彦


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(5-5)


   ◇


 会話のないままマンションに戻ってきた翠は、部屋に入ると引き出しから結婚指輪の箱を取り出した。


「こんなのもういりません」


「何を言うんだ」と、蒼也は翠の手を握って押しとどめる。


「それに、これも……」と、箱を開け、台座の下にしまっておいた宝物を取り出した。


 ミサラギホテルのマークがついたお子様ランチの旗だ。


 翠はそれをくしゃくしゃに握りしめてゴミ箱に投げつけた。


「翠……」


 拾い上げた蒼也が丁寧に広げるが、折れた爪楊枝の旗竿だけは元に戻らない。


「ずっと大切にしていてくれたのか」


「ただのゴミです」


 退屈していた翠を冒険に連れ出してくれたあの日のトム・ソーヤなんて、もうどこにもいないのだ。


 だが、折れた旗を翠に握らせ、蒼也がさびしそうにつぶやく。


「ゴミなんかじゃないさ」


 スーツの内ポケットから財布を取り出した。


「笑われるかと思って、隠してた」


 きれいなままのもう一つの旗が翻っている。


「蒼也さんもそれを……」


「翠だと思ってずっと大事にしてたんだ」


 二本の旗を見つめる二人の心に淡い思い出がよみがえる。


 手を引いて庭に連れ出してくれた蒼也。


 エサに群がる鯉におびえる翠を支えてくれた蒼也。


 チャペルで誓い合ったあの日の私たち。


 今でもちゃんと目の前にいるのに、どうして心が震えてしまうんだろう。


 翠は涙をこぼしながら蒼也の胸に飛び込んだ。


「ごめんなさい」


「いいんだ」と、蒼也が背中を撫でる。「あやまらないでくれ。翠は悪くないんだ。何度もこんな失敗を繰り返す俺がいけないんだから」


 背中から髪へと蒼也の指が絡んでいき、額にキスを落とす。


 頬を撫でた指が翠の顎を上げ、揺れる瞳をじっとのぞき込む。


 絡み合う吐息をふさいで重なる情熱的なキスが翠の不安を溶かし、こわばっていた体を雪解け水がじわりと潤していく。


 ――知りたい。


 まだ知らないあなたを。


 刻みつけてほしい。


 まだ知らない私に。


 翠は自分から蒼也の背中に腕を回し、キスを返した。


「他の誰かに奪われないように、ちゃんと蒼也さんの印をつけてください」



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