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転生皇子は名探偵に憧れている  作者: 秋月 忍
通気口の怪/課題代行

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20/24

供述1

短め。遅刻。すみません

 応接セットを持ち込まれた実験室に入ったマルク・レーナンは、興味深そうにあたりを見回し、噂の通気口を見上げた。

 パーティションの向こうで作業をしているため、例によって壁からクインクインという小さな音がきこえている。

「とりあえず、そこに座って」

 俺はソファを指し示すと、レーナンは指示されたとおりにソファに腰かけた。

「殿下、お茶を」

 レイラがそっと俺とレーナンにお茶を差し出す。

 イリスとジェイムズも実験室にそっと入ってきて、パーティションの向こうへと消えていく。おそらく壁にめり込んだイリスの手当てをするのだろう。

「それで、何の話だい? 召喚カードの件なら、俺ではなく、教師に話に行くのが筋だろう?」

 暴いたのは俺かもしれないが、学院内のことを裁く権力は俺にはない。

「それとも苦学生の出来心で行ったことだから情状酌量をという話か?」

 レーナン家の財政事情はそこまで芳しくはないという話で、おそらく平民であるジェイムズ・ウイルソン家と変わらないか、もしくはそれより悪い可能性もある。

「魔力の高い殿下にはお分かりにならないでしょうが、あの課題は私のような魔力のそれほど高くない人間には膨大な時間が必要です。しかし、どんなに頑張って描いたとしても教師が重要視するのは、実技の方です。つまりは持って生まれた才ですべて決まること。努力は全く報われず時間のロスでしかないと常々考えておりました」

 レーナンはふうぅとため息をついた。

「魔術師になろうと思っているわけではない私のような人間にとって、その時間は別のことに使った方が有意義だと思って始めました」

「要するに、人助けだと思ったのか?」

 彼の言いたいことはわからないでもない。

「そうです」

 レーナンは頷いた。

「召喚カードはどこで手に入れた? あれは君が描いたわけではないだろう?」

「あれは、エリー・スポールディング嬢のコレクションです」

 レーナンはちらちらとパーティションの向こう側を気にしている。人の気配が気になるのかもしれない。

「コレクション?」

「はい。スポールディング嬢は、他人の描いた召喚カードをコレクションしておられます。絵画のように味があるとおっしゃっていて。しかも魔力がそれほど高くない方がいいとか。ダンカンさまに呼ばれて、スポールディング家にお邪魔した時、そのコレクションを見せていただきました」

「絵画ねえ……」

 召喚陣に個性があるのは事実だが、それを絵画のように楽しむというのはあまり聞いたことがない。

「正直、興味はありませんでしたが、口裏を合わせて頷いておりましたら、何枚か譲っていただけるということになりました」

「へえ。つまり、スポールディング嬢にもらったと?」

 俺は呆れた。

 もし、それが本当ならエリー・スポールディングから譲り受けたものを使って、勝手に商売をしたということになる。人当たりの良い好青年という第一印象を大きく裏切るものだ。

「令嬢は君がそのような商売をしていることは知っているのかい?」

「……ご存じないと思います」

 レーナンは首を振った。

 なるほど。エリーがジェイムズから定期的に購入していたのは、あくまでも趣味。

 いささか苦しい言い訳に感じるが、そうであればスポールディング家は課題代行とは無縁ということになる。

 つまりは今回の事件は、マルク・レーナン個人の単独犯で、スポールディング家は直接関与はしていないということだ。

 本当だろうか?

「レーナン先輩は、エリー・スポールディングさまとどのようなご関係なのでしょうか?」

 ぽつりと、レイラが口をはさむ。

「ひょっとして、何か弱みでも握っておられるということですか?」

「え?」

 レーナンは意表を突かれたらしかった。

「ああ。普通に考えて召喚カードは魔道具だ。たいして難易度の高くない召喚陣にそれほど価値はないにせよ、ただで何枚も譲るというのは不自然だな」

 じろりと俺はレーナンを見る。

「私がスポールディング嬢を恐喝をしているとお考えでしょうか?」

「その可能性もあるだろう? そうでないなら、彼女が君に求愛しているという見方もある」

 男が気になる女に宝石や花を送るような感覚で、召喚カードを贈ったというのであれば、それなりの金額になったものを渡していても納得はできる。

「それはありません!」

 レーナンは慌てて首を振る。

「そのようなことはゆめゆめございませんので、誤解のなきようにお願いいたします」

「俺としては、逆にその方がありがたいけれどねえ」

 コホン、と、俺は咳払いをする。

「まあ、いいか。ちなみに誰と誰に売ったとか、リストはある? 一人、二人ではないことは、把握済みだから。それからいつからはじめたの」

「リストは勘弁してください。始めたのは昨年末からです……」

 レーナンは神妙な顔で俯く。

「そのリスト、公けにしないということは、買った人間を生涯にわたって苦しめようとしていると推測せざるを得ないのだけれど」

 俺はじろりとレーナンを睨む。

「今、公けにしてしまえば、せいぜいが教師に説教を喰らって課題を再提出ですむ。だけれど、このまま闇に葬ってしまうなら、そのリストは恐喝のネタになる。もちろん課題で不正をするなんて、軽犯罪でしかないけれど、それでも社交界に出れば、本人の名誉を汚すことにはなるだろうからね。もちろん、君がそこまであくどい男とは思いたくないけれど」

「それは──」

「無論、実際に君から購入しても不正をしなかった人間もいるだろう。それは魔術鑑識をすればすぐわかる」

 俺がそういうと。

「わかりました──」

 レーナンは観念したように頷いたのだった。

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