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転生皇子は名探偵に憧れている  作者: 秋月 忍
通気口の怪/課題代行

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19/24

出頭?

 フィーゴ・ノックウエルが出て行き、足音が聞こえなくなると、俺はようやく扇を机の上において、ほぉーっと息を吐いた。

「お疲れ様でした。殿下。ほれぼれするほどお美しかったです」

 レイラが目をキラキラさせて俺を見る──なんか嫌なんだけれど、その妙な期待感はなんなのだろう。

「ホント、ホント。すっごく笑えた。笑い声かみ殺すのが大変だった」

 パーティションの向こうから現われたロベルはまだ笑っている。

「なんだよ。ロベルがやれっていうから、やったんじゃないか」

 俺はかつらをとって、姿勢を崩した。

「別に『ジェーン』じゃなくて、()がノックウエルを尋問してもよかったのに」

「出自の分からない謎の『ジェーン』さんで正解だったのでは?」

 レイラが口を開く。

「探偵愛好会は殿下が主に活動していることは少し調べればわかること。魔術鑑定をするために魔塔が乗り出したと勝手に勘違いしてくださったからこそ、ノックウエルさんも観念したのだと思います」

「まあ、それも一理あるけれど」

 俺は肩をすくめた。

「めちゃくちゃ神経使うし、何度もやりたいとは思わないなあ」

 顔を知られている俺が()()()()()()()になるというのは、得難い経験で、少し面白かったのは事実なのだけれど、それなら女装でなくてもよくないか? という気もする。

「とりあえず、演劇部の部員名簿と召喚カードのチェックをしないといけないな。一年生はそんなに数がいないはずだから、たいして時間はかからないだろう」

「しかし男爵家の三男坊じゃ、スポールディング家の駒になる選択しかないかもな。スポールディング家は帝国劇場の劇団のスポンサーの一つだったはずだし。将来劇団に入りたいなら、ご機嫌は損ねたくないよねぇ」

 ロベルが肩をすくめる。

「なんにせよ、事情は聞く。が、売った彼の罪を問うのは難しいだろうな。ジェイムズのカードを買い取ったエリー・スポールディングもそうだけれど。結局のところ、不正をしたのは本人の責任と学校側はとらえるだろうから」

 この場合、マルク・レーナンの罪を問うとしたら、不正をするように薦めたという点で、『教唆犯』ではある。一応は『共犯』になるのだが、もともとの罪が、課題の再提出と追加課題で済んでしまう『軽犯罪』だ。停学など重たい指導が学院から入ることにはならない気はする。

「では、部員名簿を確認いたしますね。あと、ひとつ気になるのですが、魔素吸着機の音がずっと続いておりますが、何か魔道具をお使いになっておられますか?」

「あ、やべえ。動かしっぱなしだった」

 レイラに指摘され、ロベルが慌ててパーティションの向こうへと引っ込んでいく。

「さあて、俺も着替えようかな。それにしてもスカートというのは、妙にすうすうするものだねえ」

「ドレスだと裾が長いのでそこまででもないですよ。そのかわり非常に重くて歩きにくいですけれど」

 くすり、と笑う。

「ふうん。ご令嬢も大変なんだねえ」

 服でも何でも装飾が多ければ、その分、重量が増える。

 ドレスに限らず儀礼用の服はやたら重い。

 刺繍とか宝石の装飾とかで、布の重さにさらに上乗せ要素が多すぎるから。優雅な淑女の装いも、それなりにしんどいのだろうな。

「ジェーンさまが舞踏会に出るようなことがありましたら、私がエスコートいたしますね」

 ふふふと、レイラが笑う。

「その時は当然、男装してよ」

「ええ。もちろん」

 レイラは女性の中では比較的身長が高い。端正な顔立ちで均整の取れた体つきだから、男装も似合いそうだ。

「モブー嬢が男装したら、きっとかっこいいよね」

「そうだとよろしいのですが。お化粧を落とす道具はこちらに置いておきますね」

 レイラはテーブルの上に洗顔用のクリームなどを並べた。

「これで、ダンカン・スポールディング侯爵令息がジェーンさまに会うことを諦めてくれればいいのですけれど」

「え? 塔からの人間だって伝わったら、さすがに手を引くと思うけど」

 俺はノックウエルに口止めをしなかった。

 きっと彼の口から、不正が教師にバレたこと、ジェーンが不正の調査の為に派遣されたことなどを聞くに違いない。

 おそらくダンカンは、ジェーンの正体がつかめずこだわっていたと思われる。役人だとわかればそれで満足するだろう。

「そうであればいいのですけれど──」

 レイラは何かを憂慮しているように首を傾げた。



 結論から言えば、演劇部の一年生六名のうち、ノックウエルを含め三名がジェイムズの召喚カードを提出していた。あとの三名は『アマガエル』を提出しており、三名とも『異なる』人物が描いたと思われるから、シロの可能性が高い。

「殿下! たいへんです!」

 猛ダッシュで廊下をかけてくる『音』に気づいて、ドアのそとをみると、久々にイリスが壁にめり込んでいた。

「どうした? ついに運命の人にぶつかったの?」

「違います!」

 イリスは壁にめり込んだまま、ゆっくり歩いてくる人物を指さした。うん。器用だな。

「マルク・レーナン先輩が、殿下にお会いしたいと!」

「レグルス殿下にはお初にお目にかかります。マルク・レーナン、召喚カードの件の釈明の為にまかり越しました」

 レーナンは俺の前に立つと神妙な面持ちで、頭を丁寧にさげた。

 


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