5日目その8 学校走
「こちら放送部から最新のニュースをお届けします。
プールサイド発砲事件、文化祭死神事件、体育祭
破壊神事件については先生方が調査しております。
死神事件で意識不明だった生徒たちは無事なようです」
混乱を修復するかのように、学校全体にアナウンスが流れた。
「人間も大変ですね。まあ、神が起こした現象ですから理解するのに時間がかかるでしょうね」
「死神や破壊神のことは、文化・体育祭の一環だったことにすればいいだろ」
円々姫があきれた目をこちらに向けてくる。
だから、俺は笑ってやった。
「・・・カンニング様の笑顔って、素敵ですね」
「え、本当か」
「おーい、先輩ーッ!その笑顔は僕似ですか^_^」
ようきがこちらに向かって走ってきていた。
「そうかもしれないな」
「そんなことを言ってくれるなんて、嬉しいです」
本当に急いで来てくれたのだろう、着いた途端に息を切らしていた。
「本当にすごいです。僕でも倒せなかった 破壊神
を倒すなんて」
「円々姫とレイのおかげだよ」
「レイがですか!」
「そうだ。というか、よくあの状況になっても負け
を認めなかったな、レイ」
自分に向けられた言葉だと分かったのか、さっきまでユメの方を見ていたレイが俺を見る。
「かすかだが、まだ希望があったからな」
「ほう、というと」
「学校走で君に勝てば、ユメと話すチャンスが得られる」
こいつ、降られても降られてもユメを追いかけるつもりだ。ここまでくると怒りよりもあわれさを感じてしまう。
「何を話すつもすなんだ」
「ユメに戦争を止めてくれないか説得するつもりだ」
「え」
俺の顔を見て、レイも「え」という顔をした。
「なんだよ、その顔は」
「だって、レイは天使のボスに恋しているんだろ。それなのに、火に油を注ぐようなことを言うつもりなのかよ」
「私は、天使のボスではなく、ユメのことが好きだった」
レイの話によると、レイが彼氏だった頃の
ユメはもともと優しい性格だったらしい。しかし、ある日を境に、ユメの性格は一変した。それまでどんな境遇の神でも分け隔てなく接っしてきたユメが、他民族を攻撃するようになったのだ。最終的には彼氏を捨てる決断をするほどになった。
そこでレイは、仲間兼彼氏としてユメと手を組み、ユメが変わるきっかけとなった要因を探るのであった。
「そして見つけたんだ、要因を」
レイは俺を指差した。
「君だ」
「え、俺 !」
「そうだ。ユメは天使のボスになる者として人間界の小学校に潜入したことがある。それから帰ってきてから、ユメの様子がおかしかったんだ。調べてみると潜入したクラスにカンニングがいたんだ」
確かに、小一の頃、ユメとは同じクラスだった。ユメは途中から学校に来なくなったが、ユメとの関係はそれだけだ。もしかして、悪魔との対立も俺のせいだって言うのか。
「俺は何もしていないッ!」
「だったら、なぜあの時逃げたんだ」
「あの時って、いつのことだ」
「私が君を連行した時のこと。私は君と話をした
かっただけだったのに」
レイが話していることが本当なら、俺は無駄足を
してしまったのではないか。いや、そのことが分かっていても、俺はレイ と話さなかっただろう。
今度 は 俺がレイに指差す。
「お前のやり方が悪いんだよッ! あれじゃ、犯罪者
や通り魔にしか見えないだろッ!」
指を指されている当の本人は、落ちこむどころか
ほほえみを浮かべていた。
「それだけならいいんだ」
「え」
「始め、私は君を疑っていたけど、今なら信じることができる。きっと君は何もしていない」
レイは俺の指差している手を両手で包み、しっかり握った。
「ユメのことも、戦争のことも、後は私にまかせろ。」
「・・・」
素直にうんとは言えなかった。
なぜなら、レイの言っていることは、
学校走をわざと負けてくれと言っているようなものだからだ。
俺はレイの手を振りほどく。
ばか言うな!戦争を止めるのは俺だ!」
「話を聞いてなかったのか!君は関係ないんだ!
私は戦争を止めて、ユメに告白するのだ!」
「ただ、戦争を止めるのは俺だって言っているんだ!」
学校のチャイムが鳴ったのは、この時だった。
「ピンポンパンポーン。放送部から、そこのレイと
カンニングの二人、自分の立ち位置に戻ってください。学校走最終ステージが始まりますよ」
何とか今の状況を把握できたのだろう。それとも
父が頑張ってくれたか。どっちにしろ、やっとという感じだ。
「さあ、学校走最終ステージが始まろうとしています。
この最終ステージは、先に校庭一周を走った人が勝ちです。
いろんな事件などがありましたが、校長先生によると、いままでのは生徒によるドッキリサプライズだそうです。
皆さん、盛り上がりましたか!」
学校全体に響くような歓声が上がる。
父の頑張りにもびっくりしているし、生徒の心の広さにも驚いた。
「文化祭・体育祭、どちらが一番盛り上がったかは、学校徒後、皆に投票してもらいます。学校走に勝ったランナーの支持組には30点加点されます」
「やっぱり、決着は学校走で決めるしかないようだな、レイ」と俺は言った。
「ここまで利害が一致しない人と出会ったのは初めてだよ」とレイは言った
俺とレイはスタートラインに移動する。
それでは、ランナーの登場です。
エントリナンバー、1番。
セ中高校が誇る秀才、赤井レイ!」
レイがグランドに立つと拍手大喝采が起こった。
「エントリナンバー、2番。
神出鬼没のあまのじゃく、カンニング!」
俺は大広場であるグランドに立つ。レイよりは
少ないが拍手大喝采なみの拍手は聞こえた。
「先輩!フレー、フレーです!」
「カンニング様!頑張ってください!」
円々姫とようきが昇校口から応援していた。
後ろには父がいた。
これぐらいの声援だけで、俺には十分だった。
俺はレイの隣に立つ。
「あの時、お前は俺のことを敵だと言ったな。
それは違う。俺はお前のライバルだ」
「私のライバルなら、私に勝ってみろ」
今からこいつと競走する。
「オン、ユア、マーク」
俺とレイはクラウチングスタートの姿勢に入る。
「セットゥ」
腰を上げる。
「ゴオー!」
アナウンサーの声に合わせて、一斉にスタートを切る。
体をぐんと前に出す。校庭一周ーー200メートルぐらいか。
確か、俺の中3の記録は27秒だったな。
速いか遅いか良く分からない中途半端の記録だな。
でも、これは中学とは違い、意味がある競走だ。
だから、全身に力が入った。
今のところレイとの差は、ほぼない。いける!
私はほぼ楽勝だった。カンニングには悪いが、
私には特別な数の制し方があった。
一瞬間移動だ。
私は好きな所に瞬間的に移動できる。だから、
破壊神の所にもすぐ移動できた。
あの夜、カンニングがずるで私たちに勝ったように、
私もずるでカンニングに勝ってやる。
私は眼鏡を光らせる。
特訓の成果を見せてやる。
「一瞬間移動」
「おっーーと!二人の姿が見えなくなったぞ!」
そうだろーーーって二人!もしや、カンニングも
瞬間移動ができるのか。だとしても、この速さは
普通の人間の体では耐えられないはずだ!
残り50メートルを切った所で私はブレーキをかけた。
景色が止まった瞬間、カンニングが私の横から
飛び出してきた。
こいつ、私が瞬間移動すると同時に、私の肩を掴み、あの次元の中で連いてきたと言うのか!
しかし、カンニングは地面につき刺さるようにこけた。
「どうしてそこまでして、私を止めた」
俺はぜえぜえと息を吐く。こけた時に口に砂が入ったらしく、じゃりじゃりとした感触を感じる。
ぺっぺっと砂を吐き出しながらも、俺は答えた。
「ぺっ、お前が俺みたいになってほしくなかったんだよ!それに、ぺっ、この勝負はずるで勝敗を決めるほど価値がないのか?ばかだ、ぺっぺっ。
それ以上の価値あるだろ!」
「・・・カンニング」
「そして、お前がこうやって突っ立っている間にも、走ってやるぜ!」
「カンニング!」
俺はまた走り出す。
「カンニング様!」
円々姫が叫んでいる。
「先輩!」
ようきが応援している。
「由」
父が少し心配している。
「二人とも頑張るなーーーッ!」
ユメが批難している。
たくさんの声、たくさんの熱、たくさんの思いの
ド真ん中で俺はレイと競走している。
こけたがなんだ、ばかだがなんだ、くそだがなんだ、
俺は円々姫のためにずるなしで勝ちたいんだ!
「おりゃゃゃゃーーーッ!」
ゴールが見えた。
俺は足の裏全体で地面をけり、挑躍する。
レイは頭を突き出す。
「ユメの彼氏はこの俺/私だ!」
二人がゴールをきったのはほぼ同時だった。
「カンニングの勝ち!」
アナウンサーが高らかと宣言した。
「やったーッ!」
「え、どういうことだ。私が思うかぎり、ほぼ同時だった気がするが」
混乱しているレイに俺は人差し指を立ててみせた。
「ちっちっち。君は知らないのかね。走種目はトルソーがフィニッシュラインを越えないとゴールと認識されるのだよ」
レイはまだ理解していない様子だ。
いや、理解したくないのか。
「だから、頭を突き出していたお前に対してトルソ
を突き出していた俺の方が速いってことだ。」
レイは膝から崩れ落ちた。それは、破壊神のときよりもダイナミックで、屈辱を表していた。
レイには悪いがここは大いに喜ばせてもらおう。
「俺の勝ちだ!」
俺は空に向かって拳を突き出した。
雲一つない快晴の夏だった。




