新たな旅立ち1
Happy Easter!
かつては帝都と呼ばれていが、今では主が変わったため、神都と呼ばれる世界最大の都市。
その都市を見下ろす巨大な城の最上階中央にある、その主自らが親政を行う執務室、そこには煌々と装飾された双頭の不死鳥の紋章が目立つように飾られていた。
「今年に入って主だった反乱や大きな天災も無く、各地の施政も概ね上手くいってることから全世界すなわち我が帝国内は立国の混乱期から立ち直り、徐々にではありますが、安定期に入っていくものと思われます」
極めて強大な君主が居るに相応しい広く豪華な部屋で、煌びやかに装飾が施されたローブを着たシュタナートは部屋の最奥中央最上段にある巨大な机が前にある玉座に座して、前方の少し離れた場所にある長机に面した席に座する重臣たちの報告を聞いていた。
シュタナートの姿は20代前半に見え、前世の頃と殆ど瓜二つで、魔力は更に増している。
現在、彼は自身が打ち立てた世界統一帝国の絶対的な支配者となっている。
この帝国の成立をもって中世という時代が完全に終わり、多くの地域で近世という新たな歴史区分が始まるというのが後の世の歴史家たちの定説である。
史上初めて世界統一を偉業を成し遂げたため、それまで最上位の君主号であった皇帝では不足であるので、更に上位とされる”唯一の皇帝”の地位に就くに至っている。
絶大な権力及び権威を手中に収めており、シュタナートの言葉は最上位の法であり、彼自身が新世界秩序そのものと言っても良いだろう。
唯一の皇帝は神そのもの称号であり、シュタナートは神の応化身で救済の為に人の姿を取っている過ぎないとされ、更に神帝を含む全ての神の絶対の代理者なので、世俗のみならず全ての宗教をも完全に掌握していて、「唯一の皇帝のものは唯一の皇帝に他の神のものも唯一の皇帝に返せ」などとも言われている。
「大変な時期は過ぎたということで良いのか」
「はい至聖、様々な情報を総合するとそのように判断出来ます」
至聖とはシュタナートに対する尊称である。
「ふーむ、ようやくここまで来たな。皆のお陰であるな」
自分の立ち上げた国が安定するのは良いことであるので労いの言葉を掛けたが、何故かシュタナートには引っ掛かること思いがあった。
「いえいえ、これも全ては至聖のお力です」
重臣の一人が見え透いた世辞を言った。
「世辞は人を見誤せることもある、私にはせんで良いぞ」
シュタナートは元々、見え透いた世辞が嫌いな上に帝国の安定のために努力している他の者を否定する物言いだったので、声を荒げて言った。
「はっ、はい、失礼しました」
世辞を言った重臣は恐縮する。
なんせ相手は絶対的権力者なのだ。
とは言え些細なことで罰するようなシュタナートでも無い。
「他に報告は無いか?」
「はい、以上となります」
「そうか、では今回の会合を閉会とする。皆ご苦労であった、では下がってくれ」
「ははっ」
重臣たちが下がると彼らが持ってきた報告資料を見て再度確認をしている。
すると魔術に掛けられる感覚になるがそれが《通話》の魔術、しかもイシュアからであることがすすぐにわかると、その魔術を受け入れた。
『シュタナート、大事な話があるので会って話がしたい。私の方からそちらに行くの待っていてくれるか?』
『ついで行く用事があるので私の方が行こう。今日の公務を終わったしのでな』
『そうか、すまない。ではいつもの場所で待っている』
二人はそういうやり取りをして《通話》のやり取りを終えた。
「ということだ。イシュアのところへ行く」
シュタナートはそう言って部屋の中で侍ている秘書官と侍従魔術師へ伝えた。
「かしこまりました」
三人は軽く支度をして、執務室を後にする。
外には近衛兵が二名いて、部屋を警護していた。
「今からイシュアのところへ行く」
シュタナートは近衛兵に声を掛ける。
「はっ、それでは我々もお供します」
近衛兵も警護のために付いてくるが、正直それ程必要無いのが実情である。
シュタナートが身に着けているローブや装飾品の多くは極めて強い防御魔術をイシュアが付与して丹精込めて作成した物であり、ほとんどシュタナートを殺すのは不可能に近い。
しかも死亡時に自動的に発動して転生する魔術が付与された指輪すらあるのだ。
とは言え世界を支配した覇者があまりに供が少ないの不自然で、立派な見た目である近衛兵を連れるのは威厳のためには役に立っている。
城内を歩いていうと、当然臣下の者たちに出会うが、彼らがシュタナートに気が付くと、直ぐに廊下の端へと移動し、目を伏せて、かしこまった姿勢で控えた。
臣下の大部分はシュタナートに声を掛けることは勿論、見ることも禁じられている。
シュタナートへ声を掛けれる者はかなりの高位で、かなり限られた存在である。
少しの間、一行は城内を移動していると、かなり大人数の一団と遭遇する。
「これは至聖、どちらに行かれますか?」
一団の中で一番位が高そうで一番豪華な衣装を身に着けている男が声を掛けてきた。
「うむ、呼ばれてイシュアのところへ行く」
「母上のところでございますか、それはお気を付けて」
彼はシュタナートとイシュアとの間に生まれた三人の子のうちの長男であり、次期継承の第一位であり、名目的には全人類を統括する副帝でもある。
見た目の年齢は30代半ばといったところでシュタナートよりも年長に見え、容姿は良い方であるが、二人のように特別に良いとまではいかない。
彼が連れている一団は最上位ではないもののかなり高官であるが比較的若い者たちである。
「何を気を付けるのかわからんが、ところでアルバートの方は何をしているのだ?」
「はっ、私としていずれは至聖の後を継ぐ身。故にこの者たちから様々なことを学ばせて貰い、更には友誼を育み場を設けようと思っている次第です。しかしながら至聖は寿命もなければ殺すことも不可能、私が後を継ぐことなどは永遠に来ないかもしれませぬが」
「私が死ぬことが得であるようなことは言うな。まあ、ここアスラトールでは生前退位など殆ど無いが、東方ではそこまで珍しいことでは無いとのこと。帝国も安定してきたし、アルバートに帝位を譲るのはそこまで遠くは無いだろう」
「はっ、失礼しました。しかし東方では皇帝や王が退位した後も、実権を握り続けることも良くあると聞いていますが、至聖の方はいかがするつもりでしょうか?」
「口の減らん奴だ。だが良くものを知っている。まあ、権力はいずれは手放すが、はじめは徐々にかもしれんな。しかしイシュアに対してもこのくらい威勢が良ければよいが」
「いえ、さすがにそれは……」
当然のことであるが、息子であるアルバートもイシュアのことを恐れている。
「まあ、立ち話はこのくらいにするか。皆、色々と迷惑を掛けて大変だろうが、これからも私の後継者のことを宜しく頼むぞ。ではアルバート、この者たちから色々と学んで吸収するのだぞ」
「ははっ、お言葉痛み入ります」
後継者とそれを支えるだろう側近たちに激励をしてシュタナートらはその場から立ち去る。
子のことはそれなりに可愛いが、やはり事実上の不老不死の身では他の一般な親と比べれば愛情は薄い。
アルバート一行と別れた後、また少しばかり城内を移動していると、
「至聖、お久しぶりでございます」
フード付きのローブをすっぽりと被った人物が近づいてきて、深々と一礼してから、声を掛けてきた。
供の者たちはこの者に対して緊張感があるのが伺える。
「おお、エイブラか。久しぶりとい言うほど顔を合わせていないでは無いと思うが、つい数日前に会ったであろう?」
シュタナートはこの怪しげな男に対して好意的な表情と口調である。
「はい、確かに五日前にお会いしましたが、陛下に一度もお目にかかれないとなると、決して短い期間とは言えません」
ローブから覗かせる口元には長い牙があるのが見て取れ、雰囲気的にも普通の人間では無いような感じである。
「長い寿命がある癖に随分とせっかちなことだな」
とシュタナートは苦笑気味に言った。
この男は吸血鬼である。
供の者たちに緊張感が走るのは、吸血鬼が恐ろしい種族ということを本能的に理解しているからだ。
それも以前にシュタナート夫妻に捕らえられ、散々と実験された吸血鬼である。
イシュアがあまりに過酷な実験を行うものだから、同情して、何かと助け舟を出していたがきっかけで、慕うようになり、実験体から解放された後は、新生永遠たる係累魔術師団に最古参として加わり、次第に高い忠誠心が育まれていったのだった
吸血鬼なので元々かなりの力を持っていたが、イシュアの実験の副産物により更に力を強化され、この世界の全ての吸血鬼の大元である始祖から直接血を分けられた君主級の者達と同等程度の力を手に入れ、その力によってシュタナートの世界制覇、特に人材の少なかった初期の頃に大いに貢献したのだった。
そして彼がローブで全身をすっぽりと覆っているのは、弱点である日光から守るためである。
「これから任地へと赴く予定ですので、しばらく陛下とお会い出来ないので、余計にそう思います」
現在、彼は同族である吸血鬼を統括する職務に就いていて、任地へと赴くのも、この関連である。
シュタナートが興した帝国には人以外にも様々な種族を支配下に置いてある。
かつて世界を三分した旧列強種族である竜、上位巨人、ハイエルフを支配下をも置き、最強の存在である竜王すら例外では無い。
世界をここまで完全に支配したのはシュタナートが史上初である。
「そうか気を付けて行ってくれ、やはり吸血鬼の管理は君が最適だ。頼むぞ」
「ははっ、ありがとうございます。ところで陛下はこれからどちらへ」
「ああ、イシュアのところへ行く」
「あ、あのお方のところへですか……」
シュタナートの言葉を聞いた途端、エイブラの表情が曇り、怖れが見え隠れする。
あれだけのことをされたのだから当然の事だし、それにイシュアのことを良く知っている者は皆例外なく、大なり小なり怖れている。
「エイブラも一緒にどうだ? 当分イシュアと顔を合わせてなかっただろう?」
このいかつい風貌の吸血鬼が怯えているが可愛く見えたので、思わず意地悪を言ってしまった。
「も、申し訳ありません、そちらの方は勘弁して頂きたいと思います」
予想通りエイブラは断りの言葉を返す。
その返答にシュタナートは自分で誘ったことながらホッとする。
調子に乗って誘ってみたものの、イシュアには大事な話があると呼ばれたのに、余計な者を連れて行ったら、落胆して溜息でもつかれるだろう。
世界を手中に収めた支配者であるシュタナートにしては情けない話であるが、イシュアに落胆されるのは、ことのほか堪えてしまうのだった。
「そ、そうか。まあエイブラがそう言うなら、仕方ないことだ」
「はっ、折角の至聖のお誘いを無碍にしてしまって申し訳ないですが」
最初は動揺したものの付き合いの長いシュタナートの事情を察したのかエイブラは少々皮肉が入った口調で返答した。
「ところでエイブラが赴く任地での話のことであるが……」
シュタナートは誤魔化すために、他の話を切り出したのだった。
「では、任地でも体に気を付けて、達者でな」
少しの間二人は世間話をした後、シュタナートは吸血鬼であるエイブラには適切かどうか疑問が持たれる別れの言葉を述べた。
「ははっ、至聖の方もどうぞご達者で。また会える日を楽しみにしています」
エイブラと別れた後も臣下等と出くわすので適当なやり取りしながら、再び城内を移動していた。
ついで行く用事がイシュアにあるといったが、特にそういった用は無く、ただ何となくイシュアを越させるより、自分が行った方がいいかと思っただけだ。




