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転生皇子は名探偵に憧れている  作者: 秋月 忍


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暗号

 学院から宮廷に戻ると、若干の公務がある。

 各地から寄せられる陳情書の仕分け作業だ。

 あまりにもいろんなことに足を突っ込みたがる俺に辟易した陛下が、「とりあえずやってみろ」といってくれた仕事である。

 陳情書に目を通して、緊急度や関係部署ごとに分けるという作業。もちろん、俺が仕訳けた後、優秀な事務官が再度チェックをする。

 まあ、やることといえば、読んで分類しリストを作るだけだ。事務官の仕事を邪魔しているという説もあるけれど。

 陳情書と一言で言っても、かなりいろんなものがある。

 どこそこの橋が壊れそうとか、道路の整備の希望、税金が高い、法律の不備を訴えるものとか、役人のパワハラ、不義密通にいたるまで、多種多様だ。

「ええと、ピリトの森付近で魔物が増えている──これは陛下へと。それから、ごみの焼却炉の修理は、と」

「レグルス殿下もだいぶ慣れてきましたね」

 マークル・ドノバン事務官が、俺の仕事を見ながら頷く。卓上の魔術師という異名をもつほど、彼の事務仕事は正確でしかも早く、陛下の信任も厚い。

「そういえば、モブー伯爵って、どんな人だっけ?」

 今日の仕事の分をまとめると、俺はドノバン事務官に訊ねた。

 伯爵以上の貴族については会ったことがあるはずだし、領地の産業なども記憶していてしかるべきなのだけれど、あまり記憶がない。

「ええと」

 ドノバン事務官にしては、珍しく少し考えるそぶりをした。

「ダン・モブー伯爵は、陛下のご学友だった方ですね。領地は内陸の豊饒な穀倉地で堅実な経営をなさっておられ……近々、息子さんに爵位を譲られるという話を聞いております」

「……記憶にないなあ。なぜだろう」

 レイラ・モブーにしたって、あれほど優秀な人間に今まで全く注目とかしていなかった。美人といってもいい顔立ちなのに、どうしてあんなに目立たないのか。

「そうですね。なぜか記憶に残りにくいところがおありの方だと思います」

 ドノバン事務官は苦笑した。

「非常に優秀な方なのですけれど……名前がなかなか浮かばない不思議な方です」

「ドノバン事務官でもそうなのか……」

 貴族名鑑とか暗記していそうな彼でも、パッと思い出せないから、いざ! という時に名前が候補に挙がりにくい人物なのだそうだ。

 ただ、選ばれると皆が納得するらしい。

 親子して優秀なのに、影が薄いというか印象が薄いというか、不思議だ。

「陛下はよくご存じだと思いますよ。かなり仲がよろしかったようですから」

「挨拶とかはしたことある……のだろうなあ」

 陛下、つまり父と親しいということは、公の場で話をしたりすることもあったはずだ。顔を見れば思い出すのかもしれないけれど。

「モブー伯爵がいかがいたしましたか?」

「同級生のレイラ・モブー嬢と今日、話をしたのだけれど、かなり優秀な令嬢だなあと思ったから」

「なるほど。殿下からご令嬢の名前を聞くのは初めてですね」

 ドノバン事務官はほんの少し口の端を上げた。

「わかりました。少し調査をしておきます」

 ドノバン事務官はうんうんと頷く。

「あ、いや、別に問題があるとかでは……」

「殿下がはじめて興味を持たれたご令嬢、既に縁談等があったならスキャンダルにもなりかねませんから、しっかりと調査をしなければ参りません」

 こほんと、ドノバン事務官は咳払いをする。

「俺は別にそんなつもりでは……」

「ならばなおのこと、恋は予感のうちならば、引き返せます。落ちてしまってからでは遅いのです。もちろん秘密は守りますからご安心を」

 ドノバン事務官はニコリと微笑む。

 あ。なんか完全に勘違いされた気がする。まあ、身辺調査くらいならいいか。あれだけ優秀な令嬢だから、将来的に国に重要なポストに入るかもしれないし。

「だったら、ついでに、アリア・ブーリコ伯爵令嬢についても調べてくれる?」

「よろしいですが……殿下、まさか二人の令嬢を天秤にかけられているとか?」

「違うよ。ついでにいうと、ブーリコ嬢はタイプでも何でもないし!」

「はあ。わかりました。でもスキャンダルは勘弁してくださいよ」

 ドノバン事務官は険しい顔で念を押す。

「安心しろ。スキャンダルは自分が起こすより、見る方が好きな方だから」

「起こすのが好きな人はおりませんよ」

 ドノバン事務官は呆れたように肩をすくめた。



 仕事が終わり自室に戻ると、俺は今日の出来事を整理することにした。

 平凡な俺にしては、かなりいろいろなことがあった日だった。ノートを広げて、ペンをとる。


① マダライモリの召喚

・アリア・ブーリコの机からマダライモリが次々に召喚される。

 原因は、アリアの杖が召喚カードに反応しての誤作動。

 →レイラ・モブーが返還の呪文を唱え、事なきを得る。

・召喚カードを描いたのは、おそらくアリアではない。アリアは他人の召喚カードを課題として提出しようとしていた可能性がある。

・マダライモリの召喚陣は斑紋愛好会の活動記録を参考にした可能性がある。

・ニック・ゲキシャー

 →ローズ・コーマーが前日の放課後に教室にいたと証言。ローズは否定。ローズが嘘をついているようには見えなかった。彼の証言は『勘違い』もしくは意図的な『虚偽』か。


② 召喚カードの落とし物

・レイラ・モブーが花壇で拾った。中には大量の魔術カード。半分は記入済み。

 →記入されていたのは、斑紋愛好会の活動記録にのっていた陣。また、アリアが持っていた召喚カードと酷似している。同一人物の可能性あり。

・レイラの話では魔術や論文を代行する結社があるらしい。


③ アリア・ブーリコの交友関係

・トーマス・ノーキン 

 婚約者(ハティ・ドーラン侯爵令嬢)がありながら、アリアに夢中である。その想いは盲目的で、冷静な判断ができない。

・ジェイムズ

 おそらく召喚カードを彼女に渡した相手。一年生。

 

「うーん。でも課題代行は考えすぎなのかなあ」

 ここまで書いて、ふと思う。

 アリアが課題の不正をしようとしていた可能性は非常に高いとは思うが、対価をしっかり払っているようには見えず、むしろ「おねだり」という搾取しているように見えた。

 もし、彼がアリアの持っていたカードを描いたとすれば、落とし物も彼のものの確率も高い。

 そうそう。『召喚カードの手持ちがない』と言っていたような気がする。あれだけのカードを落としてしまったとしたら、かなりの損害である。

 もっとも。

 ただ、あの量のカードを持っていたということは、かなり裕福な家の令息でなければ無理だ。

 レイラが不審に思うのも理解できる。

 仮に彼が例のひも付き封筒の持ち主だとして。彼は魔術同好会か何かなのだろうか。

 陣を見る限り、取り立てて魔力が高いわけではなく、得意というわけでもないだろう。もちろん得意でなくても、『好き』であることは自由で、切磋琢磨することは、素晴らしいことだ。

 ただ、『好き』であるだけで、あれだけの『投資』ができるものなのか。

「そうだ。斑紋愛好会!」

 俺はペンを置き、借りてきた本を取り出した。

 見れば見るほど不思議な本だ。

 伯父、エゼキア・ロイゼンバーグは何を考えてこの同好会を作ったのだろう。

 俺はゆっくりとページを開く。

 マダライモリ、マダライモ。真鱈とイモのソテー。

 なんとなく語感が似ている。

「まさか……まだらのヒモ?」

 有名な名探偵の名作短編の和名タイトルだ。

「ちょっと待てよ」

 マダライモリの陣が描かれたページを再び凝視した。下部に、黒いインクで不思議な記号が描かれている。どこかで見たような、既視感。


挿絵(By みてみん)


「……これ、ひょっとして、カタカナ……日本語?」

 太線で、ところどころ目みたいなものが付けられていてわかりにくいけれど、カタカナのように見える。少なくともこの国の文字ではない。

 目玉は一文字にひとつずつついている。

 この国の文字はどちらかといえばアルファベットに似ている。同じではないけれど。前世の文字の記憶は鮮明ではない。

 俺は必死で脳みそを回転させる。仮にこれが日本語だとすると……。

「ミヂヤキホラ」

 なんのことだ?

 あ。

 これ、暗号なのかも。

 そういえば、かの名探偵のシリーズでも暗号を取り扱った作品があった。

 つまり目玉は暗号を解くカギである。

 最初の二文字は上に。三文字目と五文字目は右。四文字目は左。六文字目は下に目がつけられていた。

 俺は五十音を書き出してみる。

「そうか。これ、目のある方にずらして読むと、マダライモリになる!」

 俺は驚いた。

 ということは、伯父も前世の記憶があって、しかも日本語がわかる。

 誰もわからないであろう『文字』をあえて暗号にするとは。用心深いにもほどがある気はするけれど。

 俺は他のページの記号を読み解いていく。

 マダライモ、シロマダラ……。この記号がカタカナであることと、目玉がずれる方角であるということが正しいことが証明される。

 ということは、このあとがきと思われる記号はいったい何と書かれているのか。

 俺はゆっくりと読み解いていく。


 ゼンセノキオクガアル、ドウシヨ。

 コノセカイハ、『トキメキマジカル』。ワタシハ、アクヤクダッタ。

 ナントカ、ゲームカイヘンニセイコウ。ワタシハイキノコッタ。

 イツカニホンヲシルキミニアエルトシンジテ、コレヲシルス。

『ハンモンドウコウカイ』ノキーワードデアエルコトヲネガウ。


 つまり『斑紋同好会』という奇天烈な同好会を立ち上げたのは、前世の記憶がある人間を捜していたということだったのか。『ときめきマジカル』という作品名は記憶にある。プレイしたことは全くなかったけれど、確かギャルゲーの元祖と呼ばれた人気シリーズだ。

「マジかよ」

 もしここに書いてあることが本当なら、今のこの世界はもともとギャルゲーだった世界を改変した未来ということだ。

「だからといって、今更どうだって話だけどなあ」

 伯父が学生時代に既にゲームを改変したというのであれば、もはやこの世界はただの事後が三十年ほど普通に続いているだけである。

「ま。ゲーム云々は別として、どうみてもシャーロキアンだよなあ。同じシャーロキアンとして挨拶はしておくかな」

 とりあえず、斑紋愛好会の謎はとけた。

「課題代行とは直接関係はなさそうだけれど」

 俺はペンをとり、伯父に面会を申し込む手紙を書き始めた。




 


 


暗号画像見づらくてすみません……。


謎を作るより、この画像を作る方が手間がかかった( ;∀;)

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