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新たな旅立ち4

 復活の聖日、これはシュタナートが再誕した日であり、現在、この世界で毎年最も広く祝われる記念日で、シュタナートがこの世界から異世界へと旅立つ日である。

 敢えてこの日に旅立つことにしたのは、毎年祝う特別な日をこれ以上増やさないというシュタナートなりの配慮があった。


 この日、この巨大な城の中でも最も広大な一階大広間には所狭しと大人数が立ち並んでいて、前方に立つシュタナートに対して、対面して控えながら話に耳を傾けていた。

 

「私は間もなく、この世界より去り新たな世界へと赴くが、これが私やこの世界に住むものにとっても終わりで無く、始まりとなることを望むし、そうなるものと思っている。それでは皆、今まで私に尽くしてくれたことに感謝する。これからも皆の健勝と活躍を心より願う」


 シュタナートは大広間奥にある玉座の前方に立って、煌々とした双頭の不死鳥の紋章の下で大広間一杯に広がる臣下たちへ自身の思いを伝えていた。

 その声は魔術によって拡声されているので、どのものにも、かなり聞きやすくなっている。

 畏まって話を聞いているものたちの最前列中央には長子であり、先日唯一の皇帝に即位したアルバートが、その両隣には同じくシュタナートとイシュアの子でアルバートの弟と妹である親王(この帝国において女でもこの称号)が、更にその両隣には副帝格がニ体ずつが立ち、他にも皇族級のものたちが並び、最前列の両端には見知った二人の魔術師が立っている。

 2列目以降は上級王格、更に後列には王や大公等と序列通りに並んでいて、人では無い種族のものも少なからず居る。


 シュタナートは演説を終えて、最前列にまで降りてきて、まずは右端にいる老魔術師に声を掛ける。


「ハウゼン師、さすがにもう歳だから、私が行った後は体の方に十分気を付けて更に長生きしてくれ」


 シュタナートは自身の師にも当たるエドワルド・ハウゼンに対して労わる様な感じで別れの声を掛けた。


「こんな場面でジジイ扱いはやめてもらいたいものだが、まあ若、いや至聖がそう言うも最早無理も無いかな。まあ、さすがに体にガタも来てるのでその言葉もしっかり受けとめておこうか」


 ハウゼンは以前にヴェルゼで会った頃は背筋もピンと伸びて元気な老人であったが比べると、だいぶ老けて、そして小さくなっていて、その様子に時の移り変わりの無情を感じたのだった。


「すまんな、最後に気の利いたことを言えんですまんな」


 そう言うと、シュタナートは右手を差し出した。

 ハウゼンは差し出された右手を両手を取って、


「成功を心から祈るぞ」


 そう言って、両方の手でしばらく握った後、お互いに名残惜しそうに離した。

 

 そしてハウゼンのとやり取りを終えた後、その左隣に移動し、似たように互いに言葉を掛け合った。

 この行為は最前列に並ぶ最高位のものたちに、最後にシュタナート自らが直接一人一人と会話をすることで、特別な権威を与えて、シュタナートが行った後の世界の統治をやりやすくしよう、という意図がある。


 しばらく順に一人一人とのやり取りをしていき、列の中央にまで来ると、そこにはシュタナートの後を継ぐアルバートが立っている。


「ではアルバート、後は頼んだぞ。貴様には苦労を掛けるな、だが決して無理はするな、人というものには限界があるのでな」


 自身の後継者であるアルバートにも当然言葉を掛ける。


「はっ、そのお言葉心に刻みつけて、精進させて頂きます。至聖もどうか達者で」


 アルバートはそうは言っているが、「無理はするな」からの部分はあまり心に響いていない様にシュタナートには感じた。

 自分の自信家の性分が受け継がれたことに、喜ばしいと思う面もあったが、これからくるであろう大きな試練をも侮り、乗り越えることが出来ないことだろうとも思い、その状況を作り出してしまったことに、罪悪感も感じた。



アルバートとのやり取りを終えた後も、次々と他のものと言葉を交わしあい、遂に最前列の左端には腹心中の腹心とも言える人物が立っていた。

 

「し、至聖……」


 感極まっているようで、儀礼を無視してドラクル・シュタインは思わず先に声を掛けてしまった。

 その様子に若干ざわついたが、シュタナートが片手を上げると完全に静まる。


「ドラクル、貴様と別れることに特に残念に思う」


 以前からは明らかに老けて中年の域に入ってきているドラクルにシュタナートは今まで一番優しい口調で声を掛ける。


「私も鍛錬して、至聖の後を追いたいのですが……」


「ドラクルにそうして貰いたいとは思うが、貴様はとても家族思いだから、無理をしてはならん」


 彼はシュタナート並みに愛妻家であり、シュタナートとは比較にならぬ程に家族思いであるで、後追って異世界へと行くのはまあ難しい。

 別れのことも当然あるのだが、そのせいで気持ちの板挟みになり、感極まっているようでだ。


「し、至聖」

 

 シュタナートの言葉の聞くと更に感極まったのか、シュタナート抱き着く。

 これはかなり不遜で無礼な行為でドラクル程の高位の者でも処刑されてもおかしくないくらいだ。

 先ほどよりも大きな騒めき、近くに居たもはかなり驚いていたが、ドラクル本人はむしろ満足気であったので確信的だったのだろう。


「良い、赦す」


 先ほど同じように片手を上げて、そう言った。

 すると当辺りは静まり、唯一の皇帝を退位した現在でもシュタナートの言葉は絶対なので、ドラクルの罪は赦された。


「私の無礼に振る舞いに関わらず、ご寛大な御心感謝致します」


 ドラクルはそう言うように感謝の表情を浮かべたが、してやったりとした表情が隠れているのを彼のことをよく知っているシュタナートには分かり、密かに苦笑するのをこらえた。

 普段は冷静沈着なドラクルがこの様な場面で、自分にしかわからない、体を張った戯れをしたことは、これから去るシュタナートには実に感慨深い思い出になるだろう。


「ではドラクル達者でな」


「はい、至聖の方も異世界へ行ってもこの世界と同じように偉大で前代未聞のご活躍が出来ると信じております」

 

 ドラクルとのやり取りを終えると、シュタナートはアルバートの近くに来て、彼を前に出させると二人は皆と対面するような向きで並んだ。


「これで最後になるが、無責任な私の後を継いでくれた愛する息子であるアルバートのこれからを頼む」

 

「皆是非とも頼む」


 二人は広間にいる全員へと向かって命令とも懇願とも取れる言葉を大きくてよく響き渡る声でそう言った。


「はっ、ははーーっ!!」


 広間にものたちはその言葉に従う姿勢を示した。

 だがそれが一部のもの、特に副帝格等の面々にとっては一時的なものであるということがシュタナートにはわかっていた。


「では皆世話になった、私は行くとしよう」


 そう言うとシュタナートは背を向けて歩き出した。


 アルバートをはじめ、皆でシュタナートへ向けて最敬礼を行い、見送る。

 

 シュタナートは広間からの出口の前に到着すると、一度皆に向けて手を上げてから、出て行った。

 この瞬間からアルバートはこの世界の最高権力者及び最高権威者となった、しかし絶対的な権力及び権威を保持していたシュタナートにはまるで及ばないため、この瞬間より帝国の崩壊は始まることとなる。


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